第四章(最終章)
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大下たちは犯人の家族や友人関係などにあたってみるが、最近は家族にもろくに連絡もとっていないみたいだった。前住んでたアパートにも行ったが2年くらい前に引っ越したみたいで家も分からない。そこの大家に聞いても引っ越し先は分からず何も手掛かりがなかった。そんな中、時間は一刻一刻と過ぎていき夜の11時になる。あと一時間で居場所を見つけなければ名前が殺されてしまう。港署管内でも非常に焦っていた。大佐川の前科の事が詳しく書いてある資料がまだあるはずなのだが、中々見つからず探し続けている。
その中で特に焦っていたのは大下だった。自分の追ったヤマがまさか名前に被害を与えてしまっている罪悪感、そして昨日の夜の事で非常に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。好きなやつを傷つけてしまってばかりで、自分のせいだと追い込んでいた。
「クソ…あと一時間か…何か……なにか手当てはねぇーのか俺…。考えろ…」
大下は独り言を呟く。低く切羽詰まったような声で目を固く閉じた。あの事件の時の事を思い出そうとする。そうすると一つ何かあの時の事を思い出したのだ。確かあの時、他に二人ほど仲間がいたはずだ。そいつ等の家に行けばもしかしたら分かるかもしれない。大下は車の無線機を手に取り、司令室に伝える。
「こちら港303。どうぞ」
「こちら港署司令室。どうぞ」
「良美ちゃん、大至急資料探してくれてる人達に大佐川と一緒に銀行強盗した奴らを調べてもらうように頼んでくれないか?確か2人ほどいたはずなんだ。どうぞ」
「港署司令室、了解」
良美は大下からその連絡を受け取った後、司令室から出て資料を探してくれていた鈴江や武田たちに伝えた。そう伝えると武田はあっ!と何か思い出した顔をして、一つのファイルをペラペラと素早くめくっていく。
「それならここの何処かに載っていたはず!……これだ、大下さんに伝えてきます!」
急いで司令室の中に入り込む。近藤課長もそのみんなの慌てようを見て悟り、課長も司令室の中に入った。武田はマイクを自身の口元に寄せてほぼ大声で伝える。
「こちら港署。大下さん!ありましたよ!!大佐川と一緒に銀行強盗を起こした奴らの資料!」
「こちら大下。でかした武田!名前と住所教えてもらっていいか?」
「はい、一人の名前は木々田。二人目の名前は浜中。木々田の住所は本牧〇〇丁目の〇〇アパート2階で〇〇号室。浜中の住所は元町〇〇丁目の〇〇マンション5階で〇〇号室です!どうぞ」
「港303、了解。サンキュ」
連絡を取り終えた後、大下は勿論、港署管内にいる全員と捜査を進めている捜査課も時計を見た。あと残り約30分。心臓の鼓動が早まる。
「待ってろよ名前ちゃん…」
大下はアクセルをグッと踏み込み、ここから近かった木々田のアパートへ向かった。
一方名前は__
今、男は外に何かを買い出しに行っている。縛られているベッドの真っ先の壁に掛けられている時計を見ると時刻は夜11時45分。残り15分程しかなくなっていたのだ。やばい、このままでは殺される。焦りと危機感が一気に押し寄せ、太めの紐で縛られていた腕を見上げながら見る。なんとか力を出せば紐が緩くなりほどけるのではないかと考えた私は腕に今までに込めたことのない力を出し、紐を緩めようとした。そしてとうとうそれを繰り返していると目に見えるように明らかに腕がほどけるくらいにまで紐を緩めることが出来た。だからと言ってこのまま外に出て、あの男に出食わしたら一発で殺されるだろう。少しの間だけは長居して……大下さんが来てくれるのを信じて待つ。それが一番安全な気がする。大下さんはきっと助けに来てくれる。大丈夫だ、こういうときに好きな人を信じなくてはどうするんだ私。信じて待てば勝利の女神は私に微笑んでくれるだろう。
「大下…勇次…」
愛しい名前を暗い部屋の中でたった一人、呟く。不思議とその名前を言っただけで心が強くなれた気がする。頑張れる気がするのだ。大下さんが恋しい。あなたに触れたい、感じたい。そして抱きしめてほしい。そんな想いをするのは、考えるだけなら…悪くはないよね。
ガチャと扉が開く音が聞こえる。男が帰ってきた。
「そろそろだね、君とお別れするの」
「ええ、随分とあなたには一日世話になったわ」
「フッ君はいつも強気だね」
「あなたは弱気過ぎるわ、とっとと私のことなんか殺せばいいのに殺す勇気でもないのかしら?意気地なしね」
