君と僕の遠回り
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「あのさ、突然で悪いんだけど、今日の夜空いてるか? 前髪切るって約束してたろ? 今日どうかなって思って」
という、翔ちゃんからのメッセージをアプリが受信したのは、レンさんに相談した次の日だった。
久しぶりの翔ちゃんの家だと少しドキドキしながら、「空いてるよ! 何時頃行けばいい?」と返信。
すると、「多分、7時頃。帰ったら連絡入れる」とすぐに返ってきた。
OKと添えられたスタンプを送信してアプリを閉じる。
あ、ヤバイ。想像以上にテンション上がってる。
……今日きっかけに元に戻れるかな?
少しの期待と少しの不安を混ぜながら仕事を終えて家で待っていると、「ただいま」と翔ちゃんからのメッセージが届いた。
「お帰り」と送信して、スマートフォンを握ったまま玄関を出て施錠する。
階段を使って二つ上の階へあがると、いつもはなんてことない心臓がやけに脈打っていた。
あー、ダメだ、緊張してる。
翔ちゃんの部屋の前に着いて、インターホンを鳴らす。
するとすぐにドアが開いて、「よう」と翔ちゃんが顔を出した。
「お疲れ様。翔ちゃん、もしかして玄関で待ってた?」
「おう」
冗談で言ったのに、翔ちゃんは普通に返してきたので、驚いて頬が熱くなった。
少しフリーズしていると「ほら、入れよ」と促されて、「あ、お邪魔いたします」といつもよりかしこまってしまった。
自分でもなんでだろうと思っていると、「なにかしこまってんだよ」と彼にも笑われてしまった。
「ごめんな、中々前髪切ってやれなくて」
「謝らないでよ、忙しいの知ってるから。もうすぐ映画公開だし、お正月も近いし」
「ありがとな。理解ある幼馴染みがいて、俺は幸せ者だな」
嬉しそうに笑った翔ちゃんが、すごく眩しい。
ドキドキが止まらない。
靴を脱いで、洗面所に向かう翔ちゃんについていく。
たった数週来なかっただけなのに、少し懐かしく感じてしまう。
それだけ、翔ちゃんのとこに来てたってことか。
「大晦日は、今年も歌合戦とカウントダウンだけ?」
「そうそう。あ、ライブのチケット——」
「取ったよ」
「流石、抜かりないな、初音は」
「翔ちゃんのファン一号を舐めてもらっちゃ困る!」
「ハハ、そうだったな」
破顔した翔ちゃんは、洗面台の電気を付けて私に鏡の前に立つように促す。
鏡に写った私と翔ちゃんは、パッと見は同じ背丈。
目線が同じことがやっぱり嬉しい。つい、ニヤケそうになる。
翔ちゃんはハサミと櫛を持って、「いつもと同じくらいでいいか?」と訊いてきた。
「うん。お願いします」と答えると、翔ちゃんの手が私の前髪に伸びてきた。
「ん? シャンプー変えた?」
「え、変えたけど、わかるの? 匂いキツイ?」
「いや、匂いはキツくねえよ。こんなもんだろ。ただ、前に髪弄った時となんか違う匂いな気が……悪い、なんか変態みたいだな。忘れてくれ」
「翔ちゃんがそういうのちゃんと気づく人ってわかってるし、気にしないよ。むしろ、気づいてもらえ、て……」
そこまで言って、言おうとした言葉を飲み込む。
好きって言ってるように聞こえちゃわないかな……?
