新たな海
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自身の髪に包まり、
赤子のように丸くなって眠る女。
髪の隙間から覗く豊満な胸
細く長い手脚に引き締まったウエストライン
滑らかで艶やかな白い肌
桃色に染まっているふっくらとした唇
長い睫毛まで虹色に輝かせるその女は息を呑むほど美しかった。
ついその身体に魅入ってしまったマルコだが、
傷一つない綺麗な身体を訝しんだ。
「面倒なことになりそうだよぃ;」
はぁっ
ため息をつきながら自身の上着で女を包んで抱き上げる。
途端に感じる女の柔らかな感触に眉を寄せるが、
見つけたのが自分で良かったと安心する。
「サッチじゃなくて良かったよぃ;」
「なにが良かったって?」
「っ!!?」
女に気を取られていたマルコ。
独り言に返ってきた声にバッ振り向くと、
そこには脚を組んで煙管を吹かす女のような格好をした男……
イゾウがいた。
「なんだ…イゾウかよぃ;」
「なんだとはなんだ……空から戻ってきた一番隊長が隠れてるようだから、サボってるのかと様子を見に来たんだが……。」
イゾウの視線が下がる。
「ソレはどうしたんだい?」
面白そうに好奇の眼を見せるイゾウにマルコは軽く息を吐いた。
「この船に打ち上げられてたんだよぃ;」
「打ち上げられてた?」
予想外の答えにイゾウは驚いたが、
そうかい、
とすぐに何かを考えるように目を細めた。
(来てくれたのがイゾウで良かったよぃ)
何が起きてもおかしくない海にいるが、
急に嵐の中から裸で現れ、その身体に傷一つない女。
これは疑問に持たないほうがおかしい。
((何か目的があってこの船にきたのか……))
視線を交え懸念していることが同じだと理解する。
(なんにしたって能力者の可能性は強いよぃ)
「とりあえず医務室に連れて行くよぃ。」
「あぁ………甲板のことは任せな。」
「助かるよぃ…落ち着いたら親父んとこに集合だよぃ。」
「あいよ。」
白い煙を吐きながら歩き出すに頼もしい背を見送り、
マルコは医務室へ向かった。
こぽこぽっ
海底から出てくる空気が身体を撫でて上がっていく。
その様子をぼんやりと眺めながら
ミーナは静かな海の中を漂っていた。
(……ここは?)
寝起きのようにぼんやりとする意識の中、
ミーナは自分の状況を理解しようと記憶を遡った。
「「「ミーナっ!!」」」
瞬時に浮かんでくるのはミーナの名前を呼ぶ声とその持ち主たち。
(そうだ……成人の儀式の日にっ)
豪華なドレスに身を纏った自分
突如襲う大きな揺れ
息をせずに倒れる人々
その中でもヒトキワ大きな身体が
長い髪の女性を上から包み込んで倒れている
見間違うことなどない
間違いなくそれはミーナの愛する両親だった
次々にフラッシュバックする記憶
ミーナは倒れる両親の隣で
悲しげに笑う人物の記憶に血の気が引くのを感じた
(……シエルっ…どうしてっ)
シエル
それはミーナにとって兄のような存在の幼馴染だった。
いくつかある人魚の国の中でもプリンセスには特別な力がある白の国
そのプリンセスであったミーナは
他の国のプリンセス達よりも自由がなく、国から出ることはできなかった。
それでもミーナはそれが自分の身を心配してとのことだと理解していたため反抗することなどなかった。
といっても、国の中は自由にできたため毎日たくさんの人魚や魚たちと話せることができたし、
たっぷりと愛情をくれる王や王妃、
生まれた時から一緒にいてくれるシエルのおかげで幸せな日々を送っていた。
しかしミーナの成人の儀式が行われる日、
その幸せは家族のように心を寄せていた
シエルの手によって崩された。
「ミーナ……すまない…俺を許してくれ;」
そう言って愛おしそうにミーナの頬を撫でるシエルの手はいつになく熱かったのを覚えている。
一体何を許せというのか、
