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3話 こどくな鬼

 そんなことがあった、次の日。
「ユーッキ!昨日はごめんな、今日もスタバおごるから許してくれよぉ~」
来島だ。悪い奴ではないのだが、決定的にデリカシーがなく、いい意味でも悪い意味でも切り替えの早いクラスメイトにカブラギマルは首を振った。
「気にしてないよ。でもごめん。今日は先に約束した用事があるからスタバはパスだな」
「女か!?」
「違うよ。病院。カウンセリング」
また失言をしたと、来島の目が泳いだがカブラギマルは限界まで力を抜いて来島の頭にチョップをした。
「痛ッッッ!」
「これでチャラ。じゃあね」
そういってカブラギマルは教室を後にして万一来島が追いかけてこないよう軽く鬼の力を漂わせ、自分の身を隠しながら人混みへ急いで消えた。

 繁華街を、重いリュックを背負ったまま歩いていく。
人間として生きるか、ハンターとして生きるか。
大人たちは大人だから、自分の未来を他人事だから必死になって考えているんだろう。それでも、この感情がバケモノである証拠だとしてもカブラギマルは父親の狼藉を許す気はない。放っても置けない。
ズキズキと、削った角のあった場所がうずいたが深呼吸で疼きを消して待ち人の座っていたカフェスペースへリュックを落として存在を知らしめた。
「やっほ」
「ハイスクールはやっぱ終わるのおせーよな」
『エッジスラッシュ』の少年バディは背伸びして飲んでいたであろうブラックコーヒーをカブラギマルに押し付けて自販機へ走り、コーラを手に戻ってきた。
「話したいことなんだけどさ」
「うむ」
両手にコーラのボトルを包んでエリックは気まずそうに切り出した。
「ルディねーちゃんてどんな人なの?」
「優しい人でござるけど、どうしたでござるか?」
「んー、なんていうか、変」
カブラギマルもこれには眉を寄せる。8年前の記憶だがルディという人物はローシのような掴みどころの無い煙のような人物でもないし、彼女の師匠のような表裏のある激しい人物でもない。
かといってエリックという少年がケイオスというものを恐れているとしても理由なく他人を疑い探るような性格でもないと知っている。
だからこそ、エリックの言う『変』という言葉が引っ掛かったのだ。
そのあとすぐに英語の得意でない自分の解釈が間違っているのだろうかとも思ったが、表情からしてそうでもないようだ。
「ヘンとは?」
「ぶっちゃけブラッドと仲良くねーだろ」
「ダーリン、と呼んでるのに恋人ではないからでござるか?」
エリックの肩がすくまる。
だがしかし、その件ならばカブラギマルには思い当たる節があった。
話してよいかいけないか、しばし苦いコーヒーで舌を刺激して考慮する。
まぁ、図書館で本を開けばわかる内容だ。話してしまって構わないだろう。
「フェアリーヴァンプ、という種族にルディ殿は属してござる。
かのケイオスは生涯の半生を妖精として過ごし、ある時吸血鬼になるのでござるから実は今陽の下を自由に動いたりするのはルディ殿が妖精だからでござるよ。
 そして、フェアリーヴァンプが吸血鬼になる切っ掛けというのは他者を愛することだと聞いたでござる。
 吸血鬼になったフェアリーヴァンプは愛する人を永遠に自分の中に保存するために愛する人の血を吸いつくして殺してしまうのだそうで」
ドン引き。という顔をエリックは向ける。
まったくもってその通り、どいつもこいつも碌なものではないとカブラギマルは苦笑した。
「だから、それがしはルディ殿の振る舞いはすべて冗談なんだと思うのでござるよ」
「冗談?」
「そう、冗談。本気にならないようにいつも嘘を吐いているのでござろう。あぁ、本当はどうでもいい連中なんだよね~なんて、思ってはいないのは前提にござる。
心配しなくてもルディ殿はブラッド殿を殺してしまったりなどありますまいよ」
「なんかそれ、気持ち悪くね?嘘バッカついてたらどれが本当かわかんなくなるじゃん」
伊達に修羅場はくぐっていないか、
エリックは子供にしては鋭いとカブラギマルは思った。
自分がこの子と同じ年の頃など訓練が辛くて、あねが恋しくて、おにが憎くて逃げ回ってばかりだったろうにと目線を下げてすぐに戻した。
「夢に生きる、それが妖精の特徴にござる。むしろそういう状態のほうがルディ殿は強いし優しいのでござるよ。夢を見なくなった、現実の中の妖精というのは力を失ったか闇に堕ちた時でござるから」
それに。そういってカブラギマルはエリックの手を引いて立ち上がる。
「ちょっとダーティな側面があったほうが、ヒーローは格好いいでござるから」
「……はぐらかしてね?マルなんか超正義~!主人公!って感じで全然ダーティじゃねーじゃん」
「それは……!それがしジャパニーズヒーローでござるから!ジャンプ系でござるからな!」
「じゃあブラッドはギャグマンガの主人公かな」
「ハハハッ!それ、二人の秘密でござるよ?さ、もうすぐ日が暮れるでござる。今日は送り申すから、また時間があるときにそれがしとゲームしてくれまいか?」
「おう、上等!」
そういって手をつないだ少年に、自分の『ダーティな側面』がこれからも知られなければよいのにと疼く顔を軽く掻いて歩き出した。
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