そう思っていると、「気づいてもらえて……?」と、翔ちゃんが悪戯っぽい顔で鏡越しにこっちを見る。
「な、なんでもない! 忘れて!」
「そこまで言ったなら言えよ」
先がわかってるくせに、笑いを堪えた翔ちゃんの声が催促してくる。
すごく恥ずかしいんだけど! 顔熱いし‼︎
「言えよ。気づいてもらえて何だって?」
「意地悪! 翔ちゃん意地悪! 気づいてもらえて嬉しいです‼︎ これで満足⁉︎」
「おー、めちゃくちゃ顔赤いな」
「うっさい! 黙って!」
そう言うと、翔ちゃんは忍び笑いをする。
うう、なんか負けた気分だ。
「じゃ、切るから動くなよ」
「うん」
さっきまで可笑しそうに笑ってたのに、翔ちゃんは真剣な顔になった。
その真剣な顔が至近距離で私を──私の前髪をじっと見るから、胸が高鳴って仕方ない。
翔ちゃんのこういう表情には、毎回ドキドキしてしまう。
「よしっ、終わり」
前髪を切り終えて、翔ちゃんは満足そうな顔で私の前髪を軽く整える。
「ありがと」と返す私の顔は、未だに赤い。
「おう。なあ、まだ時間あるか?」
「うん」
「ケーキあるんだけど、食ってかねぇ?」
そういう彼の顔がやけに真面目で、それを少し不思議に思いながら「うん、食べる」と返す。
何でもない日なのに、なんでケーキがあるんだろ? とも思いながら、「先にリビングで待ってろ」との彼の言に従ってリビングに向かった。
ソファに座って待っていると、翔ちゃんがチーズケーキを持ってきた。
翔ちゃんはそれをテーブルに置いて、「飲み物何にする?」と訊いてくる。
「んー、紅茶かな」
「了解。先に食っててもいいぞ」
「ううん、待ってる」
「サンキュ」
翔ちゃんは嬉しそうな顔をして、またキッチンの方に戻る。
数分してマグカップ2つとティーポットを持って、翔ちゃんは戻ってきた。
それをテーブルに置きながら、「この紅茶、那月がくれたんだ」と話す。
「那月くんセレクトなら、味は間違いないね」
「だな。もうちょい蒸らす」
翔ちゃんはスマートフォンのタイマーをセットして、私の隣に腰を下ろした。
距離はいつもと一緒なのに、今日はなんだか変に緊張してしまう。
久しぶりだから?
それとも、私が変に意識してるだけ?
「あのさ」
「ん?」
「今日、謝りたいことあって呼んだんだ。最近、なんか俺、可笑しかっただろ? ごめん」
「いいよ。ただ、一個だけ訊きたい」
自覚はあったんだと思いながら、一方で気になると叫ぶ心に従うことにした。
回りくどいことせずに、どストレートな方が確かに私たちには合っている気がするから。
「なんだ?」
「私、何かした? だから、避けてた?」
「それはない! 俺が勝手に整理つかなくて変になってただけで、お前は何も悪くない!」
「そっか。ならよかった」
すぐに否定してくれて、なんだかすごく安心した。
なにかしちゃったんじゃないかって、ずっと不安だったから。
ていうか、待って。
これって、もしかしちゃうのかな?
いやいやいやいや、落ち着け、私。
先走るな。
現実はそんなに甘くない!
「それとさ、俺も訊きたいことあるんだけど」
「うん?」
私が首を傾げた瞬間、アラームが鳴った。
邪魔をされたというように翔ちゃんは苦笑いを浮かべ、アラームを止めて紅茶を注いでくれた。
「とりあえず、食おうぜ」
「うん、ありがとう。いただきます」
手を合わせて、早速チーズケーキにフォークを入れ一口食べる。
翔ちゃんと私のお気に入りのチーズケーキ。
きっと、翔ちゃんがお詫びのつもりでわざわざ買ってきたんだろう。
嬉しくて、いつもよりも美味しく感じた。
「それで翔ちゃん、訊きたいことって、なに?」
そう尋ねると、翔ちゃんはフォークをお皿に置いた。
一口紅茶を飲んだ後、ふっと息を吐き出して意を決したようにこちらを見た。
「お前、好きな奴いんのか?」
「え」
突然すぎて、頭が追いつかない。
「だから、好きな奴いるのか?」ともう一度問われて、ようやく言葉の意味を理解した頭で少し考えて答えた。
「……な、内緒!」
「いるんだな?」
「秘密です! ていうか、なんで急にそんなこと訊いてくるの?」
「実は昨日、初音とレンが話してるカフェに俺もいてさ、ちょっと会話が聞こえちまったんだ。ごめん」
その事実に驚きを隠せなくて目を見開きながら、「ま、待って! どの辺り聞いたの?」と問い詰める。
「えっと」と記憶を探るように、翔ちゃんは上の方に視線をやった。
「『好きだけど言えるわけない』とか言ってたのが聞こえた。席離れてたし、聞こえたのはそこだけだ。不可抗力とはいえ、盗み聞きしたみたいになって本当にごめんな」
「ううん。そんなにあの時声が大きかったんだね……。恥ずかしい……」
よかったような、悪かったような。
まあ、よかったということにしておこう。
ふうと息を吐き出して心を落ち着かせようとしたが、「で、誰なんだよ?」と問われて再び心臓が跳ねた。
「え⁉︎ 訊くの⁉︎」
「訊く。俺の知ってる奴?」
「……そうです」
好きな人がいると、バレてしまっているなら仕方ない。
そう思って、翔ちゃんが好きだとバレてしまってもいいやと言うつもりで好きな人の特徴を並べた。
「かっこよくて、男気があって、優しくて、でもちゃんと怒ってくれる人だよ。翔ちゃんも、よく知ってる人」
「そっか、すごい好きなんだな、その人のこと」
「なんでそう思うの?」
「顔に書いてある」
そう言って、優しい顔で見つめてくる翔ちゃん。
その表情に、少し寂しさが混じっているような気がする。
これは、気づかれなかったのだろうか……?
