第四章(最終章)
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あれから一ヶ月経ったが相変わらずいつも通りに過ごしていた。特に大きな事件もあったわけでもないし、ずーと事件がなかったわけでもないし。充実して過ごせている。日か徐々に縮まっているのが早くなってきて、もう18時には殆どが真っ暗。今日はこれと言って少年課は事件がなく、そして…大下さんは非番であった。
「ねぇ名前ちゃ〜ん、今日の夜空いてる?」
「空いてますよ〜。何かありましたか?」
「いやね〜、ホントはずっと名前ちゃんと瞳ちゃんと良美ちゃんと私でご飯に行きたかったんだけど、殆ど名前ちゃんは大下さんに誘われて、いない日が多かったじゃない?だから今日はその大下さんが非番だから誘うチャンスかなと思って!今晩女子会でもしない?」
「あ〜そういうことですか。でもカオルさんに誘ってくれていたら私いつでも行きますよ?」
「誘ったのに大下さんが先約で駄目って断られた事何回あると思ってるのよ」
「それはすみません…」
「まぁとにかく!今日は女子皆で食べに行きましょ!もう二人には誘っているから♪」
「了解です」
「でも全員が仕事終わるのが9時半頃だけど大丈夫?」
「はい、今日お昼遅めに食べたもんなのであまりお腹空いてなくて」
「んふふ、じゃあ丁度良さそうね!」
「そうですね!」
久しぶりに女子会なんてやると聞いたら楽しみで仕方なかった。たまにはやっぱり女の子と食事して話したい。でも大下さんとも勿論楽しいのは言わずもがななんだけど。女の子同士で世間話するのは一番盛り上がる。それが私はとても好きだ。恋バナしたり仕事の話したり学生時代の話をしたりなど…。
「いいな〜女子会なんて。俺も行きたい」
「鈴江さんは駄目に決まってるでしょ!」
「あはは。今度鈴江さんも一緒にご飯行きましょうね」
「ホントに!?でも大下さんに怒られそう」
「なんで大下さんに?」
「え?あ、いやいや!こっちの話」
「ふふ、変なの」
「変なのは余計だよー名前ちゃーん」
「あは、ごめんなさい」
「何よ何よ?あんたたち。そんな仲良かったけ?」
「そんな変わらないと思いますけど?」
「そうそう」
「そうかしら」
「「うんうん」」
そんな調子で仕事を終え、瞳ちゃんと良美ちゃんとご飯に行った。
***
「__カオルさん、あんまり今日は飲み過ぎたら駄目ですよ?」
「なんのなんの!大丈夫よ私は!これでも誇り高き港署少年課の美人刑事ですから、アハハハ」
「もう酔ってる様にしか見えないんですけど」
「「ですよねぇ〜」」
「何よ〜、今日はひっっさしぶりの女子会なのよ?楽しまなきゃ!……ん?」
カオルさんは一つ顔を変えて少し遠くの方を凝視するように見ていた。それに釣られ私達もそちらへ向く。
「あれって…」
カオルさんは気まずそうに声にする。それを私が続いて口にした。
「……大下さん…」
「その隣に歩いてるのって明らかに女性ですよね?」
「…?名前ちゃん?平気?」
「名前さん…?」
何も答えずに大下さんを見ていた。だけどどうやらあちらはこちらに気づいている様子はない。その女性は私とは真逆で少しギャルっぽい派手なワンピースを着て、メイクが濃くて何度も男性と遊んでるのが見た目からして分かる。ああいう少女を少年課の事件で何回か保護したことあるから何となく検討はついていた。そんなのはお構いなしに大下さんたちは楽しそうに話していた。別に大下さんは彼氏ではないけど、でも何故か悲しくて悔しくて、色んな感情がゴチャゴチャになり一言では言い表しにくい。
そしてその女性に大下さんは柵に押し付けられ、まさかの口にキスをした。目が自然に見開き、目尻が熱くなる。
「あ、あのヤロウ!名前ちゃんがいるってのに!」
カオルさんの声も耳に届かなかった。完全に私は身体がフリーズしている。大下さんはチラリとそのカオルさんの声に気付いたのか、こちらを見てきた。すると完全に目が合い、慌てた様子で彼女の肩を掴んで押しのけ、誤解を解くかの為に私の方に近寄ってくる。
「名前ちゃん、いや、これは…」
大下さんは手をヒラヒラさせながら言う。何故か不思議と足は後ろに下がり首をフルフルと振った。何も…見てない。何も見てない!
