君と僕の遠回り
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
慣れた手つきで髪の毛をブラシで梳かれる。人に髪の毛を弄られるのは嫌いではなくて、なんとなく心地いい。弄ってる人間が誰なのかも関係するのかもしれないけれど。
「で、今日はどうするんだ?」
「おまかせで!」
「お前いっつもそれだな」
「翔ちゃんのセンスを信頼してるの」
「そりゃどーも」
言葉こそそっけないが、どことなく嬉しそうな翔ちゃん。可愛いなあなんて思っていると、早々に方針を決めたらしい彼の指が動く。
「痛かったら言えよ」
「んー」
毎回律儀にそう言ってくるけど、髪を束ねられるときに痛かった記憶は小さい頃の数回くらいだ。その数回でコツを覚えたらしく、翔ちゃんの髪結いは丁寧・早い・可愛いの三拍子が揃っている。翔ちゃんは、私の髪の毛を左に流して少し緩めに三つ編みを編んでいく。
多分、彼は今すごく真剣な顔をしていると思う。残念ながら、目の前に鏡がないので確認できない。翔ちゃんの真剣な顔、大好きなんだよなぁ。
「うっし、終わり」
「ありがとう! 緩めの三つ編みだー」
「あんまり触るなよ。初音の髪、崩れやすいんだから」
「わかってまーす」
「そういえば、前髪邪魔そうだな?」
「そうなの! 切るタイミング逃しててねー。ぶっちゃけ超邪魔です!」
そう返せば、「そうかそうか」と可笑しそうに笑った翔ちゃんの顔がこちらを覗き込む。
あああ、待って近いって! 翔ちゃん近い!
すっと伸びてきた彼の指が前髪を分ける。
「こうすれば多少マシだろ」
「ソウダネ」
「何で片言なんだよ。今度切ってやるから、とりあえずこれで留めとけ」
色々なヘアアクセサリーやらワックスやらの詰まったポーチの中から、彼のトレードマークの一つである赤いヘアピンが顔を出す。それを私の分けた前髪の端あたりに何本か挿して、うんうんと自画自賛するように頷きながら翔ちゃんの顔が離れた。
心臓がすごくドキドキしてる……。セットに夢中な翔ちゃんは、顔が近かったなんて意に介していないだろう。
「ありがと」
「おう! 今日は七海と遊ぶんだっけ?」
「そう、映画デートですよー。ハルちゃん作曲のヤツみるの」
「ああ、あれな、レンが主演してるやつ。主題歌とサントラ両方だったっけ?」
「うん。ハルちゃんの曲大好きだけど、本当ハルちゃん仕事しすぎだよねー。倒れちゃわないか心配……」
立ち上がり、傍に置いていたショルダーバックを斜めにかける。「本当にな」とこちらと同じように苦笑する翔ちゃんに、「ね。翔ちゃんは午後から仕事だよね?」と問う。
「おう。ラジオ収録!」
「頑張ってね」
「サンキュ」
「じゃ、また来る。いつもありがとね」
ヒラリと片手を振って玄関の方に向かうと、いつも通り見送りについてきてくれる。ブーツを履いて振り向くと、翔ちゃんがちっちゃく見えて少し口角が上がった。
「なぁぁに、笑ってんだよ」
「ん? 今日も翔ちゃんはちっちゃいなって」
「お前のが小さいだろ」
「1センチだけね。それに今は翔ちゃんの方が小さいよ」
「ヒールは身長に入らねぇよ!」
「翔ちゃんとお出かけの時はぺたんこの履くから、安心してね。——じゃあ、お邪魔しましたー」
何か言いたげな翔ちゃんに手を振って、彼の家を出た。足取りが軽いのは、ハルちゃんとお出かけだからだろか?それとも、翔ちゃんと会えたからだろうか?
多分、きっとどっちもだ。
「で、今日はどうするんだ?」
「おまかせで!」
「お前いっつもそれだな」
「翔ちゃんのセンスを信頼してるの」
「そりゃどーも」
言葉こそそっけないが、どことなく嬉しそうな翔ちゃん。可愛いなあなんて思っていると、早々に方針を決めたらしい彼の指が動く。
「痛かったら言えよ」
「んー」
毎回律儀にそう言ってくるけど、髪を束ねられるときに痛かった記憶は小さい頃の数回くらいだ。その数回でコツを覚えたらしく、翔ちゃんの髪結いは丁寧・早い・可愛いの三拍子が揃っている。翔ちゃんは、私の髪の毛を左に流して少し緩めに三つ編みを編んでいく。
多分、彼は今すごく真剣な顔をしていると思う。残念ながら、目の前に鏡がないので確認できない。翔ちゃんの真剣な顔、大好きなんだよなぁ。
「うっし、終わり」
「ありがとう! 緩めの三つ編みだー」
「あんまり触るなよ。初音の髪、崩れやすいんだから」
「わかってまーす」
「そういえば、前髪邪魔そうだな?」
「そうなの! 切るタイミング逃しててねー。ぶっちゃけ超邪魔です!」
そう返せば、「そうかそうか」と可笑しそうに笑った翔ちゃんの顔がこちらを覗き込む。
あああ、待って近いって! 翔ちゃん近い!
すっと伸びてきた彼の指が前髪を分ける。
「こうすれば多少マシだろ」
「ソウダネ」
「何で片言なんだよ。今度切ってやるから、とりあえずこれで留めとけ」
色々なヘアアクセサリーやらワックスやらの詰まったポーチの中から、彼のトレードマークの一つである赤いヘアピンが顔を出す。それを私の分けた前髪の端あたりに何本か挿して、うんうんと自画自賛するように頷きながら翔ちゃんの顔が離れた。
心臓がすごくドキドキしてる……。セットに夢中な翔ちゃんは、顔が近かったなんて意に介していないだろう。
「ありがと」
「おう! 今日は七海と遊ぶんだっけ?」
「そう、映画デートですよー。ハルちゃん作曲のヤツみるの」
「ああ、あれな、レンが主演してるやつ。主題歌とサントラ両方だったっけ?」
「うん。ハルちゃんの曲大好きだけど、本当ハルちゃん仕事しすぎだよねー。倒れちゃわないか心配……」
立ち上がり、傍に置いていたショルダーバックを斜めにかける。「本当にな」とこちらと同じように苦笑する翔ちゃんに、「ね。翔ちゃんは午後から仕事だよね?」と問う。
「おう。ラジオ収録!」
「頑張ってね」
「サンキュ」
「じゃ、また来る。いつもありがとね」
ヒラリと片手を振って玄関の方に向かうと、いつも通り見送りについてきてくれる。ブーツを履いて振り向くと、翔ちゃんがちっちゃく見えて少し口角が上がった。
「なぁぁに、笑ってんだよ」
「ん? 今日も翔ちゃんはちっちゃいなって」
「お前のが小さいだろ」
「1センチだけね。それに今は翔ちゃんの方が小さいよ」
「ヒールは身長に入らねぇよ!」
「翔ちゃんとお出かけの時はぺたんこの履くから、安心してね。——じゃあ、お邪魔しましたー」
何か言いたげな翔ちゃんに手を振って、彼の家を出た。足取りが軽いのは、ハルちゃんとお出かけだからだろか?それとも、翔ちゃんと会えたからだろうか?
多分、きっとどっちもだ。
1/9ページ