新たな海
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目を覚ましてからしばらく
ミーナはボーッと天井を見つめていた。
つつっ
「…っ」
自然に溢れる涙
キラッと流れ落ちるソレはシーツを濡らすことはなく、
ミーナの肌から離れると同時に輝く真珠へと変わる。
(……いけない)
涙をこらえて真珠を取って眺めた。
白のプリンセスからしか生まれない
ミーナの髪と同じく輝く真珠
それは人魚の涙と呼ばれていた。
人魚の涙を口にすればどんな怪我も病気も治るとされていたが、
ミーナは使ったことがなかったのだ。
『私たちは天命に従う』
口癖のようにそう言う父に禁止されていたのである。
(……父様…)
実際のところ、
父がミーナのことを心配して禁止にしたということはミーナも国中の者も知っていたが、誰しもがミーナのことを家族として愛していたため喜んでそれを受け入れた。
(これで…よく父様に怒られてたなぁ……)
怪我をした友達、
熱を出した家族と呼べる国の人たちを
助けられるのに助けられないもどかしさに泣いて父に訴え、
キツくダメだと言われては
母に慰められていたのをよく覚えていた。
(あぁ……だめだ…涙が溢れそう…)
どんどん溢れてくる家族の温もりに
もう触れることができないと急に実感して視界がぼやけきたときだった。
ガチャっ
「!!?」
突如ドアのノブが回った。
『もし……人間に出会ってしまったときは人魚だとバレないように気をつけるのよ?』
サッと母の言葉が頭をよぎる
パクッ
「……っ(ごくん」
ミーナは急いで体を起こして人魚の涙を飲み込んだ。
昔から悪用されないように、
流したは涙は自身で飲むか飴のように舐めて身体に戻していた。
たとえ効能を知らない人間でも、
その形や輝きから極上だと分かる真珠に手を伸ばさないわけがない。
(バレないようにしなきゃっ…)
胸にかかるシーツを握り締め
ジッと入ってくる人物を見つめた。
ギギィッ
開いた扉から入ってきたのは特徴的な髪型の男だった。
「…起きたかよぃ。」
身体を起こしていたミーナに少し驚いた素振りを見せた男はそのままこちらに近づいてきた。
(本当に人だ……っ…;;)
どくん どくん
鼓動が全身に響く
緊張からシーツを握る力が自然と強まった。
「………(随分と警戒してるよぃ」
「………。」
(目までキラキラしてんのかと思ったが……茶色かぃ)
ミーナの足元まで近付いたマルコは
薄らと肩を震わせるミーナから目を離さず
そんなことを考えながら椅子に座った。
「あ~……身体は大丈夫か?」
「……(こくん」
「そうかぃ(この様子だと能力者じゃねぇよぃ」
ミーナの右足首には
念のためにとナースに付けてもらった海楼石がある。
「少し話を聞いてもいいかぃ?」
「……(こくん」
「ここがどこか分かるかぃ?」
「……(ふるふる」
「……ここは白ひげの船だよぃ」
「……………(しろひげ?」
首をひねるミーナにマルコは目を見開いた。
「分からないかぃ?」
「……(こくん」
(嘘のようには見えないが……女は侮っちゃいけねぇよぃ…)
「それは置いておくか……それでだな…お前さんはこの船に急に現れたんだが……自分でこの船に乗った記憶はあるかよぃ?」
「……(ふるふる」
「その前のことは?」
「…(こくん」
「なにをしてたよぃ?」
「……(どうしよう」
「どうしたよぃ?」
動揺を見せたミーナに目が鋭くなるマルコ
そんなマルコの目をしっかり見つめ返しながらミーナは考えていた
(どうしよう……怖くて声が出ない…)
声に不思議な力があるミーナは
話していて無自覚に力を使って怪しまれるのが怖かった。
(それに……もしこの世界にシエルがいるとしたら…)
少し目を閉じ
幼い時に彼とよくかくれんぼしていたのを思い出した。
『見つけたぜミーナ!』
『もうっなんでいつもすぐ見つけるの!!かくれんぼにならないじゃない!!』
なんでいつもすぐ見つけ出すのか
ミーナは聞いた答えをしっかり覚えていた。
『ははっ!ならお喋り……特に歌ったりしないで隠れることだな(ニヤッ』
『なんで?』
『お前の声は……俺にとって特別だからだ…』
今なら分かる……
きっとシエルはこの時から想っていてくれたのだろう
寂しそうに頭を撫でてくるシエルに
小さいミーナはなんの疑問を持たず首をコテンとかしげた
『とくべつ?』
『あぁ……どんなに遠くにいたって…
お前の声は俺の所に届くんだ…特に歌だと小声でもよく聞こえる』
(どこにいても……きっとシエルは私の声に反応する…)
小さく息を吐き、
ミーナは改めて目の前の男と視線を合わせた。
そして
「……パクパクっ」
「およいでた?
………って…もしかして声が出ないのかよぃ?」
ミーナは声を出さずに口パクで対応しようと決めた。
「……(こくん」
「まじかよぃ……昔から声がでないのかぃ?」
「……(ふるふる」
「そうかぃ……」
そう言って顎に手をやって見つめる男に
ミーナはまた心臓がうるさくなるのを感じた。
「……いろいろ質問して悪かったねぃ」
「(ふるふるっ」
「お前さん腹は減ってないかぃ?」
「…(ふるふる」
「そうかぃ……なら飲み物だけもってくるから好きに飲むといいよぃ」
「…(ありがとうございます」
ペコッと上半身だけで綺麗にお辞儀をするミーナ
(怪しいところはまだあるが……
何かから逃げてるって感じだねぃ…)
ミーナの行動を見逃さず見ていたマルコの考えは見事に的中していた。
そんなこととは露知らず、
ミーナは素直に感情を顔に出し続け、
今は不安そうに眉を下げていた。
(こうゆう女は苛めにくくて苦手だよぃ;;)
ポンッ
「ビクッ!?」
急に頭に乗った男の手に大きく反応するミーナ。
「そういや名乗ってなかったな……俺はマルコってんだぃ
お前さんの名はなんてゆうんだよぃ?」
「………」
ぽんっぽんっ
(……優しい手)
安心されるように乗る頭上の手はとても温かった。
そしてさっきまで鋭かった眼も
今は優しく緩まれていた。
「……(ミーナ」
「…ミーナか」
「俺たちゃ海賊だがお前さんを悪いようにはしないよぃ。」
「……(かいぞく?」
(海賊って……確か悪い人じゃ…)
サアア
海賊の言葉を理解すると
ミーナは顔を青くさせた。
(……海賊は知ってても白ひげは知らない……か)
面白いくらいに顔を変えるミーナにマルコは笑いながら
安心するようにもう一度軽く頭を撫でた。
「そこら辺の海賊と一緒にするなよぃ、
お前さんの身の安全は保証する。」
「………(こくん」
真偽を問うように見つめてきたミーナ。
その真っ直ぐ向かってくる眼に
マルコは嫌な気がしなかったが、念のためと一言付け足した。
「ただし……お前さんがこの船に乗る俺の家族に害をなすなら別ってことだけ……しっかり理解しておくれよぃ」
(家族……この人にとって大切な人たちが乗っているのね)
「分かってくれたようで嬉しいよぃ」
静かに頷くミーナに
マルコは満足して部屋をでた。