アランくんの彼女はロシア人
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「尾白さんが女子に囲まれてる」
「ほんまや」
いち早く発見した角名はすばやく一枚撮るとまたすぐにポケットにしまった。
その手慣れた手つきに銀島はいつも感心してしまう。
その間にも止めどなくしゃべり続けて何かを主張している5人の女子たちにアランがウンウンと頷いている。なぜか顔を引きつらせているのがここからでもわかった。
「銀、あれ羨ましい?」
「あれは恐怖やろ。オチは?オチはどこや!って顔してはるわ」
関西人らしい所見に角名があははと小さく笑ってそれを眺める。途中でこちらに気づいたアランがこっそり助けを求めたが後輩らしく大人しく見守った。
「見せもんちゃうぞ!先輩助けろや!」
「楽しそうだなと思って」
「めちゃくちゃ困ってたわ!」
「なに話してたんですか」
部室棟までの道を一緒に歩きながら銀島が改めて訊いた。
てか怒らないんだーと思いながら角名がその横で端末をいじる。
「彼女のクリスマスプレゼント何がいいか聞いたつもりが、あいつらの金銭感覚やばいねん。予算1万円からやんなって、そんな大金あるわけないやん」
「1万円のものって例えば?」
「しらんけど、サンローラン?ジルのリップ?コフレセット?あいつらなに言うとんの」
「全部メモってる」
「笑うな!こっちは真剣なんやぞ」
女子たちが熱心に語るのも無理はない。
真剣に聞いてくれるなら大真面目に答えるだろう。
「そもそもクリスマスデートできるんですか?ガルーラさんうちの手伝いで忙しいんじゃないですか」
「いちおう祝うけど、って言ってた。なんかロシアのクリスマスは1月7日なんやって」
「えええ?」
「まじすか」
25日のクリスマスがなんでもない日になるなんてことがあり得るのかと二人は目を白黒させた。
「中国の旧正月みたいに昔の暦で祝うから。旧暦の12月25日が1月7日らしいわ」
昔の暦?旧暦?と銀島が首をかしげる。
「ユリウス暦っていうんですよね」
「なんて?」
「昔の暦はユリウス暦って世界史のテストで出たんで」
「それや」
さらっと言ってのけた角名にアランは素直に感心する。
「…出たかな?」
「おんなしテスト受けたんならお前は知っとけ!ちな来年はそのユリウス暦使って色々計算すんねんで」
「えーまじすか」
「銀それ嘘やで」
「あ、北さん」
「バラすの早いてー」
***
午前の細やかな光が聖堂の中を射し込む。
日本語化した連祷の一体感。
フランキンセンスのお香の匂い。
他の信者と同じようにイコンにキスをして床にひれ伏して祈る彼女は信仰の中にいた。ハリストスの福音のために祈ると断言したいけど今は彼氏を最優先させたい。
(あなたがいないとダメみたい)
日本語で考える脳をわざわざロシア語に変換させながら改めて彼氏のことを想う。
彼氏は春高に向けて最終調整の最中だ。
端末の通知に気づいたガルーラは目を細めた。
***
翌日、少し落ち込んでいるアランに赤木はわざとらしく大声で「オッスどしたん!!」と声をかけた。
「…聞いてや。昨日クリスマスなのにラスト遅なったやん。当日うちの手伝いとかで忙しいの分かるけど、分かるんやけど「会いたいなー」思って軽い気持ちで送ったら「今から行く」ってうちにわざわざ来てくれてさ」
「なんそれカッコ良。普通逆やて」
クリスマスデートできなかったんだろうなーと一人納得していた赤木はアラン彼女の行動力に目をまん丸くさせる。
「うちの親と目が合った瞬間、そこからの切り替えほんまプロやったわ。お宅訪問した営業マンみたいなトーク、ワーして菓子折りを渡すとこなんかマナー講座見た?ってぐらい完璧にこなして。おかんがそれ面白がってちょっとお茶飲んでってて」
「おかんの気持ちわかる。ギャップすごいよな」
「なんか有ること無いこと全部聞かれそうだから俺の部屋見たい?とか言って部屋呼んだのよ」
「アランまじか!!」
大好きな彼女を部屋に呼んだにしてはテンションが低い。
「まあ元々弟と部屋一緒やから正確には二人きりになれへんかったけど」
「弟おったんや」
「ガルーラいつものあの調子で、さっきまで聖歌歌ったった言うてずっと鼻歌歌ってて。そんで向こうの学校で詩の朗読とかの賞とったからめっちゃ上手いで?とか言われたら聴きたなるやん」
途中から北と小作が合流してアランの話を固唾を飲んで見守る。
「ガルーラのロシア語はじめて聴いたんやけど、ずっと子守唄みたいに囁いてくれて…気づいたら爆睡してもうた」
そこで言葉を区切ると両手で顔を覆った。
「カッコ悪」
「男がすたるな」
「キッスぐらいしたやろ」
「北お前キッスって言い方やば」
「したけど」
「したんかい!」
さらに落ち込む原因がまだあるらしい。
アランにとって最大の後悔なんだとか。
「今日枕元にガルーラからのプレゼント置いてあって」
「サンタさん!」
「アランはプレゼント渡せなかった?」
「いや、俺のプレゼント弟が代わりに渡してくれてた」
「なんかアランらしいわ」