そう思うと勝手に私は身体の向きを変えて、走り出した__
カオルは名前を呼び止めたが、そのまま走っていってしまった。名前に向けていた心配の視線を次は後ろを振り返り、大下を見るとその目には怒りが含まっていた。
「大下さん!アンタ最低ね!」
「そうです!見損ないました!」
「いくら女が好きでも、本命の
「その女好き、どうにかしなさいよ!バカ!!」
大下は困って、戸惑っているだけ。頭の中はどうしようで埋まってる。拳を握りしめ、歯を食いしばった。そんなのお構いなしに女性群は走っていった名前を追いかけに行く。折角の女子会が台無しになったようでカオルは何処か寂しそうな顔をした。
__そんな私は後ろで声が聞こえるが何を言ってるのか全く聞き取れなかった。
暫く無我夢中で走っていると後ろからデカイ声でカオルさんが呼ぶ声が聞こえる。
「名前ちゃーーーん!!!!!!待って!!」
その声にごく自然に足が止まる。頬に勝手に流れ落ちていた涙を手で擦ってカオルさん達の方を向いた。
「そ…そんな大声で呼ばないでくださいよ…。私は別に…大丈夫ですから……」
カオルさんは私をギュッと抱き寄せて、頭をポンポンと撫でられる。その行動に戸惑い身体は硬直する。でも本当に凄く安心するような声で大丈夫…大丈夫よ…と言ってくれた。何故かその時にホンット昔に母に抱きしめられた事を思い出していた。こうやって優しく抱きしめてくれて、大丈夫だからねって言っていつも私はそれに救われていた。今となっては音信不通で消息不明だけど、母に会いたいなんて考える私は人肌が恋しかったのかな。その母親の面影を先輩のカオルさんに重ねるのは流石に可笑しいよね。でも甘えたい。いっぱい涙を流して、甘えさせてほしかった私は色んな感情が混じりに混ざってカオルさんの胸の中で泣いた。大人なんだからとか恥ずかしいとかそんなの全部吹っ切れるくらいに。大下さんの事、家族の事、そして過去に出逢ったあの小林刑事の事で涙が枯れるくらいまで泣き喚いていた。
***
私が落ち着いた後、レストランに入り皆でお酒を頼んだ。酒の入ったグラスが皆の元へ置かれ乾杯をする。
「まぁ今日は沢山飲みましょ!名前ちゃんは遠慮せずに食べていいからね」
「は、はい」
「じゃあ毎日お疲れ様!乾杯!」
「カンパーイ」
三人に気を使わせてるみたいで申し訳なかった。カオルさんが明るく振る舞ってくれるのを見て、今すぐ土下座して謝りたいくらい。とりあえずグラスを四人で上に上げてグラス同士を軽くぶつける。皆は飲み始めたが私はどうしてもあの大下さんたちの光景が忘れられずフラッシュバックして、とても飲むような気分ではなかった。自然と結露が出来ているグラスを力強く握っていて下を俯いてた。そして咄嗟に鞄の中からお金を出し、みんなの前で謝った。
「本当にごめんなさい!先に失礼します!」
飛び出すように席を立ち、店内から出た。
追いかけようとした瞳は席を立つが、それをカオルは止めた。
「今はそっとしてあげた方がいいみたい。追いかけてあの子を追い込んだら可哀想だわ。とっても今辛い気持ちだと思うから。そっとしておいてあげましょ」
一人でボーと上の空の気分で、ただ帰路を辿ってるだけだった。ずっと頭の中からあの光景が離れずにどんどん自分自身を蝕んでいく。あの時告白していたらまた違う結果になっていたのかなとか、大下さんの隣にいれたのは私かもしれないと思うと後悔しかない。もっと早く伝えればよかった。あとの結果が怖くて怯んでかれこれあれから一ヶ月も経ってしまったから。一つ溜め息を吐いた途端、聞き覚えのない男声が私に話しかけてきた。
「お姉さん、今一人ですか?」
「え?」
後ろを振り向く前に首元にドンッと強い衝撃が走った。そのまま身体に力が入らなくなる。最後にはその声をかけてきた男の顔をうっすらとぼやけている目で見てから意識を手放した。