アランくんの彼女はロシア人
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修学旅行の目的地までひたすらバスに揺られる中、途中の北陸道サービスエリアで他のバスから降りてきたガルーラをチラリと見かけた大耳は思わず笑ってしまった。
「ガルーラのマフラーの巻き方、斬新やったわ。頭に置いてアゴでキュッしばっとった」
「テキトーでええやろ思ったんやろな」
代わり映えのしない高速の風景を眺めながら北はさらりと答える。
「スキー実習以外はどこも行けへんやろし、スマホの持込禁止。こうやって吹雪の中ひたすら北上してるしシベリア送りされてる気分なるな」
大耳がポツリと不満をこぼした。
「長野そこまで寒ないやろ」
「そこ?」
「ガルーラ昔言っとったけど、マイナス30度超えると目ん玉凍るらしいで」
「まじか」
「薄い氷の膜が出来てまばたきすると溶けるんやって」
「シベリア経験者の言葉重いな」
大耳はフフと小さく笑った。少し気が晴れた。
実をいうと今回の修学旅行はあんまり乗り気ではなかった。
事前アンケートで初心者コースを選んだのは本当に初心者だから。
最終日の東京自主研修があるから耐えれる。
無ければ心が折れていた。
北は「スキー久しぶりやなあ」と素直に楽しみにしてるようだし、リフトに乗れる気がしなくてひねくれてるのは大耳だけかもしれない。
「アランから聞いた?事前アンケートで初心者コース選択したんやって。そしたら担任に「お前この間、六甲山スキー場おったよな?」言われて中級者コースに変更させられたらしい」
「現場押さえられとるやん。にしてもアラン意外やわ」
「ガルーラがスキーデート誘ったんやろな。あそこ初心者コースあるし、あいつ教えたがりやから」
「…やけに詳しいな?」
「アランから話聞けば大方の予想はつくわ」
また北による追加情報でアランの惚気話になった。
最近手口が巧妙になってる気がする。
「付き合って結構経つけど、こんなに続くとは思わんかったわ」
「クラス違うし丁度良い距離感なのかもな」
「外国人と付き合う機会があっても日本人のが絶対いいって前にアラン言ってたのになあ」
周囲から長続きの秘訣は日本人じゃなくて外国人同士やからと口では言わないけどそう思われていた。
「…ガルーラは自分たちよりも日本人らしいよ。たまにロシア人演じて、おトクやんな」
「せやな。アランやってたまに「俺ん中のアメリカ人があ!」言うもんな」
「無敵やん」
「おいしいよなあ」
***
ニ日目のスキー講習を終えた束の間の自由時間。
ガルーラ班の女子のひとりがお土産屋の前にいた赤木に声をかけた。「何買うの」とか「今日どうだった」とか世間話してたらふと思いつく。
「なんかガルーラちゃんもっと砕けて呼びたいなあ」
「がーちゃんとかあーちゃんとか?」
「もうちょい捻りたいなあ変わった感じがほしいねん」
「俺はガルーラちゃんでもええと思うけど」
「呼んだことないやろ」
「ありますー」
なんかこの二人いつも一緒におるね。
出来てるのかな?と横にいる友人がガルーラに目配せする。
追及はあとや。ガルーラは何食わぬ顔で話しかけた。
「おまたせー」
「あ!いいとこ来た!ロシア語で何何さんってなんて言うの?」
突然のことだからか少し照れたようにロシア語を呟いた。
「ガスパジャー?」
「でもあんまり使わないなあ。外国の人に使こてあげてる言葉って感じ」
「同志ガルーラとか言うの?」
「
「ミスターとかないの?」
「ロシアの場合、自分の名前とお父さんの名前を一緒に呼んだげるの。そうすると丁寧な感じになって「~さん」みたいなニュアンスになるんよ。私のお父さんの名前がアンドレイやからガルーラ・アンドレーヴナがかしこまった言い方になるの」
「えーおもしろーい」
「そんなしみじみ言う?」
「いやなんか知識増えた感ある」
「使いどころわからんやつ」
「きみらロシア人と一生触れ合わんしな」
「お前じゃ!」
「純度百パーおるわ!」
赤木と友人のツッコミに満足そうに頷く。
ロシア人やもんな。時々忘れるから気をつけないと。
「だからロシアの人はすぐにあなたのお父さんの名前は?って聞くよ」
「父親おらん人とかなんて呼ぶん」
「そしたらおじいちゃんの名前でもいいし親戚のおじさんからもらってもいいの。名前としっくりくるのもらうから。でもね、おかげさまで父親の名前知ってても名字知らんみたいな現象起こるからたまにめんどくさくなる」
「名字とかで相手呼ばへんの?」
「逆になんで呼ぶの?ってなる」
「カルチャーショックう」
「でもお前アランのこと名字で呼んでない?」
「...うちの猫の名前がアランなんよ」
「まじ?」
「そこかぶるのかー」
「先着順やからね。Котикってたまーに呼んであげてるよ」
「コーチク?」
「子猫ちゃん」
「ブフッ子ネコちゃん!??そいつ、先住猫と仲良くやれてる?」
「まずまずかな」
「お、コーチク来たで」
チチチ…と猫を呼ぶ仕草をした。
ロシア人はクスクスクス…と言って猫を呼ぶ。
ガルーラのかわいい
日本固有種だけど、れっきとしたロシアの猫なのだ。
なんやなんやと鼻の下を伸ばしながらガルーラに近づけば、ほっそりとした指先がスッと伸びてアランの顎をこしょこしょとくすぐらせる。さすが慣れてるなと周囲は言うけどたまに見せる変なテクにアランは内心バクバクだった。
「ロシアの猫はこれで寄ってくる」
「アランすっかり飼いならされとうな」
「というかガルーラ普通に日本人の名前持ってるんやから、そっちで呼んだれよ」
「直訳したやつって言われたら、ねえ?」
「捻りたくなって、ねえ?」
「ほなガルーラやな」
「これからもよろしくねガルーラちゃん」
「どないやねん」