第一章
夢小説設定
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山のように高く積み上がってる資料のファイルを一枚一枚丁寧に目を通していく。過去の少年少女が犯した事例を見ていき、別紙にメモする。何故メモをしているかというと今度中学校で非行問題の説明会をやる羽目になった。警ら課が行けば良いような気もするが何故か少年課の私とカオルさんで行くのが決まった。というより勝手に松村課長に指名されたのだ。少年少女の面倒なんかよく仕事で見ているもんだが、前に出て説明するのは
窓を見ればもう辺りは暗くなっていて時計を見るともう夕方の6時になっていた。そろそろ大下さんも署に帰ってくるのだろうか。
「あーあ、もうやってらんないわよね。こんなこと」
「ほんと!こんだけ文字を見てれば目が腐りそうです」
「鈴江さんも少しは手伝ってよね」
「手伝ってって言われても、俺分かんないし」
「あなたそれでも誇り高き刑事なの?」
「…」
「まぁ、カオルさんあと少しで終わりますから頑張りましょー。鈴江さん、終わった資料を棚の方に戻してもらってもいいですか?」
「んっ、了解!名前ちゃんは優しいね」
「何よ、私は優しくないって言いたいわけ?!」
今にもカオルさんは鈴江さんに飛びかかりそうになっている。それ程この作業がストレスなのだろう。分からないでもないけど…。それよりも鈴江さんよりも松村課長の方が楽な気がしなくもない。バーゲンがあるから後は任せたわよと言って帰っちゃったし。こんな自由なの、港署くらいだろうな。
「ねぇそう言えばさ、今朝大下さんから今晩どうって誘われてたわよね?」
カオルさんはニヤニヤ笑いながら少し小声で言った。私は微笑する。
「名前ちゃんは正直大下さんの事どう思ってるの?」
カオルさんのニヤニヤが止まらない。なんて答えればいいのか分からないけど、多分求めてる答えは好きですよということなのかな…。
「どうもこうも…大下さんのことは大事な先輩ですよ」
「そーゆー事じゃないわよ。もっとこーさっ好きとか気になってるとか異性として」
「俺もそれ気になる」
「鈴江さんは黙って!これは女の話なのっ」
鈴江さんは首を突っ込んだら、まさかの怒られるという可哀想な立場で苦笑いするしか出来なかった。女の話と言ってもカオルさんの声が大きい気がして普通に周りの人にも聞こえそうだ。そうこうしてるうちに警ら課の武田くんが来た。
「何話してんすか、三人で」
不審そうな顔した武田くんにも容赦なくカオルさんは睨みつけた。
「だからこれは女同士の話!男は黙って」
「あのね、カオルさん、私はそんな別に…」
「良いのよ良いのよ、嘘つかないで!絶対言わないから、ね?だから教えて?」
駄目だこれは。絶対カオルさんは私が大下さんの事、異性として好きって思われている。これは何言っても信用してくれなさそうだ。だから少し大きめな声で言う。
「だから!私は別に大下さんの事は好きじゃありません!!」
私がそう伝えるとカオルさんも鈴江さんも武田くんも近藤課長も一気に私に視線が集まり、そしてその皆の視線が今丁度帰ってきた捜査課のみんなに紛れてる大下さんの方に向かれた。大下さんは歩みを止め、私の方を見る。ヤバい…そんなつもりで言ったわけじゃないけど今凄くいけない状況な気がする。
「ちょ、名前ちゃん冗談よね?」
大下さんは右手でおいおいと震えて訪ねてきた。
「え、あ、いやその…あのですね」
「どんまいユージ。また女に振られたな」
「え、ホントなの?」
「あー、もう!!あとでちゃんと説明しますから!だから先にチャッチャッと報告を済ましてご飯行きましょ!」
「あ、ああ。」
ショックが隠しきれないようでトボトボと刑事部屋にいき、課長の机に移動した。ごめんなさい大下さん。ホントにそんなつもりで言ったわけじゃないんです。つくづく日本語って難しいなと感じた。
