無頼・荒"奉仕"録
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
忠節無頼、一度離反
『背中任せるよ』
ニッと笑った彼女の顔をオニワカはひと時も忘れたことはなかった筈だ。ブスッと不貞寝をし、思い起こすはつい先ほどの戦闘のことだ。
「後ろ任せるってさ、言ったじゃんよ。なんで前に出たのさ」
アプリの終了に伴い傷がみるみる消えいく主がオニワカに説教をするため近づいて来たのだ。
「そりゃサヤカ様よ、俺が前に出た方が良かったからに決まってんだろ。奥に弓兵が控えてた。あんたじゃ届かねえ。後ろは任せたって言われたが後ろにいるのが参謀様だけじゃあ、なんだ?俺はあんたの参謀様とやりあえって事だったのかよ」
主の小さな鼻先にグググと皺が集まってオニワカは余計な口を聞いたと眉を寄せる。
「なにその言い方」
一歩踏み出しかけた主を参謀 がたしなめオニワカの考えで良かったとこちらの肩を持つ。
「サヤカ、君は少し……最近気負いすぎだと思う。俺も、オニワカさんも、ケンゴもリョウタも強くなってる。だから、もう少し信じてくれ」
「……ちょっと頭冷やすよ、うん。ちょっとさ」
明らかにもう少し噛みつきたい態度が大露わのままドカドカ道を行く主が人混みに消えるのを見届けて、困った顔の参謀に軽い別れを告げてその集まりは終わった。
「ったく、なんだよその態度……こっちはあんたの為に働いたってのによ!」
チッと舌打ちをし柱を蹴り晴れない憂さを少しでも。
そう思いつつモゴモゴと何か重い酸っぱい気持ちが腹に在る。
「後ろ……後ろ、かよ」
隣、相棒……でもなく
前、衛士……でもなく。
「俺は、あいつらと一緒かよ」
参謀 と癒者 のおどおどとした顔が浮かび、溜息をつく。
「こんなの『前世 』はこんなじゃ……なかった?のによ」
彼女に感じる縁の糸、自分ではない自分の命を朧げに感じながら唇を尖らせた。
何故、『昔』のようにはさせてくれない。
主に仇なすものの前に立ちはだかる事を許さない。
「最期まで……やり遂げた……?のによう」
熱いような記憶にもならない亡景の先を紡ごうとしても、それは無駄に虚空を指絡めるだけのこと。
オニワカはまごまご考えるのが下らなくなり一念発起と立ち上がった。
「よう」
アプリで追跡して見つけた主の首根っこを掴んだのは池袋の闘技場だった。
「随分ストレス解消に暴れたみてーだな。儲かっていいこった」
「なにさー……嫌味言いに来たのならマネージャー通してよね。仲いいんでしょ、シロウもオニワカが正しいって言ってたじゃんか」
子猫のように吊るされたまま、支配人がカルトンに載せて持って来たコインを財布にしまいながらブツクサ言う主を地面に落とした。
オニワカはお小言を言いたげな支配人に牙を剥き、彼女を引きずったまま地下闘技場を出た。
ズルズル引きずられた主はおそらくヘソを曲げているだろう。黙っている。
ようやく廃寺の瓦礫が見えてくるとオニワカは主から手を離し、薙刀を構えてまっすぐと彼女を見やった。
「お、やろうっての」
「おうよ。腹が立ってしょうがねえ。ここでもいっぺんやり合おうや。これで勝ったら俺はもうお前についていかねえ」
「ああそうだね」
そう言って、止めるでもなく主は刀を抜いた。
そして
「皮肉ばっかで返されるのもうざったいからさ!」
びょうと風を切り裂く音を立て、女がオニワカの懐に飛び込んでくる。その足を払い、薙刀で棒高跳びよろしく宙へ退き一度適度な距離をとる。
池袋地下で戦った時とは比べるも無く主は強くなり、そして、己は?
