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4話 水槽を泳ぐ舞台人形

「連続少女誘拐事件?」
 案外、声に出してみると緊張感がないなどと
不謹慎なことを思いながらブラッドはローシの手渡してきた資料に目を通す。
はて、初っ端からおかしなことが書いてあるではないか。
「誘拐事件……なのに、被害者が自力で帰ってきている、って何だこりゃ、事件でも何でもないじゃないかよ」
隣で同じようにのぞき込んでいたカブラギマルも、ブラッドの言葉で理解したか、そうだそうだと日本語でローシに抗議したようだ。
「そう、被害者は自力で帰還している。がね」
くっくとローシは愉快そうに口元を着物の裾で隠しながら笑い薄く目を開けて言った。
「誘拐された少女たちは皆、帰ってきてから様子がおかしいんだと。
怖い目にあったんだからァしょうがないと家族は言うが、人によっちゃァ性格や所作が別人のようになっているという。不審に思って何人かこっちのほうで再誘拐してみたんじゃが、呵々おもしろい。なんとまぁ、本当に中身が変わっているんだよ」

再誘拐、という単語に思わず突っ込みをいれたくなったがそこはぐっと抑えておどろおどろしくも愉しんでいる老人に確認をいれる。
「中身っていうのはそりゃ、魂だとか、そういう?ケイオス連中ならそんなことやりかねやしないけどなかなかエキセントリックな事件じゃないかよ、俺もマルもそういうマジカルな領域には手出しできないが爺さんそれ本当に受けるつもりか?」
「そうとも。ああ、心配などしなくてもよいよ。マジカルな領域なんかじゃァない。呵々、入れ替えてるのは魂じゃない脳ミソさ。全然現実的じゃあないか!」
「脳ミソを入れ替えたら、他人になる、でござるか?それがしには理解が及びませぬ、老師」
「まぁそのあたりは奴さんらの技術の賜物、ふんじばった後に適当に讃えてやればよい。今重要なのは技術の仕組みではなく実際に人が誘拐された挙句に中身が入れ替わってしまっているということよ」
「つまりは、そう!例えば政治家だの富豪だのそういう連中が別人になり替わる可能性も今後ありうると!」
「そういうことだね。けどまぁ今は連中のビジネスの域を出ていない。ターゲットは若い女性。10代~20代の間のネ」
そういってローシは愛弟子の額に長く伸ばした詰めのついた指をあてる。
「マルや、何のビジネスだかわかるかい?」
「じょせい」
「そう。若い女性ばかりが被害にあっておる」
「繁殖?」
違う違うと首を振ってローシはもう一度と促してやる。
「美貌?自分に自信のない女の人が、きれいな女の人と入れ替わって、みたいな」
おぞましい言葉を淡々と吐く愛弟子を撫でてやりローシはにまりと口をゆがめた。
「嗚呼正解だ。それで今、新しく行方不明の少女がいると仕事が降ってきたんだよ」
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