「俺も好きな奴いるんだ」
「え、初耳⁉︎」
まさか、翔ちゃんの好きな人にまで話が発展すると思わなくて彼を凝視する。
「えっと、誰ですか?」と遠慮がちに訊くと、彼はすごく真剣な目でこちらを見つめた。
「俺が好きなのは、初音だ」
「へ……?」
「だから、俺は初音が好きだ!」
目は真剣なまま、ほんの少し頬を赤くして翔ちゃんは言った。
私は、目から溢れそうになっている涙を必死で堪える。
告白されたのが嫌だったと勘違いしたのか、翔ちゃんが焦ったように語り始めた。
「ごめん、お前が好きな人いるってわかってるのに告白して。でも、気持ち伝えないままで終わりは嫌だって思ったんだ。お前を困らせるだけだってわかってる。ただの俺のエゴだよな、本当に、ごめん」
あ、無理、泣く。
そう思った時には遅くて、ボロボロと涙が落ちていった。
嬉しいのに、なんで泣くかな? ああ、翔ちゃんすごく焦ってるじゃん! 止まれ!
「本当にごめん‼︎ もういっそ殴ってくれ!」
「ま、待って、ちょ、ちょっと、待って! 涙、止め、るから! と、とりあえず、ティッシュ!」
「お、おう」
差し出されたボックスティッシュから一枚取って、鼻をかんだ。
うん、なんか私最高にかっこ悪いけどいいや、知らない。
という、翔ちゃんからのメッセージをアプリが受信したのは、レンさんに相談した次の日だった。
久しぶりの翔ちゃんの家だと少しドキドキしながら、「空いてるよ! 何時頃行けばいい?」と返信。
すると、「多分、7時頃。帰ったら連絡入れる」とすぐに返ってきた。
OKと添えられたスタンプを送信してアプリを閉じる。
あ、ヤバイ。想像以上にテンション上がってる。
……今日きっかけに元に戻れるかな?
少しの期待と少しの不安を混ぜながら仕事を終えて家で待っていると、「ただいま」と翔ちゃんからのメッセージが届いた。
「お帰り」と送信して、スマートフォンを握ったまま玄関を出て施錠する。
階段を使って二つ上の階へあがると、いつもはなんてことない心臓がやけに脈打っていた。
あー、ダメだ、緊張してる。
翔ちゃんの部屋の前に着いて、インターホンを鳴らす。
するとすぐにドアが開いて、「よう」と翔ちゃんが顔を出した。
「お疲れ様。翔ちゃん、もしかして玄関で待ってた?」
「おう」
冗談で言ったのに、翔ちゃんは普通に返してきたので、驚いて頬が熱くなった。
少しフリーズしていると「ほら、入れよ」と促されて、「あ、お邪魔いたします」といつもよりかしこまってしまった。
自分でもなんでだろうと思っていると、「なにかしこまってんだよ」と彼にも笑われてしまった。
「ごめんな、中々前髪切ってやれなくて」
「謝らないでよ、忙しいの知ってるから。もうすぐ映画公開だし、お正月も近いし」
「ありがとな。理解ある幼馴染みがいて、俺は幸せ者だな」
嬉しそうに笑った翔ちゃんが、すごく眩しい。
ドキドキが止まらない。
靴を脱いで、洗面所に向かう翔ちゃんについていく。
たった数週来なかっただけなのに、少し懐かしく感じてしまう。
それだけ、翔ちゃんのとこに来てたってことか。
「大晦日は、今年も歌合戦とカウントダウンだけ?」
「そうそう。あ、ライブのチケット——」
「取ったよ」
「流石、抜かりないな、初音は」
「翔ちゃんのファン一号を舐めてもらっちゃ困る!」
「ハハ、そうだったな」
破顔した翔ちゃんは、洗面台の電気を付けて私に鏡の前に立つように促す。
鏡に写った私と翔ちゃんは、パッと見は同じ背丈。
目線が同じことがやっぱり嬉しい。つい、ニヤケそうになる。
翔ちゃんはハサミと櫛を持って、「いつもと同じくらいでいいか?」と訊いてきた。
「うん。お願いします」と答えると、翔ちゃんの手が私の前髪に伸びてきた。
「ん? シャンプー変えた?」
「え、変えたけど、わかるの? 匂いキツイ?」
「いや、匂いはキツくねえよ。こんなもんだろ。ただ、前に髪弄った時となんか違う匂いな気が……悪い、なんか変態みたいだな。忘れてくれ」
「翔ちゃんがそういうのちゃんと気づく人ってわかってるし、気にしないよ。むしろ、気づいてもらえ、て……」
そこまで言って、言おうとした言葉を飲み込む。
好きって言ってるように聞こえちゃわないかな……?