思考に呼吸、虚を狙う女の剣筋に向かい薙刀の柄で防御する。グッと丹田に気を込め虚実を切り替え劔を搦めとるように柄を操った。
さりとて女も馬鹿では無い。一度一瞬の間だけ劔から手を離し、オニワカの薙をかわしつつ野生動物じみた瞬発力で劔を持ち直す。そのまま一度オニワカの脇を通り抜け瓦礫の中に身を隠した。
さて、どう出るか。
オニワカはどくどく嗤う心音を聞きながら、耳をこれでもかとそばだてる。
伽藍 と瓦礫が音を立て、ここかと薙刀で突き刺したが手応えがない。気づいた時にはもう遅く、
あろうことか自分の獲物を囮にした主がその脇からずるりと這い出てオニワカの額に手刀を喰らわせるまでに
ああ、昔のオニワカでさえあれば。
この主を3度は嬲っていれただろう。
「これで勝ちじゃ不服かいねオニワカさん」
「負けでいいぜ。なっさけねえ限りだ」
どっかりと地面に座り、オニワカは主の顔を見やる。
「俺はあんたの為に闘うにゃ実力が足りねえってか」
「お、それが言いたかったんですかいね」
「おう」
オニワカの隣に座り、瓦礫の向こうに落ちていく陽を見ながら主は言った。
「正直言うとですねえ。オニワカに前に居られるといやなんだよね」
唇を尖らせて、腹を抑えながら主は言った。
「なんかこう……お腹痛くなるからさ」
「なんだそりゃ」
「なんだろね。でも、オニワカの背中見てるとお腹痛いし、なんだか凄く哀しくて悔しい気持ちになるよ」
「ああ、そうかい」
覚えて居ないが、確かに感じるのであれば。
それが、自分の背中が主の見た過去の自分の最期なのだろう。
オニワカはじゃあと声に出して切り出した。
「隣なら、まぁ、いいのか?」
「おっいいぞよ。ケンゴ殿と精々張り合うが良い」
「何様だよ!ったく。世話かけたな、ホラ」
立ち上がり、なんと無く背を見せないように主に手を差し出す。
「お、さんきゅ」
その手を握って立ち上がった主が尻についた砂埃を払っている隙にオニワカは繋いだままの手を自分のパーカーのポケットへ無造作に突っ込んだ。
「お?」
「まぁなんだ、門限までには寮に送り届けっからよ。それまで……おう」
「むふっふ愛いやつじゃのう」
「巫山戯んなっての」
チッと舌打ちをして歩き出す。
「今日はオニワカが甘えん坊だ」
「暴れん坊の間違いだろ。ご主人様に刃向けてよ」
「じゃれに来たんだから甘えん坊だよ」
「ケ」
「それでも」
ポツリと言って主が少し身を寄せた。
「勝ててよかった」
「言いやがる」
オニワカはいつものように歯を見せて挑発的に笑ってみせた。
fin
『背中任せるよ』
ニッと笑った彼女の顔をオニワカはひと時も忘れたことはなかった筈だ。ブスッと不貞寝をし、思い起こすはつい先ほどの戦闘のことだ。
「後ろ任せるってさ、言ったじゃんよ。なんで前に出たのさ」
アプリの終了に伴い傷がみるみる消えいく主がオニワカに説教をするため近づいて来たのだ。
「そりゃサヤカ様よ、俺が前に出た方が良かったからに決まってんだろ。奥に弓兵が控えてた。あんたじゃ届かねえ。後ろは任せたって言われたが後ろにいるのが参謀様だけじゃあ、なんだ?俺はあんたの参謀様とやりあえって事だったのかよ」
主の小さな鼻先にグググと皺が集まってオニワカは余計な口を聞いたと眉を寄せる。
「なにその言い方」
一歩踏み出しかけた主を
「サヤカ、君は少し……最近気負いすぎだと思う。俺も、オニワカさんも、ケンゴもリョウタも強くなってる。だから、もう少し信じてくれ」
「……ちょっと頭冷やすよ、うん。ちょっとさ」
明らかにもう少し噛みつきたい態度が大露わのままドカドカ道を行く主が人混みに消えるのを見届けて、困った顔の参謀に軽い別れを告げてその集まりは終わった。
「ったく、なんだよその態度……こっちはあんたの為に働いたってのによ!」
チッと舌打ちをし柱を蹴り晴れない憂さを少しでも。
そう思いつつモゴモゴと何か重い酸っぱい気持ちが腹に在る。
「後ろ……後ろ、かよ」
隣、相棒……でもなく
前、衛士……でもなく。
「俺は、あいつらと一緒かよ」
「こんなの『
彼女に感じる縁の糸、自分ではない自分の命を朧げに感じながら唇を尖らせた。