そのときは分からなかったが
ミーナの頭にティアラを乗せてシエルが部屋を出て行った後
すぐにその謝罪の意味を理解することとなった。
大きな音とともに揺れる部屋
急いで部屋を出ると、さっきまで準備に奔走していた人々が全員倒れていた
息もせずに……
ミーナは震える身体を抱きながら
どんなときでも頼りになる大きな父の元へ急いだ
しかし
いつものように大きな声で豪快に笑い
大きな手で頭を撫でてくれた父は
声を発することも
動くこともなかった
その下にはいつも優しい子守唄を歌ってくれて
いろんな国の歌を教えてくれた
優しい母が倒れていた
「ミーナ……。」
状況を飲み込めずに立ちすくんでいるミーナの前に現れたシエル
すまないと繰り返すシエルに彼がやったのだと言葉では理解するが
間違ったことを嫌う彼の事を知っているミーナは受け止めることができずにいた
そんなミーナを見つめながら呟いたシエル
「ミーナが俺を家族と愛してくれているのは分かってる……ただよく深い俺はそれ以上の愛を求めて…心を売ってしまった。」
ミーナは硬直したように動けなくなった。
今まで見たことのない熱の篭ったシエルの視線とその言葉に気付いてしまったのだ……
(わたしのせい……私がシエルの想いに気付かなかったからこんなことにっ)
自分を責め始めたミーナに向けて今までと変わりなくニカッと笑うシエル
「お前のせいじゃないさっ……ただもう戻ることはできない…」
白かったシエルの髪と下肢が黒く染まり始める
「俺は……お前を手に入れる…どんな手を使っても!!」
~~♬~♪~~~♬~
ゾワリッ
白の国では聞いたことのない
気持ちの悪いものが身体を這う歌を歌い出すシエル
そこには爽やかで力強かった大好きな彼の声はなかった
「ごめんなさい……」
目の前で起こっていることを処理しきれないミーナは自分を責めることしかできず、
次第にシエルの暗い歌に飲み込まれていった。
「「「ミーナっ!!」」」
完全に飲み込まれる寸前
必死な声に呼ばれ目を開ける
そこには成人をお祝いに来てくれた他のマーメイドプリンセス達がいた
「あっ…」
伸ばされる手に、
急に胸が暖かくなり身体を巡る
その手を取ろうとミーナも手を伸ばすが、
それはシエルによって阻まれる。
「ミーナ、この世界には邪魔者が多い……別の世界で一緒になろう」
パリンッ
その言葉と同時にヒビが入る世界
「!!?」
ヒビの入った鏡に囲まれた状況のミーナ
理解するも速く、
そのヒビはどんどん細かくなり小刻みに揺れ始める
(割れるッ!!)
パリーーンッ
大きな音をたてて弾け飛ぶ破片
その衝撃とともに途切れた記憶
(あのあとどうなったのっだろう……)
自身の身体を見てみるが破片が刺さったような跡はなく
白い肢体と長い尾ヒレが揺れているだけだった。
キラッ
(……?)
眺めていると虹色に輝き出す身体
白の国の人魚たちは皆
白の髪に白の肢体だが、
プリンセスだけは宝石のようにキラキラの虹色に輝いている。
その輝きを久しぶりに見たような気がするミーナだったが、
海面に向かって浮上しているのに気付く。
(別の世界で……)
最後にシエルが残した言葉に不安がよぎる
今は近くに彼の気配を感じることはないが、
海面が近付くにつれ胸が騒ぎ始めていた。
ドクッ
ドクッ
そして激しい胸の鼓動に苦しくなってたとき
ザパンッ
「……っ…はぁっはぁ…」
海面に顔を出したミーナの視界には木材でできた部屋が飛び込んできた。
急な視界の変化に驚くも、
ミーナは潮の香りとゆったりと揺れる部屋、感じたことのない脚の違和感に状況を理解した。
自分が人間の体で人間の船に乗っているのだと。
国から出たことのないミーナにとってこれはかなり重大だったが、今は鼻を擽る香りに頭がいっぱいだった。
(……まさか本当に別の世界に来てしまったっていうの)
それは知らない潮の香り