そう思っていると、「気づいてもらえて……?」と、翔ちゃんが悪戯っぽい顔で鏡越しにこっちを見る。
「な、なんでもない! 忘れて!」
「そこまで言ったなら言えよ」
先がわかってるくせに、笑いを堪えた翔ちゃんの声が催促してくる。
すごく恥ずかしいんだけど! 顔熱いし‼︎
「言えよ。気づいてもらえて何だって?」
「意地悪! 翔ちゃん意地悪! 気づいてもらえて嬉しいです‼︎ これで満足⁉︎」
「おー、めちゃくちゃ顔赤いな」
「うっさい! 黙って!」
そう言うと、翔ちゃんは忍び笑いをする。
うう、なんか負けた気分だ。
「じゃ、切るから動くなよ」
「うん」
さっきまで可笑しそうに笑ってたのに、翔ちゃんは真剣な顔になった。
その真剣な顔が至近距離で私を──私の前髪をじっと見るから、胸が高鳴って仕方ない。
翔ちゃんのこういう表情には、毎回ドキドキしてしまう。
「よしっ、終わり」
前髪を切り終えて、翔ちゃんは満足そうな顔で私の前髪を軽く整える。
「ありがと」と返す私の顔は、未だに赤い。
「おう。なあ、まだ時間あるか?」
「うん」
「ケーキあるんだけど、食ってかねぇ?」
そういう彼の顔がやけに真面目で、それを少し不思議に思いながら「うん、食べる」と返す。
何でもない日なのに、なんでケーキがあるんだろ? とも思いながら、「先にリビングで待ってろ」との彼の言に従ってリビングに向かった。
ソファに座って待っていると、翔ちゃんがチーズケーキを持ってきた。
翔ちゃんはそれをテーブルに置いて、「飲み物何にする?」と訊いてくる。
「んー、紅茶かな」
「了解。先に食っててもいいぞ」
「ううん、待ってる」
「サンキュ」
翔ちゃんは嬉しそうな顔をして、またキッチンの方に戻る。
数分してマグカップ2つとティーポットを持って、翔ちゃんは戻ってきた。
それをテーブルに置きながら、「この紅茶、那月がくれたんだ」と話す。
「那月くんセレクトなら、味は間違いないね」
「だな。もうちょい蒸らす」
翔ちゃんはスマートフォンのタイマーをセットして、私の隣に腰を下ろした。
距離はいつもと一緒なのに、今日はなんだか変に緊張してしまう。
久しぶりだから?
それとも、私が変に意識してるだけ?
「あのさ」
「ん?」
「今日、謝りたいことあって呼んだんだ。最近、なんか俺、可笑しかっただろ? ごめん」
「いいよ。ただ、一個だけ訊きたい」
自覚はあったんだと思いながら、一方で気になると叫ぶ心に従うことにした。
回りくどいことせずに、どストレートな方が確かに私たちには合っている気がするから。
「なんだ?」
「私、何かした? だから、避けてた?」
「それはない! 俺が勝手に整理つかなくて変になってただけで、お前は何も悪くない!」
「そっか。ならよかった」
すぐに否定してくれて、なんだかすごく安心した。
なにかしちゃったんじゃないかって、ずっと不安だったから。
ていうか、待って。
これって、もしかしちゃうのかな?
