第四章(最終章)
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意識を取り戻し、目を開ける。辺りを見回すがそこには私には知らない場所であり、知らないベッドの上だった。多分、私を襲った犯人の自宅だろう。腕は手錠されて足も身動きできないように太い縄が巻かれていた。状況把握してきた頃、ドアがガチャと開いた音がして視線をそちらに向ける。多分30代くらいの男だ。
「あ、目覚めたんだ」
「アンタ、誰?」
そう聞くと男は買ってきた物をテーブルに置いて、私の鞄から警察手帳を出して言った。
「別に。名前は教える意味ないでしょ?」
教える意味ありありなんですけど、この状況から。それで名前は言わなかったが動機のようなものは吐いてくれた。
「君の
「それは恨みの方で?」
「まぁそんなところ」
淡々と話す口ぶりを見て正直呆れた。多分これは何言っても通用しない気がしたからこれ以上は何も言わない。
「ところで確認したいんだけど、君は大下の彼女だよね?」
「はぁ?私は彼女でも何でもないの。あの人はただの仕事での先輩。それ以上でもそれ以下でもないの」
「あれ?そうなの?てっきりあんな仲よさげだから付き合ってるのかと思った。ほら、よく撮れてるでしょ?」
そう言って1枚の写真を見せてきた。これは山下公園で大下さんの頬に私がキスしていた写真だったのだ。何処から盗撮していたんだ、この男。
「ま、いいや。とりあえずアンタを拉致ればいずれか大下は来るでしょ?その時にアンタの事…ククッ…ワクワクしてくるな」
不気味な笑い方をして顔の口角が自然に上がっているこの男。何を考えているか気になったけど、どうせろくでもない事を考えていると悟った。そして男はガムテープを手にして私のもとへ歩み寄ってくる。
「そのガムテープでなにする気?」
「ちょっと電話するから、騒がれないように君の口に貼るだけ。大丈夫、電話終わったらすぐに外してあげるから」
ベッドに横たわってる私の上に馬乗りしてガムテープを私の口に貼り付けた。手足身動き出来ない私は抵抗しても無駄だと思い、無抵抗のままそれに従った。
一方港署では__
カオルは朝っぱらからずっと名前の電話を掛けていた。だがずっとコールを鳴らしても電話口から機械音のような声しか返ってこない。とっくのとうに出勤時間は過ぎていて松村課長も鈴江も心配していた。そして昨日その場に居合わせた瞳も良美も。
「やっぱり出ないわ…。松村課長、私名前ちゃんの家に行ってきます。何かあれば署に連絡するようにします」
「ええ。分かった。頼むわねカオルくん」
署には異様な空気が漂っている。そんな中、大下と鷹山が出勤してきた。カオルは慌てて大下に目を向けて伝えた。
「大下さん大変よ。名前ちゃんに何度も電話してるのに出ないの。とっくに出勤時間も過ぎてるし。ねぇ大下さん、大体あなたが昨日他の女と遊んでいなかったらこんな事にはならなかったのかもしれないのよ!どれだけあの現場を見て名前ちゃんが悲しんだと思うの?私の胸で泣きじゃくっていたくらいよ?!あなただって名前ちゃんが一番好きなんでしょ?それならその女好き、どうにかしなさいよ!一番好きな名前ちゃんに絞りなさいよ!!もーこのバカ!!」
大下はそのカオルの声色と表情で何も声に出すことが出来なかった。ただずっと名前が音信不通で、昨日の出来事で悲しんでいたくらいと言うのを聞いていても経ってもいられなくなり、横を通り過ぎようとしたカオルに声を振り絞って掛けた。
「カオル!」
その声に振り向いたカオルは次の大下の言葉を待っていた。だけど中々言い出しにくそうな大下を見ていてカオルは痺れを切らし助け舟を出すかのように質問する。
「これから名前ちゃんの家に行くわ。大下さんは行く?」
「ああ。俺も行く」
近藤課長はその二人のやり取りをいつもの定位置で見守っていた。大下は近藤課長に視線を向けると近藤課長は行けと促すように指示した。大下は一度頭を下げてからカオルと署をあとにする。
***
名前のマンションの部屋に着いた二人はインターホンを押し、ドアをノックした。だが一向に出る気配はない。先程念の為に大家から借りた鍵を部屋のドアの鍵穴に入れて回す。ガチャと音を立てドアを開けて中に入る。そこには人の気配もないし、寧ろ昨日は帰ってきた様子もなさそうな雰囲気だった。
「家にもいないって事は何かあったのかしら」
「そうとしか考えられねぇだろ…クソッ…俺の馬鹿野郎……」
かなり自分を責めている大下を見ていたカオルは声をかけずにはいられなかった。
「大下さん、確かに昨日あんな事なければ無事に仕事にきていたかもしれない。だけどね、きっとこれはその出来事とは何も関係ないと思う。名前ちゃんは真面目だからよっぽどの事がない限り、仕事を無断で休むワケないわ。これは多分誘拐されたに違いない。だからあまり自分を責めちゃだめよ」
拳が震えてる大下の手をそっと包み込むようにしてカオルは告げると名前の固定電話からチリリリリンとコールがなり始めた。急いで大下は受話器を取り耳に当てる。カオルはその受話器に耳を寄せて話を聞く。その電話の主が近藤課長からだった。
『大下と真山くん、一度署に戻ってこい。さっき署に一本の電話がきて大下に用があるとの事だ。でも相手は名前くんからではない』
「分かりました。すぐ戻ります」
電話を切り、二人とも車に乗り込んだ。車内ではその電話の相手について話し合っていた。
「ねぇ大下さんに用があるって事は少なからず大下さんに関係ある話じゃないの?」
「多分な。きっとその電話は名前ちゃんに関わっているはずだ。俺に恨みがある奴が名前ちゃんを誘拐した可能性が高いな」
「…そうね」
「なぁカオル。昨日って名前ちゃんは一人で帰ったか?」
「ええ。お店には一緒に行ったけど結局最後一人で帰っちゃったの。お金だけ置いてね」
「…そうか」
「ここまで言えば名前ちゃんの気持ち、分かるでしょ?名前ちゃんはあなたに夢中なのよ。ただあの子はたった一言の言葉が関係を崩してしまうんじゃないかって考えて、怯えてずっと言えないだけなの。だから大下さん、あなたから…」
「分かってる。薄々分かってたよ、名前ちゃんの気持ちぐらい」
「じゃあなんで?」
「…まさに“こういう事”に巻き込みたくなかったんだ」
「え?」
「今日みたいな事。きっと俺の事恨んでるやつなんか百人くらいザッといるだろ。それでいつか好きな奴がそんな目に合うなんて考えたら何も言い出せなかったんだ。だけどこんな事になっちまって…」
「大下さん…」
「まぁこれで決心がついたよ。名前ちゃんに伝えようってな。ちゃんと言葉で」
「うん、それで一番あの子の近くにいてあげて守ってあげた方がよっぽど良いわ。互いが満足できるでしょうしね」
大下はそれ以降口には出さなかった。これ以上は直接名前に伝える事だと思ったから。この誘拐事件を必ず解決して、救って、それで想いを伝える。大下はそう考え、そして何より名前の無事を祈っていた。