わざと気に障る言い方をする。そうすると私が思い描いていたそのまんまの通り、まるでドラマみたいに動いてくれた男。怒りを露わにした表情で私に突っかかってきた。ほぼ私の上にいる男に目掛けて思い切り足を振り上げ、蹴っ飛ばした。先程縛られていた腕の紐を緩めていたのでスポリと綺麗に抜ける。男が痛がってる隙にベッドから降りて足にも縛られていた紐を急いで解く。解き終わり、玄関の方に向かうが一足遅かったのか男は私を力強く腕を引く。抵抗するが中々男の力には敵わなかった。そのままベッドに押し倒される。
「いや!やめて!!」
腕をベッドに押し付けられ、私の着ていたワイシャツに手が掛けられ、引き裂こうと男はその手に力を入れてボタンが一つ二つとどんどん外れ始めた。ブラが露わになり、恐怖で冷や汗が止まらない。…襲われる。
「おお…したさん…」
助けを呼ぶかのように名前を呼ぶとドアが勢いよく開き、銃声の音がバンッと鳴り響いた。それと同時に男はグワっと声を荒げ、ベッドの下へ転がり落ちた。そちらに目線を向ける余裕は無くて目を瞑ったままで身動きも取れない。だが何かが物凄い速さでこちらに駆け寄ってきて、ベッドが振動する。それに驚き、目を開けてみると見覚えのあるスーツに背中。そう、ずっと求めていた大下さんだった。私を庇うように男に銃を向け続け、背中を向けられたまま。続けて来たタカさんがその男に手錠を掛けた。大下さんは何も言わず、振り向かずスーツを脱いで私に渡してきた。ワイシャツがはだけているからこれを着ろという意味なのが大下さんの背中で伝わり、素直に応じてスーツを受け取りそれを羽織った。
「この野郎っ…!名前に手を出しやがって!!タダじゃおかねぇーぞ…」
そう言って男を何発か殴る。私はその言葉で何故か涙が出そうになった。いつも大下さんは私のことを守ってくれる。そんな彼の背中が本当にカッコよくて何も言えなくなる。ありがとうという感謝と嬉しさとやっぱり好きだと思わせてくれるには充分だ。
「ユージ、これくらいでいいだろ…。あとは署でだ」
何度も男に対して殴っていた大下さんをタカさんは止めた。大下さんもそれに応じて大人しくなる。そしてとうとう私に顔を向けてくれた大下さん。何も言わずにこちらに歩みより、ベッドにそっと腰掛ける。
「ちゃんと名前ちゃんの事守れなくて悪かった。…怖かったよな」
大下さんの香りで包まれてるスーツをグッと握る。
「大下さんは守ってくれましたよ、私の事。充分なまでに、必要以上に守ってくれました。ありがとうございます」
そう必死に伝えるが後半は声が震えて上手く言えなかった気がする。頭にポンポンと手が置かれ、いつもの安心感が戻った。
***
大下さんとアパートの部屋から出て、階段を降りる。そこには救急車が止まっていた。
「名前ちゃんの為に呼んどいたんだ。精神ケアも必要だろ?あと手足も少し内出血してる」
「わざわざありがとうございます」
救急車に乗ろうと向かうが大下さんは大きな声で待ってと言った。私はそれに振り返ると同時にギュッと大下さんに抱きしめられたのだ。
「昨日のことも謝りたかったんだ。ごめんな」
大下さんのワイシャツの上からだからか、いつもより余計に筋肉のゴツっとたくましい男らしさが肌に身に沁みて感じる。その安心感に私は首を横に振る。
「昨日の女性はナンパ成功した人?」
大下さんは気まずそうな顔して首をゆっくり頷かせた。
「…悪かった」
「んーん。悲しかったけど…しょうがないですよ。アレは大下さんからしてなかったし」
何も言わずに私の頭を優しく撫で続けるだけ。私は少し上を向いて大下さんに視線を送る。
「大下さん、あの
その答えに大下さんは首をゆっくりと横に振り、薄っすらと笑みを浮かべ、私に目を向ける。この感じ、バーで踊った時の様な気分。
「その言葉は、名前ちゃんに伝える為にとっておいた」
私は何も口には出さず見つめ返したまま。優しく微笑んだ大下さんは噛み締めるように次の言葉を言った。
「好きだ。…名前ちゃんが好きだ」
頬に涙がスーと流れ落ちる。ずっと大下さんから欲しかった言葉。待ち望んでいた言葉。私も今までの想いを全てぶつけるように
「私も…私も大下さんが大好きです」
と呟く。
「付き合ってくれないか?俺と」
「もちろんです。喜んで…」
溢れ出した涙が中々止まらない。嬉しくて止まらないのだ。大下さんはずっと真っ直ぐに私だけを見ていた。だから私も大下さん以外は何も視界にはいれまいとただずっと見つめ返す。静かに二人は瞼を降ろすとどちらからともなくキスを交わした。ずっと唇には出来なかったけど、これからはいつでも出来る。
唇が離れ、互いに目を開けて微笑みあった。もう一度キスを交わして、今までの触れられなかった分をぶつけるかの様に何度も何度もキスをする。とても幸せな気分だ。そして誰よりも…
「愛してます」
大下さんは嬉しそうに大好きな笑顔で笑った。
「俺も愛してる」
末永く、この幸せが続きますように__
【ラブロマンス】 完