このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

4話 水槽を泳ぐ舞台人形

「んで、ブラッドよどっちと思うね?」
 双方思ってもみなかった虐殺に怯えた医師を足元に震えさせながらローシは二つの脳ミソをブラッドに差し出した。
「ナンデ、オレ、ナンデスカ……」
「いやぁ、儂もマルも運悪いし。ブラッド殿であれば天運味方し万事塞翁が馬、と」
冗談じゃない。脳味噌二つ差し出されて「どっちがさっきまで被害者女性の体に入っていたものでしょう」、など不謹慎の極みだ。
「言葉が医師殿と通じないなら仕方がないじゃないか、ほれほれ一番の運男。さっさと選べい」
「間違っていたら?」
「そりゃまぁ、お前さんが一人のおなごの人生を狂わせたということで」
「冗談じゃねえッ!そんなことノー・ヒントでやるもんか!」
額の汗を拭い、ブラッドは辺りを見回した。

医師たる異生物との言語を介したコミュニケーションは不可能、
脳味噌だけで個人の特定は不可能、

 そもそも、間違ったほうが入ろうが正解が入ろうが、「私が本物です」と言われたら責めようがない。……ない?
 ふと思い立って、ブラッドは頭を開かれた女の体に近づいて行った。
今から自分が試そうとしているのはおぞましく唾棄すべき、暗黒の行為だ。資料にあった被害者、確か女優だと聞いた。ならば最悪、脳ミソをどちらも収めて本人しかわからないような質問をすればあるいは。
「最悪だ、できっかそんなこと」
「そもそもブラッド殿三次元興味なし男じゃろ」
茶々を入れる老人を無視してブラッドはさらなる手がないか考える。
「などと言っている間にもむき出しの方の脳ミソが死ぬだろう、一旦入れちまえばいいんじゃよこんなの」

 人死によりはまだマシだろうて、

悪魔のようにささやいてローシが医師を小突く。何を促されているか理解した異形の医師はしばらくむき出しになっていた脳を横たわる女の頭の中へ入れた。
5/6ページ
スキ