アランくんの彼女はロシア人
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「コーヒーの匂いする」
「そーかぁ?」
治のぼんやりした独り言に鼻をひくつかせた侑は首を振った。
「さっきアランくんコーヒー飲んでなかった?あそこの公園おるんかな」
「まじか。ちょっとコンビニ寄るついでに見にいこー」
「二人で行ってきなよ」
コンビニには行きたかったのか角名は文句を言いながらも付いてきた。ヒマそうにしてる銀島も誘えばいつものメンバーになってしまった。
「あそこカップルの溜まり場になってるよな」
「暖かくなるまで誰も来おへんよ」
「あの公園、照明少ないからなあ」
雑木林の中にある公園で、昼でも薄暗いイメージがある。
案の定、先日降った雪がまだ溶けきってなくて敷地の半分が凍っていた。
「アランくんおった!」
「とガルーラさんや」
「治やば」
ブランコに乗っているアランがいた。
ひたすら漕いでいてガルーラがそれを目の前でじっと眺めている。結構シュールな光景だ。
「アランくーん」
そこに声をかけられる侑はすごいと思う。
さすが空気の読めない男だと角名は現場写真を収めながら感心する。
「うわ、なんやねんな」
「何してんのー」
「…見ての通りやけど」
「ブランコ耐久テスト?」
「それさすがに謎の行動すぎん?普通にデート中やし」
「70キロまでって書いてますね」
角名が柱のプレートにあったラベルを読み上げた。
「やば10キロオーバーや」
「アランくんいーけないんだー」
「ツム乗ったらあかんで」
「お前もやろ」
「ここにいる全員アウトや」
この場にいる全員がブランコに乗る資格がないことが判明した。観賞用ブランコになってしまった。
ガルーラがおもむろにブランコに座る。
「このブランコに乗れるのは私だけか」
「結構ギシギシ言ってますよ!」
「70あるなら乗れませんよ!」
「フー…」
ガルーラは立ち上がった。
「かわいくない後輩やんな」
「ガルーラ正直にならんくて良かったのに」
「いやなんか危ないのかなって」
「体重あるんですね」
「まあそれくらいある」
「あ、コーヒーですか!それ!」
何か言おうとする侑を遮るように治は声を張り上げた。どうせ失礼なこと言うつもりやろ。
「よく分かったね」
ガルーラは片手に持っていたタンブラーをかかげた。「蓋つきタンブラーの匂いを嗅ぎわけたのか」と侑は疑惑の目で治を見た。
「コンビニのLサイズにピッタリなんよ」
「へー」
半日長持ちするよと蓋を開ければ湯気が出てくるのが見えた。ここからだったらコーヒーの匂いが分かるけども。
「お前ら何やってんの」
急に現れた北信介に全員の背筋がこわばった。付いてきたわけでもなく独特なタイミングでいつも不意に現れるのだ。
「あ、北さん。体重何キロですか!」
侑にキラキラした目で訊かれて、キョトンとした北は「64キロ」と素直に答える。
「北さん!これは北さんのために作られたブランコです」
「ドウゾ!」
「そうか。そんでアラン、明日から修学旅行なのにあかんやろ。ガルーラも日が短いんだから…」
「ブランコこぎながら説教されるとおもろいな」
「てか明日から修学旅行なんですか!?」
「ツム今更やぞ」
春高バレーが終わって、三年生が引退すると新体制の二年生中心チームになった。
新しい主将北信介の号令に新鮮味を感じながら新人戦に挑むことになるのだが、毎年恒例ながら二年生は大会直前に三泊四日の修学旅行に行く。
「なんでわざわざ長野まで滑りに行くんやろな。スキー場なら県内にいっぱいあるのに。但馬のスキー場とか」
「雪質が全く違うらしいで」
「どこのソムリエ?食べたんかな」
「治、腹減ったんなら帰れ」
「解散しよ」
辺りは真っ暗になっていた。
星が綺麗に見えた。冬の大三角の話になって侑たちはアランの薀蓄話に耳を傾けながら習った気するなと少しだけ思い出した。