第一章
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松陽の助手になって一ヶ月が経とうとしていた。この一ヶ月間、何をしていたかというと主に掃除や教え子たちの机を並べたりなどをしていた。どうせなら環境が良く、施設が整っている方が勉学や剣術などをのびのびと学ぶ事が出来るだろうと二人で考えていた。だからそのために一生懸命、松下村塾を綺麗に仕立てたのだ。
「結構綺麗になりましたね」
「うん、結構頑張ったよ。私」
「助かりました。ありがとう」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれた松陽。何故か照れくさくなって俯いた。休憩ということで縁側の方に座り、これから使う教本を確認する。
「私が通ってた寺子屋の方がもっと簡単に書いてあったけど…こっちの難しくない?」
「それは私が分かりやすく教えてあげるので大丈夫です」
「お!流石先生だ」
「人生経験が豊富ですから」
クスクスと笑う松陽を見て、私も釣られて笑う。この人と居ると楽しくてしょうがない。それにこれからはどんどん子ども達も増えていく事を考えたら、この先もっと楽しい事が待っている。想像しただけで未来が少し明るく思えてきた。前のようにずっと暗くて先の見えない未来なんかよりもずっといい。
「あ、そうだ」
松陽が手をポンと叩くと同時に立ち上がった。少し奥の部屋に入り、暫くしたら書類などを持って部屋から出てきた。目をパチパチと瞬きして、その書類と松陽を交互に見つめる。
「何その書類?」
「これは入塾希望者の子達の書類です。結構集まりましたよ」
「え!ホント!この子たちが教え子になるんだぁ」
私が知らぬ間にここまで進んでいたみたいだ。いよいよ開校も間際だ。松陽が手にしている書類を受け取り、一枚一枚確認する。とりあえず名前ぐらいは覚えておかないと。そうして私が確認してる間に松陽は剣を取り、腰の帯に差して出かける準備を始めていた。書類から目を離し、松陽へと顔を向ける。
「これから何処か行くの?」
「はい。鬼が出ていると噂を耳にしたので、ちょっと鬼退治に」
「鬼退治?鬼って…どういう?」
「私もあまり詳しくは知りません。ただかなりの腕の持ち主らしいですよ」
「そんな…松陽が危ないじゃない」
「ふふ、心配いりませんよ。私は負けたことがありませんから」
そんなこと言われても、正直言って松陽の強さはよく知らない。よく知らない…じゃない。全く知らないの方が正しい。この人が今までどんな生活を送ってきたのかも知らないし、案外分からない事だらけだ。それに松陽は自分の事を語りがらない。時折見せる光のない目だけは知っているが、中々怖くて聞き出せなかった。
「取りあえず、名前は留守番お願いしますね」
「分かった…。ちゃんと帰ってきてね」
「もちろんです」
松陽はいつもの笑顔を浮かべた。それを見て安心する。きっとこの人は大丈夫だろう。いくら強い鬼が現れようとも負ける事はないと信じ、松陽が出ていった静かな部屋で、帰りを待った。
___
暫く机に突っ伏したまま、いつの間にか眠っていた。外を見ると案の定暗くなっていた。時計を確認すると18時半を過ぎていたのだ。松陽の帰りも遅いし、夕飯の用意もしていない。急いで作らなくてはと台所に向かった。あるもので簡単に炒めて作ればすぐに出来るが、松陽が帰ってくるのはいつ頃なのだろう。煮物とかの方がやっぱり喜ぶだろうか。取りあえず考えている時間が勿体無いため、冷蔵庫から材料を取り出して簡単に出来る炒め物を作る。
そして暫くし、野菜を切っている時、玄関の扉の開く音が聞こえた。松陽が帰ってきたのだ。急いで玄関に向かう。
「おかえり、松陽。遅かっ……え?後ろの子…誰?」
明らかに松陽にあぶられて気持ちよさそうに眠っている白髪頭の少年がいた。
「ふふ、聞いて驚きますよ。この少年が鬼の正体でした」
「こんな小さい子が…鬼?」
「ええ。取りあえずこの子のお家というのやらはなさそうだったので連れてきました」
「…そっか。じゃあこの子は今日から家族みたいなものね。教え子というよりは」
「それに近いようなモノになればいいですね」
