第四章(最終章)
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「取りあえず、一度大下に電話するか」
突然男はそう言った。受話器を取り自身の耳にあてて恐らく港署の電話番号であろう、数字を入力する。でも男はあっ、と何か思い出したかのように声を上げた。私はそれに対して驚いた。
「な、何?」
「念の為にガムテープを君の口に貼っ付けておこうかなって」
「別に叫んだりなんかしないわよ。そんなことしたら殺されるの分かってるから」
「ふーん。でも刑事ってあんまり信用できないんだ、俺」
引き出しからガムテープを取り出し、私が縛り付けられているベッドに座り込む。
「君、結構可愛い顔してるね」
「アンタに言われてもちっとも嬉しくなんかないわ」
男を睨みつけながらそう言うと、なにか踏み躙ったのか怒りを露わにした顔をする。するとバチンと音を立て頬に痛みが走った。
「…クッ……イッタイわね!本当の事言っただけじゃない!」
「うるさい!!次俺に逆らったら殺すぞ」
拳銃の銃口を私に突き付け言った。これはマジだと悟り、溜息を漏らし分かったわよと呟く。
「やるなら早くそのガムテープで口止めてくれない?これ以上このままにされるとまた気に障る事言っちゃうかもしれないから」
「随分強気な女なんだな」
「…さぁ?人によるわ」
男は無言になり私の口にガムテームを貼り始めた。少し息がしにくくなりキツイけど、あのまま殺されるよりかはマシだと思えるようになった。
港署では__
大下と真山は署に戻った。
「課長、電話番号は?」
「これだ」
電話番号の書かれた紙切れを大下に渡す。急いで大下は自分の席に戻り、電話番号を入力する。その様子を港署にいる皆が周りに集まった。耳を傾ける人がいたり、逆探の用意をしたり、テープを取る準備をしたりなど様々だ。大下はコール音を聞いている時、暫く落ち着かない様子だった。ポケットに手を突っ込むクセは直らない。だけどこれが今の落ち着きを保てる。
コール音がしなくなり、ガチャと音がする。出た合図だ。
「もしもし、港署の大下ですが」
『大下さん?覚えてます?僕です』
「名前言わなきゃ分かるわけねぇだろ」
『大佐川ですよ』
「大佐川……!あの銀行強盗の時の奴か」
『思い出してくれました?』
「ああ。で、用件はなんだ」
『そちらに女刑事さん、一人居ないでしょ?その女刑事さんは僕の傍に今居るんですよ』
「…名前は無事なんだろうな?!何も手出してねぇよな?あ…?お前…捕まえたらただじゃおかねぇーぞ…」
『勿論何もしてませんよ〜。“今”…はね』
「声を聞かせろ…」
『ちょっと生憎声が出せない状況なんで』
「テメェ…」
『まぁ、ただ僕はアンタを困らせたかっただけ。大切なもの失えば死ぬ気で探すだろ?それを見たいだけなんで。せいぜい頑張ってくださいね。時間は今日の夜の11時59分まで彼女は生きさせといてあげます。ただ今日の終わりを告げる時間になったら彼女を殺します。では』
電話が切れ、司令室の方へ顔を向ける。だが良美は首を横に振った。逆探は出来なかったと言う事だ。
「クソ…大佐川の野郎…」
大下は電話相手の男の事を一度パクったことがあった。男はその時暮らしていく金が無くて銀行強盗をしたが、そこを丁度通りかかった大下は銃声の音が聞こえ急いでその銀行に入り逮捕した。ただその出来事が今日の事件の引き金となってしまう。男の人生は捕まった後はめちゃくちゃになり、今回大下に復讐する事に決めたのだ。
「ユージ、過去に大佐川っていう奴と何かあったのか?」
鷹山はそう尋ねる。大下は頷き、過去にあったことを話す。近藤課長もそれを聞いていて瞳に指示を出した。
「瞳ちゃん、前科の資料で大佐川の奴について探してもらってもいいかね?」
「はい」
「大下…名前くんが誘拐されたのはお前関係の事だが、お前のせいではない。あんまり自分を責めるんじゃないぞ。こういうときこそじっくり行け。いいな?」
「…はい」
現在の名前の様子は__
男は電話が終わった直後、私に貼っ付けていたガムテープを剥がしてくれた。正直大下さんの声を聞きたかったなと思う自分と昨日の事を思い出して悔しい気持ちになって声が聞きたくないと思ってる自分も居て複雑だった。それよりガムテープをすぐに剥がしてくれた男に対して私は不審に思い、思わず声を掛けた。
「ねぇ、もしかしたら私、突然大声上げるかもしれないのにいいの?ガムテープを貼り付けなくて」
「別に。だってアンタそうしたら殺されるの分かってるって言ったじゃん」
「なんだ、信用してくれてるんだ」
「そういう訳じゃない」
「じゃあどうして?」
「どうせ夜12時にはアンタは死ぬんだから」
「それが遅かれ早かれ関係ないって事ね」
「ああ。そういうこと」
今の時刻は昼の1時だった。昨日の夜から何も食べてなかったけど不思議とお腹は空かなかった。それよりもどうしても昨日の大下さんの方がずっと気にしてしまう。もしかしたら大下さんは私に全く興味がなくなってあの女性の事が好きになったのかもしれない。
「もしかしたら、大下さん…私の事何とも思ってなくて助けに着てくれるか分からないわよ?」
「いや、それはないな」
「なんで分かるの?電話でなんか言われたの?」
「すげー低い声で慌てたような声出して…。ハハッ、そのマヌケ顔を見てみたいくらいだ」
どうしてそんな慌てた声なんか…。
「なんて言ってたの?彼は」
「え〜?ハハハ、無事か?手出してないか?捕まえたらただじゃおかないって言ってキレてんの。ウケるよなぁ」
どうしてそんな心配してくれるの?
後輩だから?知り合いだから?同じ仕事仲間だから?刑事としての義務?
それとも…。
わからないよ、大下さんの気持ちなんか。さっぱり分からない。どう思ってくれてるの。ねぇ大下さん、今あなたは私に会ったら一番最初に何て言葉をかけてくれるの。私だったら…。