君と僕の遠回り
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事務所のエントランスホールを歩いていると、ポンと不意に肩を叩かれた。びっくりして振り返ると、レンさんが少し悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。
「や、ウッチー。仕事帰りかな?」
「お疲れ様、レンさん。今日はお休みだけど、遊んだ帰りにハルちゃんを送り届けに来たの」
「そっか。仲良しだね、君たちは。あ、そのヘアピン、おチビちゃんとお揃いだね」
そう言いながら、レンさんは私の前髪のヘアピンを指す。嬉しくてついにへっと締りのない顔になりながら、「そうなの! 前髪邪魔って言ったらしてくれたんだ〜」と応えた。
「すごく緩い顔してるよ、ウッチー」
「だって、嬉しいんだもん。——あ、そうそう、さっきレンさんが主演してる映画見てきたよ。すごく良かった!」
「ありがとう。詳しく感想を聞きたいところだけど、オレと二人きりだと彼が怒るかな?」
おどけたように、肩を竦めてみせるレンさん。「そんなことはないよ、多分」と少し唇を尖らせながら返すと、「いつもウッチーのナイトみたいに振舞ってると思うけどね、彼は」とレンさんは言った。
彼にはいつの間にか、翔ちゃんが好きなことがバレていて、いつもこんな風にからかわれたり慰められたりしている。
「そうかな?」
「そうだよ。オレとウッチー初めて会った時も、オレに対してガードが固かったしね」
「あ、あれは、あの頃のレンさんが私の苦手なタイプだったからだよ」
「それだけかな?」
「それだけですっ。今は別に翔ちゃん気にしないよ、多分」
「あ、レンーーーー! もうすぐ打ち合わせ始まる時間だよーーーー! 何してんのーー? あ、あれ、恋河内だ! お疲れ〜」
そうこちらに声をかけながら、音也くんが事務所の玄関からこちらに駆けてくる。「なになに、2人で何話してたの?」と訊いてくる音也くんは、まるでワンちゃんみたいに見える。無いはずの犬耳と尻尾が見えそうだ。
「他愛のない世間話だよ」
「ふーん。あ、レン! 急がないと遅刻だよ!」
「あ、本当だ。じゃ、またね、ウッチー」
「じゃあね、恋河内!」
「うん、またね」
エレベーターホールに向かう2人に手を振って見送る。
音也くんは急げ急げと言わんばかりに小走りで、レンさんは対照的にいつも通りの速度。音也くんが焦りすぎなのか、レンさんがゆっくりすぎなのか、どっちだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、私は事務所を出てドラッグストアの方に足を向けた。
「や、ウッチー。仕事帰りかな?」
「お疲れ様、レンさん。今日はお休みだけど、遊んだ帰りにハルちゃんを送り届けに来たの」
「そっか。仲良しだね、君たちは。あ、そのヘアピン、おチビちゃんとお揃いだね」
そう言いながら、レンさんは私の前髪のヘアピンを指す。嬉しくてついにへっと締りのない顔になりながら、「そうなの! 前髪邪魔って言ったらしてくれたんだ〜」と応えた。
「すごく緩い顔してるよ、ウッチー」
「だって、嬉しいんだもん。——あ、そうそう、さっきレンさんが主演してる映画見てきたよ。すごく良かった!」
「ありがとう。詳しく感想を聞きたいところだけど、オレと二人きりだと彼が怒るかな?」
おどけたように、肩を竦めてみせるレンさん。「そんなことはないよ、多分」と少し唇を尖らせながら返すと、「いつもウッチーのナイトみたいに振舞ってると思うけどね、彼は」とレンさんは言った。
彼にはいつの間にか、翔ちゃんが好きなことがバレていて、いつもこんな風にからかわれたり慰められたりしている。
「そうかな?」
「そうだよ。オレとウッチー初めて会った時も、オレに対してガードが固かったしね」
「あ、あれは、あの頃のレンさんが私の苦手なタイプだったからだよ」
「それだけかな?」
「それだけですっ。今は別に翔ちゃん気にしないよ、多分」
「あ、レンーーーー! もうすぐ打ち合わせ始まる時間だよーーーー! 何してんのーー? あ、あれ、恋河内だ! お疲れ〜」
そうこちらに声をかけながら、音也くんが事務所の玄関からこちらに駆けてくる。「なになに、2人で何話してたの?」と訊いてくる音也くんは、まるでワンちゃんみたいに見える。無いはずの犬耳と尻尾が見えそうだ。
「他愛のない世間話だよ」
「ふーん。あ、レン! 急がないと遅刻だよ!」
「あ、本当だ。じゃ、またね、ウッチー」
「じゃあね、恋河内!」
「うん、またね」
エレベーターホールに向かう2人に手を振って見送る。
音也くんは急げ急げと言わんばかりに小走りで、レンさんは対照的にいつも通りの速度。音也くんが焦りすぎなのか、レンさんがゆっくりすぎなのか、どっちだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、私は事務所を出てドラッグストアの方に足を向けた。