布団ひいてくると松陽に告げて、空き部屋に少年の寝床を作った。松陽は私に続いて少年を抱えたまま、部屋に入る。そしてひいた布団の上にそっと少年を寝そべかした。布団を掛けてあげて、松陽と部屋を出た。
「とりあえず暫くは寝かせてあげましょう」
「うん。…あ、そうだ。あの子の名前は?聞いたの?」
「あの子の名前は坂田銀時。髪の色とお揃いの名前ですね」
微笑みながら、冗談ぽく笑う松陽。髪の色とお揃いの名前。確かに白髪だった事を思い出した。なるほどねぇと告げて、それ以外は直接あの子に聞くことにする。取りあえず銀時という男の子はそのまま寝かせておいて、お風呂を沸かし、先程作り途中だった夕飯を急いで終わらして松陽と2人で食べた。勿論、銀時の分も残しておいてある。
「あの子、結構汚れていたから先にお風呂入らせたほうがいっか」
「あの様子だと…帰る家もなかったんでしょうね」
帰る家…。私も実質あったのか、なかったのかはよく分からない。だが、まだ暮らせる家があっただけマシだったのかと思うと銀時はどんな思いして、ここまで生き抜いてきたのか。どこまで辛い思いしてきたのか。私には計り知れないのだろう。
「ちょっと私、様子見てくる」
松陽に一言ことわりを入れてから、銀時の部屋に向かった。襖を開けると銀時は目を覚まし、薄っすらと目をあけて欠伸をした。少し微笑ましくなった私は口角をあげ、襖を静かに閉めて、ちょこちょこと銀時の方に歩み寄る。
「おはよう。よく眠れた?」
「…まぁ。てか、アンタ誰?」
「あ、そっか。私の事はまだ知らなかったよね。私は名字名前。松陽の助手としてここで働かさせてもらってるんだ。よろしくね、銀時君」
「俺の名前…」
なんで知ってんだと言わんばかりの顔をしてくる。
「松陽に聞いたの。それよりも体の調子はどう?」
「…なんともねーよ」
「強がってるでしょ、君」
「っ…」
私もよく我慢していた。親に蹴られて足が物凄く痛くてアザができても、翌日には寺子屋に行って友達に心配されても痛くないの一点張りで強がっていた。だからなんとなく、昔の私と重ねてしまって銀時がそう強がってるように思ってしまった。お節介だと思いつつも無理もさせたくない。
「お風呂沸いてるよ。ゆっくり浸かってきな」
「…うん」
静かに呟き、顔を俯かせた銀時。その瞬間、何故か私は勝手に銀時を腕の中に閉じ込めていた。
「もうここでは…我慢しなくていいんだよ。好きなだけ遊んで、好きなだけ食べて、好きなだけ甘えて…それで君が幸せになるのなら…自由に生きて欲しい。もう縛られて生きなくていいから。だから…だから……笑って。銀時君。君は幸せになるために生まれてきたんだよ」
次第に涙で言葉が詰まった。こんな小さな子どもに背負わせるものが大きすぎる。だから私の前でも松陽の前だけでもいい。ただ素直に…子どもらしく過ごしてもらいたい。それを伝えるにはまだ私は未熟で不十分だけれど銀時が幸せになれればなんだって良かった。
「名前…」
銀時は私の名前を呼んで、抱きしめ返してくれる。もっと涙が溢れてきた。何故私が泣いてるんだろう。一番泣きたかったのは、今腕の中にいる小さな少年の筈なのに。
「ありがとう」
小さな手で私の涙を拭ってくれる銀時。どうしていいのか分からずに困った顔をしていた。
「もう泣くなよ。俺がアンタの事、護ってやるから」
「それは私が言うセリフでしょ」
涙を拭いながら笑いかけると銀時も口角をあげて笑う。そうだ、護ってあげるのは私のはず。年齢的にも。だけど銀時は言うことは私より1枚上手だった。
「男は女を護るもんなんだよ。たとえ年の差があってもな」
「ふふ、言うことが大人びてるよね。君は」
まるでもう何もかも経験してきた大人が言うような事をサラッと言いのける。将来大物になりそうだ。
「そこまで銀時くんが言うなら…素直に護ってもらっちゃおうかな、ふふ」
「それでいーんだよ」
やっぱり銀時は私よりも大人びていた。
***
襖の向こう側に松陽は耳を傾け、銀時と名前の会話を聞いていた。楽しそうに話す二人の声を聞いて満足気な顔をし、その場から離れたのだった。
「銀時 を松下村塾 に連れてきてよかった」
いつも本音をぶつける事があまりなかった名前が泣きながら銀時に本音を訴えかけていたのを傍で聞いていて、心の底から松陽はそう思った。涙を流せるくらい、本音が言えるくらいに心を開いて話せる相手が出来てよかった。境遇が似ていたからなのか、それは松陽自身あまり分からない。だが、これだけは言える。
