第三章
夢小説設定
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朝、出勤して署に入り、少年課の刑事部屋に向かうと案の定昨日ガバガバと酒を飲んでたカオルさんは顔色が悪く気持ち悪そうにしていた。私は呆れた風にして声をかけた。
「おはようございます」
「…おはよぉー……」
「だから言ったじゃないですか。飲みすぎると明日支障が出るって」
「今反省してる…」
「あはは、今って」
カオルさんは自身の額に手を当てて、あーあーと唸っているだけ。こりゃ二日酔いだな。そっとしておいてあげよう。そう思い、気持ちを仕事モードへと切り替えた。それと同時に元気な声が響き渡った。
「おはよぉーー!!今日もいい朝だね」
大下さんの声だとすぐ分かり、視線を大下さんに向ける。
「おはようございます、大下さん」
「おはよ、名前ちゃん」
何故か名前を呼び合って顔を見ただけでこんなに頑張れる気が起こってしまう。大下さんの力って凄い。
「カオルは二日酔いか?」
「はい、そうみたいです。私も今さっき来たばかりですけど、ずっとこの調子です」
苦笑いして伝えると大下さんはカオルは酒癖が悪いからなと言って捜査課の方へ行ってしまった。私はそれを見送ってから瞳ちゃんにコーヒーを貰うために席を立つ。
「瞳ちゃん、私はいつものコーヒーとカオルさんの分もお願い」
「は〜い!カオルさんは二日酔いですか?」
「まぁそんなところかな、はは」
てか皆にカオルさんが二日酔いなのがバレ始めてるし。瞳ちゃんは手際よくコーヒーを淹れてくれた。有難うとお礼を言った後、2つのコーヒーを受け取りカオルさんに渡した。低い声でお礼を言われる。
「あぁ、ありがと」
「どういたしまして」
席に腰を掛けようと椅子を引いたら瞳ちゃんが小声で私を呼んできた。何かあったのかと思い、もう一度瞳ちゃんの所へ向かうともう一つコーヒーを渡された。不審に思って尋ねる。
「この分…誰の?」
「これ、大下さんに渡してください。きっと私からよりも名前さんから受け取ったら喜びますよ♪」
嬉しそうに言うもんだから否定するのも気が引けてしまう。というより何か言おうと思ったら瞳ちゃんはコーヒーを乗せたお盆を持って捜査課の皆に配りにいった。はー…と一つ溜息つき、でも内心ドキドキしながら大下さんの座ってる席に行く。煙草を吸ってるもんだから付近が煙ったくなってるがいつもの事だから気にしない。
「大下さん、コーヒーどうぞ」
「ん?あぁ、ありがとう。名前ちゃんからって珍しいね」
「え、えっとまぁ…たまには〜なんて!あはは」
返事に困ったがこう返すしか思いつかなかった。コーヒーを配り終えた瞳ちゃんは後付けするようにして、もっと返事が困る事を言う。
「そのコーヒー、大下さんのは特別名前さんが淹れたんですよ〜!ね、名前さん!」
「え!?えっと…」
驚きが隠せずに声が裏返る。瞳ちゃんに視線を向けるとウインクして定位置に戻って行ってしまった。
「そうなの?」
「あー、えっと…まぁ…。」
「そっか、ありがと。美味しいよ」
本当は嘘なのにぃ!言いたくても言えない状況に陥る。でも今更嘘ですとも言えなかった私は素直にありがとうございますと感謝の言葉しか言えない。そんな平和な時間も終わり、司令室のスピーカーから司令が流れる。
「現在、現金輸送車が襲われ盗まれて逃走した模様です。犯人はマスクを被った男、二人組。場所は伊勢佐木町四丁目です。ナンバーは横浜〇〇のにの〇〇-〇〇です。至急向かってください。繰り返します__」
「よし、全員現場へ向かってくれ」
近藤課長の一声で煙草を消し、コーヒーを一気に飲み干した大下さんやらタカさんやらがスーツを持って一斉に動き出した。少年課は案の定やることがないため、近藤課長に頼んだ。
「捜査課に協力してもいいですか?この件」
「ああ。じゃあ頼む。鈴江と行ってくれんか?カオルくんはキツそうだからね」
「了解です!鈴江さん行きましょ」
「えぇ…俺も行くの?」
「そう、行くの。もしかしたらこれでいい成績残したら捜査課になれるかもしれませんよ?」
「確かに!よし行こう!」
