第三章
夢小説設定
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署に戻ると丁度タカさん達も帰ってきたみたいでもう一人の犯人を取り捕まえていた。
「割と今回は大物じゃなかったな」
「ああ。コイツらもそんな度胸がねぇ奴らだから落としのナカさんがじっくり聴取すればすぐに動機は吐くだろ」
「そうだな」
「銀行強盗して捕まったのに、よく懲りずに現金輸送車を襲いましたよね」
「確かに。若いから切り替えが早ぇんじゃないの?」
「うん、それもそうだ」
「よし、あとは拳銃を何処で手に入れたか聞き出せば終わりだ。でもまぁ前科の時と同じはずだからすぐ終わるだろ」
あとは落としのナカさんに聴取を任せて、仕事終わりのコーヒーを瞳ちゃんから頂いた。甘くて美味しい。けど何故か何処かいつもより苦く感じられたが気持ちの問題なのだろうか。暫くすると一本の電話がなる。
「もしもし、港署です」
『名前さんですか?あの、東署の_』
「ああ〜、あなたですか。どうしましたか?」
『いや、この勝負の事で』
「勝負って…。あのどうするんですか?引き分けで終わりましたが」
電話で話している所に大下さんやカオルさんまでもが興味深そうな顔してこちらに来た。受話器の声を聞くためにカオルさんは顔を近づけて聞き、大下さんは変わってくれと言わんばかりの顔をしてる。が、私はそれを待ってくれと手で阻止するようにして答えた。
『潔く諦めます。貴女の事は』
「それはどうも」
『あそこで言い掛けた言葉で何となく察していましたから。きっと貴女は僕達が勝ったとしても、そう素直には受けてくれないでしょうしね。貴女は僕よりも大下さんがいいんでしょ?』
「…はい。そうです」
『じゃあ元々勝負する前から決まってた結果でしたね。すみません』
「いいえ。あのでも素直に一目惚れしたと言われたときは驚きましたが…嬉しかったですよ。こんな私の事を好意を寄せてくれて」
『あは、でももっと近くにも貴女に好意寄せてる方はいると思いますよ。貴女が気づいてないだけで』
「そうですかね?」
「そうですよ。…あっ、ではそろそろ切りますね。忙しい中すみませんでした」
返事を返す前にガチャと音を立てて電話が途切れた。カオルさんはつまらなそうな顔して席に戻る。だが大下さんは暫く黙ったままだった。でも凄く深刻そうに考えている表情をしていた。カオルさんはそれに気づき、明るく振る舞う。
「でもまぁ〜、名前ちゃんの事奪われなくて良かったじゃない!東署の奴に名前ちゃんが取られちゃっていたら今頃大変だったかもよ?ね、大下さん」
大下さんは少し笑ってコクコク頷いただけ。心配になった私は大下さん?と問い掛けると突然私に向き直る。
「名前ちゃん、ちょっと山下公園で散歩しながら話さない?」
突拍子も無く、そう言う大下さんを不思議に思ったが、話したい事があるような表情だったから私はその誘いに乗った。
「いいですよ」
丁度外は星が見えるくらいに暗くなってきた頃。少し机を整理し、鞄を持って大下さんと署を出た。
***
海の直ぐ側なだけあって潮の匂いが鼻腔を擽る。そして海風に髪が揺れる。それをごく自然に髪を耳に掛けた。山下公園にはカップルが沢山いて何処かいたたまれなくなる。途中の自動販売機でお互いに缶コーヒーを買ってゆっくり散歩しながら話した。
「そういえば何で私の事誘ったんですか?」
素直に気になった事を尋ねる。でも答えづらそうな表情をした大下さん。まるで何か隠し事してるみたい。
「ん〜、ちょっと二人きりでデートしたかっただけ」
「で、デート?!」
「嫌だったか?」
「いやいや全然!」
大袈裟なくらいに首を横に振る。ただ驚いただけ。ホント純粋に驚いただけなのだ。デートなんて事言われるなんて思ってもいなかったから。
「…
「少なくとも仕事仲間には見えないかもね」
少し複雑な気持ちになり顔を俯かせる。大下さんと付き合っていたら、もっと自信持って隣を歩けるけど、だけど今は自信を持って隣を歩けない。こんなカッコいい人の横は私なんか似合わないし、私を選んでくれるとも言い難い話だ。そしてとても突拍子のないような話だけど、たまにタカさんと大下さんが話してるのが聞こえて気になっていたから今この二人きりのチャンスだから聞いた。
「あの、大下さんって…本命の方がいてもナンパとかって……するんですか?」
驚いたっていうのが丸わかり分かるってぐらいに目を見開いて、ただこちらを見つめる大下さん。
「それ聞いちゃう?」
笑って誤魔化すようにするから、私は少しムッとして言う。
「気になったから聞いてるんです!よくタカさんとそういう話しているじゃないですか」
「あ、聞こえてた?」
「少し…ですけどね」
親指と人差し指をほんの少し隙間を空けて言うと、そっかと言って前を向き直した大下さん。
「タイプがいたらね」
「へぇ〜。やっぱりそうなんだ」
でも、と大下さんは後を付け足すように呟く。
「男はね、本気で好きな女には安々と手を出せないもんだ。もし手を出せたとしてもほんの少しの隙ぐらい。頭を撫でてやるとか。勿論抱くなんて事なんかもってのほか一番出来ない事だし」
「じゃあ、ナンパとかで捕まえられた女の人は遊びみたいなもんなんですか?」
「遊びっていうと人聞き悪いけどなぁ」
「あ、すみません」
「いや。間違ってはいないけど」
「男の人って皆そんなもんなのかな」
「人によるさ」
確かに人によって愛し方なんか皆違うよね。
「だけど好きな女が傍にいると理性が一番保てなくなる。でも嫌われたくないから一番保たないといけないんだけどね」
その“保たない”の話を聞いた瞬間、あの朝の出来事を思い出した。あの時大下さんはそーすると俺が保たないからなんて言って半ば私を無理矢理起こした。あの出来事と少し重なった。だけど余計に分からなくなる。
「好き…って言葉は言います?そのナンパした女性には」
「言わないよ。それは本命ちゃん用に取っておくの」
「そこはしっかりしてるんですねぇ」
大下さんは私の事、一体どう想っているのかな。
「ねぇ大下さん」
「ん?」
私は背伸びをして大下さんのほっぺにキスした。
「ど、どうしたの名前ちゃん…」
「なんとなくしたかっただけ。ふふ、あまり気にしないでください。私なりのナンパ…みたいなもんですから」
今はこれだけでいい。私はこれ以上大下さんの事を知ってしまったら色々歯止めが聞かなくなって、勢いに任せて告白までしてしまいそうだ。もう少しゆっくりでいいじゃない。そう思っていた。
ただ自分の考えが甘かった。遅すぎた為か、1ヶ月後思わぬ事が起きた。