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4話 水槽を泳ぐ舞台人形

 『手術室』の扉の奥はおおよそ正気の世界とは程遠く、ジュクジュクと泡立った粘性のある肉壁が覆う空間だった。その天井からはおそらくこれから『入れ替え』が行われるであろう肉体がぶら下がっており、順番待ちの患者のように液体に浮かぶ脳がどこか嬉しそうに揺れている。吐き気を催す光景に口元を抑えるのはブラッドのみで、ローシはいつもと変わらぬ笑みをたたえたまま医師であろう生物に話しかけた。

「言葉、通じるかね?通じるんなら少々平和的な話をしようじゃないか」
「狂ってんのかあんた、こんなものとっとと壊して助け出せるだけの被害者連れて出ていくだろ!」
ふふ、とローシは笑いずかずかと手術台のような肉の塊へ歩を進める。
その途中おそらくうまく引っこ抜けなかったであろう脳ミソのかけらを踏んで肩をすくめて見せた。
「今、お前さんらが持っているのはこれから入れるやつかいね?違うんなら戻してほしいもんじゃのう。
そうしてくれれば一人は助かるんだが」
両手に脳ミソを抱えたあぶくだった頭部をもつそれは口と思しき器官を擦り合わせて音を発したが不快な音が鼓膜をたたくばかりであった。
「ふうむすまんのぅ、どうやら儂にはそなたらの言葉は理解できんようだ
ならしょうがない、拳で語るしかないかのぅ」
その言葉を皮切りに。俯いていたカブラギマルが肉でできた手術室の天井からぶら下げられていた少女たちを切り落とす。自分で落としておいて落ちてきたそれに戸惑うカブラギマルを押しやって、少女たちの顔を覆っていた肉片をはがすとかろうじて息を吹き返した。
「爺さん、吊るされてる連中、ギリ生きてる!」
「重畳。マルや、一人残して殺してしまえい。話も通じないんじゃ仕方がないが、今『手術』中の娘も助けてやりたいのでな」
頷くや否やカブラギマルの刀が異形の『医師』達へ襲い掛かる。緑色の液体を撒き散らす異生物たちは自分たちが襲われるなどと、自分たちが排されるなどと思ってもいなかったのかメスなどの医療器具で立ち向かう。
こうなってしまっては哀れな光景だ。ブラッドは少女たちの顔から肉片を取り除き終わるとうろたえる医師たちができるだけ苦しまぬよう、慎重に狙いを定めて引き金をひいた。
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