短編
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かろかろと鈍い音が耳に届いた。丈の長い派手な草履に自分の落とした鈴など結び付けたいつもの伊達女に違いない。更木はひっかけていた酒の杯を下げて月を見上げていた顔をよそに向けた。
今は、どうにも顔をみたくない。
「ありゃひどぉい。追加にひっかけるモンお持ちしましたのにもう」
「そいつぁお前が呑みてぇだけだろうが。一人でひっかけてやがれ」
更木の元へやってきたのは、顔を半分布で隠し覆った死神の女。十一番隊の第四席だ。
やちるがいるときは姿を見せないくせに、一人でいるとどこから嗅ぎつけてきたのかは知らないがふらりと現れてはこうして酒を薦めてくる。
しかも、その量がまたひどい。
どぼどぼと樽にそそぐように他者を酒に吞ませては、自分のいいようにからかい遊ぶ……とんだ悪女だ。
「どっか行っちまえ。俺はお前に用がねえぞ」
酷い言いざまではあるが、まるでこの女には油断がならない。
酔うものならばすぐに猫のようにすり寄っては人の身心へすり寄ってくるのだからしてやられてばかりも腹立たしいので更木はしっしと追い出すしぐさをやった。
「ヤですよーぅ。一人酒なんかモテないやつのやるもんです。隊長にそんなの似合わないじゃあないですかイ?」
嫌味を一つ飛ばして勝手に隣へ座った女は手に下げていた瓢箪の中身を更木の杯へ注いでから笑った。
そして、顔に垂らしていた布をはがしてから注ぎ口へは口をつけないよう大口を開けて天を向き、酒を仰いだ。
布の下にある痛々しい傷跡が更木の目に留まる。
引き裂かれたような、刻まれたようなこの傷は女が死神になる前よりついてた。
「サクレ 、今日はくれてやらねえぞ」
「ン、何のことですかい?」
流し目で返したサクレの頬に更木は指を引っ掻けてなぞる。
前に吞み潰されたときはまんまとこの女を食ってしまったものだが、惚れた腫れたに首を突っ込み気はないのだ。シラフの時すらどうにか気をひこうとしてくるこの女へ応えてやる気にはなれなかった。
この女は、自分の顔の傷を作った男に惚れている。
生前の、遠き昔の記憶などないがうっすらと憶えている、自分を切りつけた男の『眼』。
その光へ、うらぶれるほどの埋火で炙られ続けているのだ。
だがどれほど似てるといわれようがそれは自分ではない。
ならば、その結末が出る前に手を出すのは野暮というものだ。
それなのに酒と一緒に溺れさせられた挙句、幾度も肉体を重ねて燻った火に要らない油を注いでいる。
なんとも馬鹿馬鹿しいことこの上がない。
「その気がねえし、なりゃしねえって言ってんだ」
「ああそういう。いいですよう?今日はのんびり酒を食らいたかったンですからね。……でも隊長ォ、あァ厭だ、そんなことアタシの顔見て考えてたんですか?」
誘うようにぺろっと艶めく濡れた舌で口の端に垂らした酒を拭うサクレから目を逸らし更木は羽織を肩にかけた。
この目はいけない。
眺めていると呑まれそうだ。
酒で仄かに温まっている身体でも、これ以上少しでも肌を見せれば滑り込まれそうでそこから身を護るための羽織である。
が、サクレは違うように受け取ったようで穏やかに顔を緩めて、空を眺めて息をついて零した。
「秋ですねえ。寒くなってきましたか」
「……おう」
「今年はいい月が見られるかもしンないですね。また酒の用意をして隊舎で騒ぎましょうよ。みんな一緒に」
「宴会か。かまいやしねぇがほどほどにしとけよお前はよ」
「心配してくれてますぅ?嬉しいですねえ。じゃ、宴会の途中でふたり、どっかに行っちゃいましょうか?」
また、男を食う猫の目でこちらを見ているのだろう。
そう思って更木が片目を向けた時うんざりを形にしていた更木の硬く縛った口は、意外な顔にゆるけた。
サクレはバツが悪そうにしかめた顔を赤らめてほんの少しだけ俯いていた。
「ええと、やっぱ今のナシは……ダメですかいね?」
「照れるぐれぇなら最初から言うんじゃねえ。馬鹿か」
「そうですねぇ、すいません……バカしちまいました。アッハ!」
無理矢理いつも通りの伊達を作って笑っても、どうにも座りが悪いのか酒を薦めてもそうするするとはいかないで赤い顔をなおしもしない。そのうち、適当なウソで立ち上がって退散していった。
「あれぇ剣ちゃん嬉しそう?どしたの?」
いつの間にか帰ってきたやちるがのしりと背にしがみついて聞いてくる。