いやいやいやいや、落ち着け、私。
先走るな。
現実はそんなに甘くない!
「それとさ、俺も訊きたいことあるんだけど」
「うん?」
私が首を傾げた瞬間、アラームが鳴った。
邪魔をされたというように翔ちゃんは苦笑いを浮かべ、アラームを止めて紅茶を注いでくれた。
「とりあえず、食おうぜ」
「うん、ありがとう。いただきます」
手を合わせて、早速チーズケーキにフォークを入れ一口食べる。
翔ちゃんと私のお気に入りのチーズケーキ。
きっと、翔ちゃんがお詫びのつもりでわざわざ買ってきたんだろう。
嬉しくて、いつもよりも美味しく感じた。
「それで翔ちゃん、訊きたいことって、なに?」
そう尋ねると、翔ちゃんはフォークをお皿に置いた。
一口紅茶を飲んだ後、ふっと息を吐き出して意を決したようにこちらを見た。
「お前、好きな奴いんのか?」
「え」
突然すぎて、頭が追いつかない。
「だから、好きな奴いるのか?」ともう一度問われて、ようやく言葉の意味を理解した頭で少し考えて答えた。
「……な、内緒!」
「いるんだな?」
「秘密です! ていうか、なんで急にそんなこと訊いてくるの?」
「実は昨日、初音とレンが話してるカフェに俺もいてさ、ちょっと会話が聞こえちまったんだ。ごめん」
その事実に驚きを隠せなくて目を見開きながら、「ま、待って! どの辺り聞いたの?」と問い詰める。
「えっと」と記憶を探るように、翔ちゃんは上の方に視線をやった。
「『好きだけど言えるわけない』とか言ってたのが聞こえた。席離れてたし、聞こえたのはそこだけだ。不可抗力とはいえ、盗み聞きしたみたいになって本当にごめんな」
「ううん。そんなにあの時声が大きかったんだね……。恥ずかしい……」
よかったような、悪かったような。
まあ、よかったということにしておこう。
ふうと息を吐き出して心を落ち着かせようとしたが、「で、誰なんだよ?」と問われて再び心臓が跳ねた。
「え⁉︎ 訊くの⁉︎」
「訊く。俺の知ってる奴?」
「……そうです」
好きな人がいると、バレてしまっているなら仕方ない。
そう思って、翔ちゃんが好きだとバレてしまってもいいやと言うつもりで好きな人の特徴を並べた。
「かっこよくて、男気があって、優しくて、でもちゃんと怒ってくれる人だよ。翔ちゃんも、よく知ってる人」
「そっか、すごい好きなんだな、その人のこと」
「なんでそう思うの?」
「顔に書いてある」
そう言って、優しい顔で見つめてくる翔ちゃん。
その表情に、少し寂しさが混じっているような気がする。
これは、気づかれなかったのだろうか……?
「俺も好きな奴いるんだ」
「え、初耳⁉︎」
まさか、翔ちゃんの好きな人にまで話が発展すると思わなくて彼を凝視する。
「えっと、誰ですか?」と遠慮がちに訊くと、彼はすごく真剣な目でこちらを見つめた。
「俺が好きなのは、初音だ」
「へ……?」
「だから、俺は初音が好きだ!」
目は真剣なまま、ほんの少し頬を赤くして翔ちゃんは言った。
私は、目から溢れそうになっている涙を必死で堪える。
告白されたのが嫌だったと勘違いしたのか、翔ちゃんが焦ったように語り始めた。
「ごめん、お前が好きな人いるってわかってるのに告白して。でも、気持ち伝えないままで終わりは嫌だって思ったんだ。お前を困らせるだけだってわかってる。ただの俺のエゴだよな、本当に、ごめん」
あ、無理、泣く。
そう思った時には遅くて、ボロボロと涙が落ちていった。
嬉しいのに、なんで泣くかな? ああ、翔ちゃんすごく焦ってるじゃん! 止まれ!
「本当にごめん‼︎ もういっそ殴ってくれ!」
「ま、待って、ちょ、ちょっと、待って! 涙、止め、るから! と、とりあえず、ティッシュ!」
「お、おう」
差し出されたボックスティッシュから一枚取って、鼻をかんだ。
うん、なんか私最高にかっこ悪いけどいいや、知らない。