「ありがとう、銀時…」
きっと名前は大丈夫だろう。何故なら坂田銀時という一人の少年に出逢えたから。
「結構綺麗になりましたね」
「うん、結構頑張ったよ。私」
「助かりました。ありがとう」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれた松陽。何故か照れくさくなって俯いた。休憩ということで縁側の方に座り、これから使う教本を確認する。
「私が通ってた寺子屋の方がもっと簡単に書いてあったけど…こっちの難しくない?」
「それは私が分かりやすく教えてあげるので大丈夫です」
「お!流石先生だ」
「人生経験が豊富ですから」
クスクスと笑う松陽を見て、私も釣られて笑う。この人と居ると楽しくてしょうがない。それにこれからはどんどん子ども達も増えていく事を考えたら、この先もっと楽しい事が待っている。想像しただけで未来が少し明るく思えてきた。前のようにずっと暗くて先の見えない未来なんかよりもずっといい。
「あ、そうだ」
松陽が手をポンと叩くと同時に立ち上がった。少し奥の部屋に入り、暫くしたら書類などを持って部屋から出てきた。目をパチパチと瞬きして、その書類と松陽を交互に見つめる。
「何その書類?」
「これは入塾希望者の子達の書類です。結構集まりましたよ」
「え!ホント!この子たちが教え子になるんだぁ」
私が知らぬ間にここまで進んでいたみたいだ。いよいよ開校も間際だ。松陽が手にしている書類を受け取り、一枚一枚確認する。とりあえず名前ぐらいは覚えておかないと。そうして私が確認してる間に松陽は剣を取り、腰の帯に差して出かける準備を始めていた。書類から目を離し、松陽へと顔を向ける。
「これから何処か行くの?」
「はい。鬼が出ていると噂を耳にしたので、ちょっと鬼退治に」
「鬼退治?鬼って…どういう?」
「私もあまり詳しくは知りません。ただかなりの腕の持ち主らしいですよ」
「そんな…松陽が危ないじゃない」
「ふふ、心配いりませんよ。私は負けたことがありませんから」
そんなこと言われても、正直言って松陽の強さはよく知らない。よく知らない…じゃない。全く知らないの方が正しい。この人が今までどんな生活を送ってきたのかも知らないし、案外分からない事だらけだ。それに松陽は自分の事を語りがらない。時折見せる光のない目だけは知っているが、中々怖くて聞き出せなかった。
「取りあえず、名前は留守番お願いしますね」
「分かった…。ちゃんと帰ってきてね」
「もちろんです」
松陽はいつもの笑顔を浮かべた。それを見て安心する。きっとこの人は大丈夫だろう。いくら強い鬼が現れようとも負ける事はないと信じ、松陽が出ていった静かな部屋で、帰りを待った。
___
暫く机に突っ伏したまま、いつの間にか眠っていた。外を見ると案の定暗くなっていた。時計を確認すると18時半を過ぎていたのだ。松陽の帰りも遅いし、夕飯の用意もしていない。急いで作らなくてはと台所に向かった。あるもので簡単に炒めて作ればすぐに出来るが、松陽が帰ってくるのはいつ頃なのだろう。煮物とかの方がやっぱり喜ぶだろうか。取りあえず考えている時間が勿体無いため、冷蔵庫から材料を取り出して簡単に出来る炒め物を作る。
そして暫くし、野菜を切っている時、玄関の扉の開く音が聞こえた。松陽が帰ってきたのだ。急いで玄関に向かう。
「おかえり、松陽。遅かっ……え?後ろの子…誰?」
明らかに松陽にあぶられて気持ちよさそうに眠っている白髪頭の少年がいた。
「ふふ、聞いて驚きますよ。この少年が鬼の正体でした」
「こんな小さい子が…鬼?」
「ええ。取りあえずこの子のお家というのやらはなさそうだったので連れてきました」
「…そっか。じゃあこの子は今日から家族みたいなものね。教え子というよりは」
「それに近いようなモノになればいいですね」
布団ひいてくると松陽に告げて、空き部屋に少年の寝床を作った。松陽は私に続いて少年を抱えたまま、部屋に入る。そしてひいた布団の上にそっと少年を寝そべかした。布団を掛けてあげて、松陽と部屋を出た。
「とりあえず暫くは寝かせてあげましょう」
