第二章
夢小説設定
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お店に入り席に座った。
「好きなの食べていいよ〜!」
多分相当腹を空かせているに違いない。だからこそ好きなのを沢山食べて欲しいのだ。ほんと、この子の親は親失格だと思う。子どもはロボットでもペットでも召使いでもなんでもない。たった一人の人間なのだから大事に育ててあげる義務は親にはある。
「お姉ちゃん、これでもいい?」
メニューにまだ成長しきっていない可愛らしい丸みのおびた指先で指した。私は勿論!と大きく頷き、自分もメニューの中から食べたいものを選び注文した。そしてウェイターさんが去ったあと、昇くんに再び聞く。
「昇くんのお父さんとお母さんの下の名前なんていうの?」
そう聞くと下を俯き答えにくそうにしていた。本当はこんなこと聞かれたくないはずなのだが、でもどうしても調査には必要なのだ。
「お父さんは笹木英二。お母さんは僕が小さいときからもう居なかったから分かんない」
「そ、そう…。……英二…笹木、英二…」
笹木英二といえば横羽組の幹部だった気がする。ってことはやっぱりこの子は銀星会幹部の息子。急いで電話して捜査課に伝えないと。
「ちょっと一回署に電話してもいいかな?少しの間ここで待っててくれる?」
「僕一人じゃ嫌だ!」
「昇くん…、お願い。ほんの少しの間だけなの」
頑なに首を縦に振らず、イエスとも言わない。怖い気持ちも分かるけど署に伝えないと大下さんたちが困ってしまう。もしかしたら重要になってくる可能性だって大いにあるからこそ早めに伝えなければ。そう困っていると、店のドアが開き、店員のいらっしゃいませの声が聞こえると同時に大下さんの声が聞こえた。
「名前ちゃんは…名前ちゃんは…」
「ユージ、あそこにいるの名前たちじゃねーか?」
「ん?あ、ホントだ、でかしたタカ!!」
「どういたしまして」
「名前ちゃん!」
どこか慌てた様子で駆け寄ってきた二人。そして店のウインドウで外をキョロキョロと見ていた。
「大下さんたち!もしかして二人とも分かってたんですか?!」
「ああ。だからお前達が狙われるかもしれねーから飛んできたんだ」
「う、嘘…狙われる…?」
「ユージ!!名前!!伏せろ!」
タカさんが声を荒げ、直ぐ様昇くんに駆けつけ庇う様にした。その上から大下さんが私達を庇うように覆い被さった途端、ガラス戸がバリンッと音を立てた。
「ヤロウッ!名前ちゃん達を狙いやがって…」
「この店から一歩も出るんじゃねーぞ!」
「は、はい!」
二人は店から出て、犯人がいる別の建物の方に向かっていった。私は唖然としたが正気をとり戻し急いで指示を出す。
「皆さん!もしまた弾が飛んできたら危ないので奥のカウンターの方へ移動してください!ウエイターさんたちは案内をお願いします!」
移動させた後、怪我はないかと確認した上、特にそういう怪我した客や店員はいなかったので安心した。暫く経った後、店にトオルくんや吉井さんやナカさん達が入ってきた。私は事情を説明したのち、スーツの中から拳銃を取り出し、弾の数を見る。ここは引いては駄目だ。そう思い、声を振り絞り伝えた。
「私も大下さんたちのあと、追いかけます。昇くんの事はお願いします」
本当は店から出るなとタカさんに言われたが黙って待ってはいられない。まず狙われたのは私達なのだから私が動かないでどうするんだ。
「名前ちゃん一人じゃ危険だから俺もついてく。吉井さんたちよろしく頼みます」
「よし分かった!」
「行こう」
「ごめん、トオルくん。じゃあ行こっか」
店を出て私達は急いで追いかけようにも、二人は何処まで追いかけたのかが分からない。
「俺、あっち行ってみるよ」
「うん、お願いします」
とりあえず真っ直ぐ行こうとして裏道の細い道路を渡ろうとした途端、猛スピードでこちらに向かってくる車を発見する。避けるにも避けられないスピードで頭が真っ白になった頃にはもう横からドンと庇うように押し出され、一緒に倒れ込んだ。
「おい大丈夫か!?」
「お…大下さん…。大丈夫です、少し掠っただけ」
「…クソッ。逃げ足の速ぇやつ」
「名前!ユージ!…無事か?」
「ああ。だけど完全にこれで分かったな。奴らは名前ちゃんとあの子どもを狙っている事が」
「笹木も息子を殺させようとしてんだから、そーとうココがやられてんな」
タカさんは自身の頭をトントンと人差し指で指し、ココの場所を示す。
「まぁとにかく、名前ちゃんと昇くんは署にいた方がいい。あとは俺たちで解決するからナカさんたちに送ってもらって」
「でも…」
「いいからユージの言う通りにしてなさい。いいね?」
「…分かりました」
「それとあと、何かもし分かれば連絡頼む」
「はい」
「よし。立てるか?」
大下さんはニコリと笑って満足そうな顔をした。大下さんに支えられながら立ち上がるとズキッと足が痙ったような痛みが走り、自然に身体がよろけて大下さんに倒れ込んでしまう。
「大丈夫。俺が支えてやるから、そのまま身を任せて」
優しい声色でいう大下さんに、胸がドキドキしてく。触れ合ってる身体の部分が今はとても熱い。
「とりあえず医務室で見てもらって、署で安静にしてるんだぞ」
今は言うことを聞いてくれと言わんばかりで私は大人しく二人の指示に従う事しか出来なかった。頷いて同意してナカさんたちのもとへ向かい、車を出してもらう。後部座席に乗る前に私は大下さんにお礼を言い忘れ、慌てて言う。
「あの、大下さん。先程は助けてくれてありがとうございました」
「ああ」
口角を上げて白い歯を見せて笑う大下さんの姿をみて、やっとの思いで落ち着いた心臓がまたバクバクと音を立て始める。お礼を告げたあと、店に残っていた昇くんと大人しく乗った。
その場に残された二人は__
「それより、よく名前の危機に気づいたな」
「まぁね。好きな女ぐらい守れねぇーとダサいだろ?」
「…好きな女に意識しすぎても自分がキツイだけだ」
「…まっ、それもそうだ。だけど守りたいもんは命掛けても守ってやりたいからさ」
「命掛けてもねぇ〜。ほんっとお前がキラキラして見えるよ」
「そりゃどうも」
「よし、まぁとりあえず横羽組を当たってみるか」
「ああ。そうだな」
一方車内の中での私達は、この笹木英二での話になった。勿論その息子の昇くんが眠っている時に。
「いくらなんでも自分の息子を殺そうなんて」
「世の中そういう狂った大人がウジャウジャいるもんなのよ」
「ほんとに。ソイツの気が知れないもんだな」
「一生かけても分かりませんよ。その人の気持ちなんか…」
「それもそうだ」
そういう人は親をやる資格なんかない。酷く過去の事を思い出して、暗い気持ちになった。隣で気持ちよさそうな顔して眠っている昇くんの表情をみると、余計に守ってやりたい気持ちがより一層大きくなったのだった。