更木は低い声で失笑してやちるに報告した。
「あ?勝ったんだよ、吞み比べにな」
(終)
今は、どうにも顔をみたくない。
「ありゃひどぉい。追加にひっかけるモンお持ちしましたのにもう」
「そいつぁお前が呑みてぇだけだろうが。一人でひっかけてやがれ」
更木の元へやってきたのは、顔を半分布で隠し覆った死神の女。十一番隊の第四席だ。
やちるがいるときは姿を見せないくせに、一人でいるとどこから嗅ぎつけてきたのかは知らないがふらりと現れてはこうして酒を薦めてくる。
しかも、その量がまたひどい。
どぼどぼと樽にそそぐように他者を酒に吞ませては、自分のいいようにからかい遊ぶ……とんだ悪女だ。
「どっか行っちまえ。俺はお前に用がねえぞ」
酷い言いざまではあるが、まるでこの女には油断がならない。
酔うものならばすぐに猫のようにすり寄っては人の身心へすり寄ってくるのだからしてやられてばかりも腹立たしいので更木はしっしと追い出すしぐさをやった。
「ヤですよーぅ。一人酒なんかモテないやつのやるもんです。隊長にそんなの似合わないじゃあないですかイ?」
嫌味を一つ飛ばして勝手に隣へ座った女は手に下げていた瓢箪の中身を更木の杯へ注いでから笑った。
そして、顔に垂らしていた布をはがしてから注ぎ口へは口をつけないよう大口を開けて天を向き、酒を仰いだ。
布の下にある痛々しい傷跡が更木の目に留まる。
引き裂かれたような、刻まれたようなこの傷は女が死神になる前よりついてた。
「サクレ 、今日はくれてやらねえぞ」
「ン、何のことですかい?」
流し目で返したサクレの頬に更木は指を引っ掻けてなぞる。
前に吞み潰されたときはまんまとこの女を食ってしまったものだが、惚れた腫れたに首を突っ込み気はないのだ。シラフの時すらどうにか気をひこうとしてくるこの女へ応えてやる気にはなれなかった。
この女は、自分の顔の傷を作った男に惚れている。
生前の、遠き昔の記憶などないがうっすらと憶えている、自分を切りつけた男の『眼』。
その光へ、うらぶれるほどの埋火で炙られ続けているのだ。
だがどれほど似てるといわれようがそれは自分ではない。
ならば、その結末が出る前に手を出すのは野暮というものだ。
それなのに酒と一緒に溺れさせられた挙句、幾度も肉体を重ねて燻った火に要らない油を注いでいる。
なんとも馬鹿馬鹿しいことこの上がない。
「その気がねえし、なりゃしねえって言ってんだ」
「ああそういう。いいですよう?今日はのんびり酒を食らいたかったンですからね。……でも隊長ォ、あァ厭だ、そんなことアタシの顔見て考えてたんですか?」
誘うようにぺろっと艶めく濡れた舌で口の端に垂らした酒を拭うサクレから目を逸らし更木は羽織を肩にかけた。
この目はいけない。
眺めていると呑まれそうだ。
酒で仄かに温まっている身体でも、これ以上少しでも肌を見せれば滑り込まれそうでそこから身を護るための羽織である。
が、サクレは違うように受け取ったようで穏やかに顔を緩めて、空を眺めて息をついて零した。
「秋ですねえ。寒くなってきましたか」
「……おう」
「今年はいい月が見られるかもしンないですね。また酒の用意をして隊舎で騒ぎましょうよ。みんな一緒に」
「宴会か。かまいやしねぇがほどほどにしとけよお前はよ」
「心配してくれてますぅ?嬉しいですねえ。じゃ、宴会の途中でふたり、どっかに行っちゃいましょうか?」
また、男を食う猫の目でこちらを見ているのだろう。
そう思って更木が片目を向けた時うんざりを形にしていた更木の硬く縛った口は、意外な顔にゆるけた。
サクレはバツが悪そうにしかめた顔を赤らめてほんの少しだけ俯いていた。
「ええと、やっぱ今のナシは……ダメですかいね?」
「照れるぐれぇなら最初から言うんじゃねえ。馬鹿か」
「そうですねぇ、すいません……バカしちまいました。アッハ!」
無理矢理いつも通りの伊達を作って笑っても、どうにも座りが悪いのか酒を薦めてもそうするするとはいかないで赤い顔をなおしもしない。そのうち、適当なウソで立ち上がって退散していった。
「あれぇ剣ちゃん嬉しそう?どしたの?」
いつの間にか帰ってきたやちるがのしりと背にしがみついて聞いてくる。
更木は低い声で失笑してやちるに報告した。
「あ?勝ったんだよ、吞み比べにな」
(終)
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