心の中でチョロすぎだと呆れるが、そこが鈴江さんの良いところなのかもしれない。大下さん達の後に続き、私達も追いかけた。
***
その現場に着いた。ここの周辺にいた人たちに事情聴取を聞いて周る。分かった情報を伝える為に車に戻ったらピピピと無線がなり響いた。その無線を吉井さんが取る。
「はい、こちら吉井。どうぞ」
「先程、盗まれた現金輸送車が乗り捨てられている所を発見したとの通報がありました。場所は伊勢佐木町七丁目。至急向かってください。どうぞ」
「港304、了解!」
「何だってパパ?」
「現金輸送車が見つかったらしいんだ、取りあえずそこに向かうぞ」
「ああ。」
「了解!」
急いでそちらに向かうと何故かやたらと刑事の人数が多かった。まさかまた県境に事件が起こって合同捜査になるんじゃ…。
「おうおう、やっと来たのか」
「御宅たちは?」
迷いもなく大下さんはズカッと聞いた。失礼とかそんなの関係なく、東署の言い方に少しイラッとした私は大下さんのちょっとした煽りのお陰で少し清々した。
「東署だ!」
「あ、あ〜ガリ勉小僧のね。ふーん」
「んだと!?」
「まぁまぁ。大下さんにはこの前ひどい目合わされましたからね、同僚が。」
「なんか前もこんな事なかったっけ?」
「あのマドンナの時だろ?」
「そう!その時か!」
「だから港署は嫌なんだ。こんな時によく呑気に言ってられますよねぇ〜。え〜?そこの婦人警官さんも捜査課の皆さんも」
ただトオルくんに聞いて話していただけなのに呑気と言われる始末。あ〜あ、ウザったいたらありゃしない。東署って検挙率No.1とかでのぼせ上がっていて嫌いだ。まぁ港署は“ワースト”3位だから何も言えないけど。色々ムカついて仕方なかった私は事件現場に残されていた現金輸送車を確認する。勿論現金は綺麗さっぱりに無くなっていた。そりゃそうだよな。
捜査課の皆は東署に喧嘩売られてるみたいで、それのお相手をするためこの場から少し離れた所にいて居なくなっていた。暫く見続けていると東署の警ら課の人が一人近づいてきたのだ。
「あの、港署の婦人警官さんですか?」
「え、ええ。まぁそんなところですけど」
何故か薄気味悪く感じた。東署は堅苦しい人ばかりのイメージだけどホントにその通りな感じがする。大下さんが言ってたガリ勉小僧と言ってたのを思い出していた。ピッタリなあだ名じゃないか。
「もしよければ食事どうですか?」
「え、え?私と…ですか?」
自身で指を指してもう一度確かめた。流石にそんな事言われると思いもしなかった私は戸惑う。それでそんなのお構いなしに頷いて話を進める東署の警ら課さん。
「どうせこの前みたいに合同捜査になるだろうし、ゆっくり食事しながら話しするのもどうかなと」
「あの、ごめんなさい。私食事するときは仕事の話はしたくないんです」
嘘ではある。大下さん達なら全然仕事の話だろうがプライベートの話だろうが出来るが東署の人とはどうしてか嫌な気分がしそうで、居心地悪そうで…。でも断っても相手は頑なに折れない。私の手を掴み始めた。ギョッとする。刑事にもこんなの居るんだと。てか勉強のしすぎで頭イッテるんじゃないか?
「はぁ…?あ、あのー?」
「お願いします、仕事の話はしませんから食事だけでも」
断りにくすぎて暫く返す返事に困っていると大下さんが来た。
「名前ちゃーん、一旦署に戻るって…っておい!名前ちゃんに触れんじゃねーよ」
手を無理やり離すように大下さんは私の手を引っ張った。そのまま後ろに倒れ込んで大下さんにぶつかり、寄りかかる様な体勢になる。
「行くぞ」
「は、はい!」
大下さんは私を見下ろす。その目が少し怖く見えた私はこれ以外の返事は返せなかった。引っ張られたまま、大下さんの後ろに着いていく。だけど東署の人は大きな声で私達に向けるように、話しかけてくる。
「一目惚れしたんです!あの時」
「…え?」
その勢いの声に私も大下さんも足がとまって殆どの人の視線がそちらに振り返った。
「東署と港署が合同捜査になったとき、貴女に一目惚れしたんです」
「ウソ…?」
一気にその現場は静まりかえった。ただ思わぬ告白に口があんぐりと開いたままの私と、悔しそうに顔を顰める大下さんの表情、それと相手の刑事さんの真剣な顔が時間の流れを止めたようだった。