「んふふふ、とことん面白くなってきたじゃないのぉ」
悪企みをするイタズラっ子のようにカオルさんは呟いた。
***
現在車の中で大下さんと二人っきりで暫く無言が続いた。話しかけようと思っても口をあけるがすぐ閉ざして言葉を発さないで終わる。中々言い出せず仕舞いで、根性のない自分に呆れが差す。チラリと横を向き、大下さんの様子を伺うように横顔を見る。いつもは殆ど真正面からだったし、殆どがサングラスを掛けている顔しか見てなかった。だからやけにサングラスも掛けていなくて、普段見ない大下さんの横顔が新鮮で何故か心臓がドクッと跳ねた気がしてどうも落ち着かなかった。なんだろうこの気持ち。まるで小学生の時にあったあの好きな人を想っている時によく起きる現象とよく似ている。
「でさ、名前ちゃん」
突然大下さんが話し始めてビックリし声が裏返ぎみながら返事を返した。
「はっ、はい…」
「さっきの事なんだけど」
「あーあの件ですよね!えっと…上手く説明は出来ないんですけど__」
不器用ながらに一生懸命伝えた。そうすると大下さんはブッと吹き出して笑った。
「なんだ。俺ホントに名前ちゃんに嫌われたのかと思って心配したんだぜ?」
「心配かけてごめんなさい。大下さんは“先輩として”好きですから」
「そっか。良かった」
自分でそう言っといて“先輩として”が引っ掛かった。大下さんは嬉しそうに笑って私に微笑み返す。私も大下さんに安心してという意味も込めて、微笑み返したのだ。
***
お洒落なバーに入り、カウンターへ座った。
「飲み物は何になさいますか?」
「じゃあバーボンで」
「私はマティーニでお願いします」
「かしこまりました」
注文し終えた後、大下さんは優しい笑み浮かべ、頬杖をついて呟いた。
「ここ名前ちゃんと来たかったんだ」
「私と…ですか?」
「ああ。」
「でもなんで私と?」
「
「んー、確かに…。それもそうですね、ふふっ」
そうこう話していたらお酒が置かれる。
「乾杯しよっか」
私はそれに同意してグラスとグラスを軽くぶつける。心地よくガラスのカンっという音がなり、まるで大人の時間を示しているかのように感じた。バー独特の淡いランプの光、うっすらするアルコールの香りなど、雰囲気だけで酔いそうな気分。
「ここでは大下さんじゃなくて勇次って読んでよ」
「そ、そんな先輩に向かって気安く呼びにくいですよー」
「気にしなくていいからさ」
「んー……ゆ、ゆうじ…さん?」
一瞬大下さん__勇次さんが目を見開き、そっぽ顔を逸らされた。若干耳が赤いように感じたがただの自分の思い上がりなのだろうか。
「こ、これで良いですか?勇次さん…」
「うん…それで良い」
なんか勇次さん、話し方も表情もお洒落というか、とても大人っぽく見える。まだまだガキに感じる自分が勇次さんの事を簡単に好きなんて感じてしまって良いのだろうか。そして一緒に飲みに行くのも許される事なのか。…てか好きって…。やっぱり私、異性として勇次さんのこと、好きって感じてるんだ。ボーと見つめていると勇次さんがフッと笑う。
「どうした?もう酔った?」
「あ、いや…。……ねぇ、勇次さん」
「ん?どした?」
「あとで…踊ってくれませんか?一緒に」
勇次さんは驚きが隠せないといった表情で私を見る。自分はお酒のせいなのか、いつもなら絶対言わない事を勢いにして口にした。
「いつもより積極的じゃないの。いいよ、名前ちゃんが望むなら」
「…でも」
「でも?」
「こういうバーで踊った事ないので、エスコートしてくれませんか?」
余裕の笑みを浮かべる勇次さん。
「もちろん。任せて」
どうしよう勇次さん。いつもならマティーニぐらいだけじゃ酔わないはずなのに…。あなたといると自然にフワフワした気分になるの。