第一章
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今でも鮮明に思い返せる遠い記憶。
萩原、松田、名前三人の幼馴染みが高校に入学した、あの時期。萩原はふと静かに目を閉じて思い返していた。あの時…名前が松田とクラスが違うと知った時の切なそうな表情が目に焼き付いて離れていない。高校を卒業して何年も経っているのに今だに鮮明に覚えてる。いつになったら消えるのだろうかと萩原は自分に呆れて口角を少し上げる。
「早く忘れちゃいいのに」
その言葉はタバコの煙と一緒に空気に溶け込み、萩原はまたタバコを口に咥えたのだった。
***
春。桜が殆ど散り始めて木が少しずつ緑色に色付いてくる頃に、ある三人の男女が高校の入学式に向かっていた。一人の女が楽しそうに口にする。
「三人とも同じクラスになれればいいね!」
その彼女の名前は名字名前__
それに答える様に一人の男も口にする。
「同じクラスになったらお祝いでご飯食べに行こっか」
ニコニコして冗談っぽく答える彼は萩原研二__
その二人に呆れたように見据えているもう一人の男は溜息混じりにこう答える。
「なんのお祝いだよ」
持ってる鞄を持ち直しながらぶっきらぼうに答える彼は松田陣平__
かと言って松田も満更ではなさそうだ。
「確かこの道を真っ直ぐ行けば着くよね」
「うん、もうすぐ着く」
「はぁ…だりぃ」
「ハハ、陣平って学校で楽しそうにしてるのってあまり見たことない」
「だって、たかが勉強するところだぜ?メカいじれんならともかく椅子に座って先公の話をまともに聞くのも飽き飽きする」
「まぁまぁいいじゃないの、俺の姉ちゃんと同じ学校だし」
「チッ…うるせぇ!」
萩原は自分の姉の事を今ここで言ったのが間違えだと心の中で慌てた。松田を元気づける為に言ったが返って隣にいた名前が逆に元気を無くしてしまった。顔を下に俯かせて歩く名前に申し訳なさが募ると同時に萩原自身も心が少しズキッと刺さった痛みを感じていた。やっぱり名前は松田の事が好きなんだと改めて身に沁みて思うのだ。
学校に着くとクラス表がデカデカと壁に貼り付けられていて、沢山の人がそこに群がり見えづらい。だが萩原は身長が高いのを武器に上からズラーと名前を見ていく。
「どうだ萩、見つけたか?俺達の名前」
「う〜ん、下の方が見えないねぇ〜。陣平ちゃんの名前はもう少しここが空いてから見ないと厳しいかな」
「私の名前は?」
「名前の名前はー…おっ、あった!7組だ」
「俺達も7組にねぇのかよ」
「今7組を凝視して見てるけど…もう下の方が見にくいからあの群れに紛れてくるわ」
「ああ、サンキュ」
萩原はズカズカと歩を進めて群れに紛れ込んでく。その場に残った名前と松田は萩原の様子を伺いながら松田はムッとした表情をした。
「いいよなーアイツ、身長高くて」
「陣平も平均男性より高い方でしょ」
「まぁそれなりにはな。でも萩はムカつくけど顔もいいから女にモテるだろ?」
「あれ〜陣平も女の子にモテたい?」
「っんなわけねーだろ!」
松田は少し顔を赤らめてムキになって返す。名前は柔らかな表情を浮かべる。
「だけど陣平も…研二に負けないくらい__」
カッコいいよ__そう名前が言いかけた途端、後ろから松田と名前の肩に腕を回して「おーす!」と元気よく挨拶してくる女声。二人は声を聞いてすぐに分かった。萩原の姉の千速だ。
「千速!」
「千速ねーさん!」
「お前達おなじクラスになれたか?」
「今、研二が見に行ってくれてるんだけど」
「てか千速はなんでここにいんだよ」
「弟達の様子を見にきたかったんだよ、悪いか?」
「別に悪かねぇけど」
先程名前にイジられた時よりも顔を紅潮させてる松田。松田自身も顔が熱いと気づいている。どうにか隠そうとするが真冬ではない為マフラーは首に巻いていない。顔を隠す物がないため、気持ちを落ち着かせようと必死だった。
「お、研二が戻ってきたぞ」
千速がそう言うと二人ともその声を聞き取り、目線を正面に戻す。萩原ははぁはぁと息を整えながらおまたせと口にする。松田と名前はその結果を早く聞かせてくれと言わんばかりに待つ。
「それでクラスは俺と名前は7組で、陣平ちゃんだけ8組だった」
「え!陣平は違うの?!」
「何度も見直したんだけどそうみたいなんだよなぁ」
「まぁそんな上手くいくわけねぇよ。ただ毎回お前達の所に邪魔するわ」
「…うん」
萩原は名前の顔を伺う。でも萩原の心を蝕むくらいに切なそうな顔をした。どうして。どうして俺だけじゃ不満なんだよ。今までにないくらい萩原はショックだった。何故その表情は松田にしか向けないんだ。松田は…俺の姉ちゃんにしか興味がないんだ。女として見てないんだ。だけど当の本人、名前もそれを知ってるから。だから萩原は何も言えなくなる。
「陣平、絶対遊びに来てね。私達も必ず行くからさ」
「おう!当たり前だ」
松田はニカッとはにかみ、名前を見つめた。名前も大きくうん!と嬉しそうに頷けば自然に顔を赤くする。嬉しそうにしてる表情を見て松田は心底安心し、名前の頭を撫でてやる。そんな二人の光景を見てる萩原にとって苦しくて辛いものだ。好きでもない女に頭を撫でる松田の自然な行動を見てるとその立場が自分であればと考えもしたが、好きな女には一番手が出せない萩原は自身の手を見て、切なげに目を細めたのだった。そんな弟の姿に気づいていた千速は何も言わず、静かにその場を去った。
「じゃあ教室に行こっか」
「そうだな、おい!萩も行くぞ!」
「ん?あ、ああ。」
「研二元気なくない?」
名前は萩原の顔を覗き込む。萩原の前髪が影になって顔が少し見えにくい。何も返答しない萩原に対し、松田は肩に手をおいた。
「萩原、大丈夫か?」
不審そうに呟いた松田に対して萩原は嘘の笑みを無理やり貼り付けて笑顔で返すのだ。
「大丈夫大丈夫、少し眠くてぼーとしていただけだから」
「なんだー、研二が珍しく気難しそうな顔してるもんだから心配しちゃった」
「ハハ、そりゃ悪かったな〜」
安堵の表情をした名前は言葉を続けた。
「研二、あまり無理しちゃ駄目だよ?」
そんな優しい声と表情で萩原はなんとも言えない気持ちになった。これだからまた好きになるんだ。
それは萩原も名前も。
想ってる人は互いに違うけど痛みも嬉しさも恋をすれば全て同じ。
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