「うん。…あ、そうだ。あの子の名前は?聞いたの?」
「あの子の名前は坂田銀時。髪の色とお揃いの名前ですね」
微笑みながら、冗談ぽく笑う松陽。髪の色とお揃いの名前。確かに白髪だった事を思い出した。なるほどねぇと告げて、それ以外は直接あの子に聞くことにする。取りあえず銀時という男の子はそのまま寝かせておいて、お風呂を沸かし、先程作り途中だった夕飯を急いで終わらして松陽と2人で食べた。勿論、銀時の分も残しておいてある。
「あの子、結構汚れていたから先にお風呂入らせたほうがいっか」
「あの様子だと…帰る家もなかったんでしょうね」
帰る家…。私も実質あったのか、なかったのかはよく分からない。だが、まだ暮らせる家があっただけマシだったのかと思うと銀時はどんな思いして、ここまで生き抜いてきたのか。どこまで辛い思いしてきたのか。私には計り知れないのだろう。
「ちょっと私、様子見てくる」
松陽に一言ことわりを入れてから、銀時の部屋に向かった。襖を開けると銀時は目を覚まし、薄っすらと目をあけて欠伸をした。少し微笑ましくなった私は口角をあげ、襖を静かに閉めて、ちょこちょこと銀時の方に歩み寄る。
「おはよう。よく眠れた?」
「…まぁ。てか、アンタ誰?」
「あ、そっか。私の事はまだ知らなかったよね。私は名字名前。松陽の助手としてここで働かさせてもらってるんだ。よろしくね、銀時君」
「俺の名前…」
なんで知ってんだと言わんばかりの顔をしてくる。
「松陽に聞いたの。それよりも体の調子はどう?」
「…なんともねーよ」
「強がってるでしょ、君」
「っ…」
私もよく我慢していた。親に蹴られて足が物凄く痛くてアザができても、翌日には寺子屋に行って友達に心配されても痛くないの一点張りで強がっていた。だからなんとなく、昔の私と重ねてしまって銀時がそう強がってるように思ってしまった。お節介だと思いつつも無理もさせたくない。
「お風呂沸いてるよ。ゆっくり浸かってきな」
「…うん」
静かに呟き、顔を俯かせた銀時。その瞬間、何故か私は勝手に銀時を腕の中に閉じ込めていた。
「もうここでは…我慢しなくていいんだよ。好きなだけ遊んで、好きなだけ食べて、好きなだけ甘えて…それで君が幸せになるのなら…自由に生きて欲しい。もう縛られて生きなくていいから。だから…だから……笑って。銀時君。君は幸せになるために生まれてきたんだよ」
次第に涙で言葉が詰まった。こんな小さな子どもに背負わせるものが大きすぎる。だから私の前でも松陽の前だけでもいい。ただ素直に…子どもらしく過ごしてもらいたい。それを伝えるにはまだ私は未熟で不十分だけれど銀時が幸せになれればなんだって良かった。
「名前…」
銀時は私の名前を呼んで、抱きしめ返してくれる。もっと涙が溢れてきた。何故私が泣いてるんだろう。一番泣きたかったのは、今腕の中にいる小さな少年の筈なのに。
「ありがとう」
小さな手で私の涙を拭ってくれる銀時。どうしていいのか分からずに困った顔をしていた。
「もう泣くなよ。俺がアンタの事、護ってやるから」
「それは私が言うセリフでしょ」
涙を拭いながら笑いかけると銀時も口角をあげて笑う。そうだ、護ってあげるのは私のはず。年齢的にも。だけど銀時は言うことは私より1枚上手だった。
「男は女を護るもんなんだよ。たとえ年の差があってもな」
「ふふ、言うことが大人びてるよね。君は」
まるでもう何もかも経験してきた大人が言うような事をサラッと言いのける。将来大物になりそうだ。
「そこまで銀時くんが言うなら…素直に護ってもらっちゃおうかな、ふふ」
「それでいーんだよ」
やっぱり銀時は私よりも大人びていた。
***
襖の向こう側に松陽は耳を傾け、銀時と名前の会話を聞いていた。楽しそうに話す二人の声を聞いて満足気な顔をし、その場から離れたのだった。
「
いつも本音をぶつける事があまりなかった名前が泣きながら銀時に本音を訴えかけていたのを傍で聞いていて、心の底から松陽はそう思った。涙を流せるくらい、本音が言えるくらいに心を開いて話せる相手が出来てよかった。境遇が似ていたからなのか、それは松陽自身あまり分からない。だが、これだけは言える。
「ありがとう、銀時…」
きっと名前は大丈夫だろう。何故なら坂田銀時という一人の少年に出逢えたから。