何故、『昔』のようにはさせてくれない。
主に仇なすものの前に立ちはだかる事を許さない。
「最期まで……やり遂げた……?のによう」
熱いような記憶にもならない亡景の先を紡ごうとしても、それは無駄に虚空を指絡めるだけのこと。
オニワカはまごまご考えるのが下らなくなり一念発起と立ち上がった。
「よう」
アプリで追跡して見つけた主の首根っこを掴んだのは池袋の闘技場だった。
「随分ストレス解消に暴れたみてーだな。儲かっていいこった」
「なにさー……嫌味言いに来たのならマネージャー通してよね。仲いいんでしょ、シロウもオニワカが正しいって言ってたじゃんか」
子猫のように吊るされたまま、支配人がカルトンに載せて持って来たコインを財布にしまいながらブツクサ言う主を地面に落とした。
オニワカはお小言を言いたげな支配人に牙を剥き、彼女を引きずったまま地下闘技場を出た。
ズルズル引きずられた主はおそらくヘソを曲げているだろう。黙っている。
ようやく廃寺の瓦礫が見えてくるとオニワカは主から手を離し、薙刀を構えてまっすぐと彼女を見やった。
「お、やろうっての」
「おうよ。腹が立ってしょうがねえ。ここでもいっぺんやり合おうや。これで勝ったら俺はもうお前についていかねえ」
「ああそうだね」
そう言って、止めるでもなく主は刀を抜いた。
そして
「皮肉ばっかで返されるのもうざったいからさ!」
びょうと風を切り裂く音を立て、女がオニワカの懐に飛び込んでくる。その足を払い、薙刀で棒高跳びよろしく宙へ退き一度適度な距離をとる。
池袋地下で戦った時とは比べるも無く主は強くなり、そして、己は?
思考に呼吸、虚を狙う女の剣筋に向かい薙刀の柄で防御する。グッと丹田に気を込め虚実を切り替え劔を搦めとるように柄を操った。
さりとて女も馬鹿では無い。一度一瞬の間だけ劔から手を離し、オニワカの薙をかわしつつ野生動物じみた瞬発力で劔を持ち直す。そのまま一度オニワカの脇を通り抜け瓦礫の中に身を隠した。
さて、どう出るか。
オニワカはどくどく嗤う心音を聞きながら、耳をこれでもかとそばだてる。
あろうことか自分の獲物を囮にした主がその脇からずるりと這い出てオニワカの額に手刀を喰らわせるまでに
ああ、昔のオニワカでさえあれば。
この主を3度は嬲っていれただろう。
「これで勝ちじゃ不服かいねオニワカさん」
「負けでいいぜ。なっさけねえ限りだ」
どっかりと地面に座り、オニワカは主の顔を見やる。
「俺はあんたの為に闘うにゃ実力が足りねえってか」
「お、それが言いたかったんですかいね」
「おう」
オニワカの隣に座り、瓦礫の向こうに落ちていく陽を見ながら主は言った。
「正直言うとですねえ。オニワカに前に居られるといやなんだよね」
唇を尖らせて、腹を抑えながら主は言った。
「なんかこう……お腹痛くなるからさ」
「なんだそりゃ」
「なんだろね。でも、オニワカの背中見てるとお腹痛いし、なんだか凄く哀しくて悔しい気持ちになるよ」
「ああ、そうかい」
覚えて居ないが、確かに感じるのであれば。
それが、自分の背中が主の見た過去の自分の最期なのだろう。
オニワカはじゃあと声に出して切り出した。
「隣なら、まぁ、いいのか?」
「おっいいぞよ。ケンゴ殿と精々張り合うが良い」
「何様だよ!ったく。世話かけたな、ホラ」
立ち上がり、なんと無く背を見せないように主に手を差し出す。
「お、さんきゅ」
その手を握って立ち上がった主が尻についた砂埃を払っている隙にオニワカは繋いだままの手を自分のパーカーのポケットへ無造作に突っ込んだ。
「お?」
「まぁなんだ、門限までには寮に送り届けっからよ。それまで……おう」
「むふっふ愛いやつじゃのう」
「巫山戯んなっての」
チッと舌打ちをして歩き出す。
「今日はオニワカが甘えん坊だ」
「暴れん坊の間違いだろ。ご主人様に刃向けてよ」
「じゃれに来たんだから甘えん坊だよ」
「ケ」
「それでも」
ポツリと言って主が少し身を寄せた。
「勝ててよかった」
「言いやがる」
オニワカはいつものように歯を見せて挑発的に笑ってみせた。
fin
1/2ページ