第一章
夢小説設定
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高校の始まりはこんなもんだった。
ではまず、萩原が名前に惚れた時の話をしよう。
きっかけは小学生の時。最初出逢って暫くは特に恋愛感情なんかも抱かず、ただただフツーの女友達という様に思っていた。だけどある出来事で萩原の心を虜にしたのだ。それは松田の父親が誤認逮捕されたぐらいの時。三人とも同じクラスで普通の1日を過ごしていた。だが授業を終え、帰る頃に松田がランドセルを取り出すと一枚の紙が貼られていた。そこには“人殺し”の文字が。松田の表情が一気に変わる。その表情を名前は見逃さなかった。
「陣平、何かあったの?」
松田の手に持っていたランドセルに名前は目を向けると、その文字を見て思わず声にした。
「何これ…。酷い…酷すぎるよ…」
隣りにいた松田にしか聞こえないくらいの小声で微かに震えていた。松田は自分の事より名前が気になり、心配させまいと強がりを見せる。
「別に気にしてねーよ。だからお前も気にすんな」
そんな松田に強めに静かに言い返す名前。
「気にするもん。だって大事な友達がそんな目に遭ってるんだよ?」
目を潤ませて松田を見る。松田は始めて見るその表情に驚きを隠せなかった。なんでコイツはこんなに人の為に悲しめるのか、少し不思議な感覚で何も言えない。そんな松田と名前を見兼ねて萩原も二人の所にきた。
「どーしたの?ん?これって__」
萩原がなにか言いたそうにすると、主犯であろう男子達が声を掛けてきた。
「うわっ!人殺しの息子に近寄んない方がいいぜ、萩原と名字!」
「そーだそーだ!離れろよ!」
松田は唇を噛み締めて何も言い返さなかった。ここで言い返してもどうせコイツらは聞く耳も持たないだろうと相手にしないようにしてた。ボクシングもやってるからいつでも殴れる事なら殴れるし、喧嘩するなら出来たけど、どうせ面倒な事になる。それよりも二人を巻き込んでしまってるのが申し訳なかった。
萩原は言い返そうと口を開きかけた。でもそれよりも先に名前の方が一歩先に口が開く。
「何バカな事言ってんの!?誰が陣平の近くにいないほうがいいって決めたの?それを決めるのは私達次第でしょ!!!バカな事言わないであんた達が離れればいいじゃん!私と研二は陣平から離れないもん!絶対に!!離れたりなんかしないもん!!ずっと親友だもん!」
名前は手を拳にして震えていた。それはとてつもなく怖かった。言い返されたり、殴られたり、虐められるかもしれない。だけどそれよりも松田の事を悪く言われるのだけは嫌だったのだ。萩原もその勇気ある名前の言葉に続けて言う。
「名前の言う通り。俺たちは松田から離れないよ。何があってもね」
「お前ら…」
「てことだから…二度とそんな事言ったりしたりしないで!!」
男子達は何も言えなくなり、なにか言いたげな表情して席に着いた。名前は直ぐ様松田のランドセルに付いていた紙を取り、グシャグシャにしてゴミ箱に捨てた。そんな名前と…そしてその場に居てくれた萩原に照れくさそうに松田は
「二人とも…ありがとな…」
と言った。萩原と名前は顔を見合わせてはにかんだ。
「うん!!」
名前が微笑んで大きく頷く。それを横で見てた萩原は一瞬にして心を奪われた。始めてこの子の事が好きだと気づいた。こんな友達想いで、心強くて、優しくて、勇気のある名前に惚れたのだ。
だがそんな萩原の様子に気づく素振りも見せない名前。萩原もどうせ脈ナシだと気づいていたから告白はしなかったしアプローチもしなかった。
一方松田は萩原の姉の千速が好きだったから、名前に惚れる素振りも何も見せないし、そんな感情は芽生える事はなかった。ただ頼れるカッコいい友達としか思えない。特別に女として好きなんか、もってのほかなかった。
そして当の本人も特別松田の事を男として好きなんて考えてもいなかった。友達としてそんな事を言ったまでで。だが、そんな気持ちも小学生までだった。
名前達は中学生にあがり、年頃ということもあってか男子は男子同士、女子は女子同士仲良くやってる人が大半だった。だけど松田、萩原、名前は違った。この三人だけはずっと中学でも一緒に過ごしていたのだ。そしてそれが原因である出来事が起こる。その出来事がきっかけになり、名前は松田の事を好きになった。
***
萩原は高校の入学式の思い出、そして初めて本気で好きになった初恋の出来事を目を閉じて思い出していたのち、次にあの屈辱な思いをした中学生の時の事を思い出していた。名前が松田の事を好きになった時期だ。
薄っすら目を開け、煙草を見やると気づいたらいつの間にか吸っていた煙草は小さくなっていた。それを灰皿にグリグリと押しつぶす。まだ物足りなくて箱からもう一本取り出してライターで火をつけ、煙を吐き出す。何故か今日は思い出に浸ってしまうな、なんて考えた萩原はまた目を閉じ、中学での思い出も思い返してみた。
「…名前」
そう…愛おしい名前を呟いてから。