ごまかし
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静かな古城は霧が立ち込めぼんやりと輪郭を夜に溶かしながら、静かに存在している。死者が歩くその城の中、ゆらりゆらりと灯りが動く。
ロジーナはあくびをしながら主人の部屋に入っていった。
「おはようございます、伯爵様」
カンテラを床に置き、棺桶の蓋を持ち上げる。黒い髪に青い肌。シンプルなグレーのスーツ姿の男が横たわっていた。
「伯爵様?」
返事はない。
「あら、今日はお寝坊さんなのですね」
独りごちて口の端をぐいんと上げる。生唾を飲み込み深呼吸。ロジーナはゆっくりと、伯爵の顔の上に自らの顔を下ろす。吸血鬼の唇に、女の唇が重なろうとしたその時、襲いかかるように女は唇を奪われていた。咄嗟に逃げようとした際噛み切ってしまった唇から溢れた血を舐めとって吸血鬼が満足げに舌舐めずりをする。
「おはよう、ロジーナ」
「いじわるなお方ですこと」
新たな日が始まった挨拶を軽くかわしロジーナは懐から手紙を取り出す。
「報告だそうですよ。きちんと返事をしてあげてくださいませね?」
ちくりと言ってロジーナは階段を先に降りていく。この女の今日の仕事といえば、伯爵の食事に付き合うのみだ。
その準備をする為に主人を置いて行ったのだった。
「もう少しゆっくりすれば良いものを、クク」
肩を竦めて手紙を開き螺旋階段を降りていく。ギルドの支部を襲う任務を与えた部下からの報告を目で追っていく。
首尾は上々。そうでなくてはと頷きながらヒゲを擦り書斎へ降りる。
足りない兵器はないか?軍の増強は必要か?そういった事が書き記されていないこの報告は、戦いの素人である部下らしいものだった。
鳩に括りつけて送り返すより、何某かの部隊に持たせた方がいいだろうか?伯爵はクッと眉を寄せた。
はていつものこの男の文字はといくつか報告書を纏めて余裕があるかを推し量る。
「この分なら、鳩で構わぬか」
返事を軽くしたため鳩を飛ばし、待ちに待った夕食だ。
伯爵は大仰なベッドの中で待っていた食料の頬を撫でた。
潤んだ目で自分を見上げる獲物の耳元で労りの言葉を送り、その美を讃え、紛いの愛を囁けば、もう獲物は蕩けた瞳で伯爵の牙を見る他ない。
「どうした。そんな顔をして」
「もう、あなたさまという方は本当にいじわるですのね。わたくし解っておりますのよ?貴方は人を労わらない。貴方はか弱きものに惹かれない。貴方は人を愛さない。それですのに、まるで「そう」感じているかの様に私に言葉をかけますの。わたくしは、まやかしと知ってなお、あなたさまのお言葉に心を、いいえ魂まで蕩かしてしまうのですわ」
憐れな女だ。
伯爵はほくそ笑む。ああそうともと。
吸血鬼は生命を嗤う。
焦がれるのは肉を抱く快感ではなく肉を裂き合う殺し合い。
そして、どう足掻こうが、自分はロジーナを愛せない。
それでも、まるでこの女を労り、睦み、愛する様に接してしまう。
愚かな男だと。
伯爵は苦笑した。嗚呼なんと無様だと。
「では、お前はどうして欲しいのだ?」
虚ろである筈の胸に着いた火を握りつぶす様に冷ややかな視線を作り獲物を見下げる。
「わたくしは、あなた様の糧でよろしいのです」
そして、女も。自らの炎を抑えて言っているのだろう。
「ならばよい。それらしくしているといい」
伯爵は獲物の首にかぶりついた。
ロジーナはあくびをしながら主人の部屋に入っていった。
「おはようございます、伯爵様」
カンテラを床に置き、棺桶の蓋を持ち上げる。黒い髪に青い肌。シンプルなグレーのスーツ姿の男が横たわっていた。
「伯爵様?」
返事はない。
「あら、今日はお寝坊さんなのですね」
独りごちて口の端をぐいんと上げる。生唾を飲み込み深呼吸。ロジーナはゆっくりと、伯爵の顔の上に自らの顔を下ろす。吸血鬼の唇に、女の唇が重なろうとしたその時、襲いかかるように女は唇を奪われていた。咄嗟に逃げようとした際噛み切ってしまった唇から溢れた血を舐めとって吸血鬼が満足げに舌舐めずりをする。
「おはよう、ロジーナ」
「いじわるなお方ですこと」
新たな日が始まった挨拶を軽くかわしロジーナは懐から手紙を取り出す。
「報告だそうですよ。きちんと返事をしてあげてくださいませね?」
ちくりと言ってロジーナは階段を先に降りていく。この女の今日の仕事といえば、伯爵の食事に付き合うのみだ。
その準備をする為に主人を置いて行ったのだった。
「もう少しゆっくりすれば良いものを、クク」
肩を竦めて手紙を開き螺旋階段を降りていく。ギルドの支部を襲う任務を与えた部下からの報告を目で追っていく。
首尾は上々。そうでなくてはと頷きながらヒゲを擦り書斎へ降りる。
足りない兵器はないか?軍の増強は必要か?そういった事が書き記されていないこの報告は、戦いの素人である部下らしいものだった。
鳩に括りつけて送り返すより、何某かの部隊に持たせた方がいいだろうか?伯爵はクッと眉を寄せた。
はていつものこの男の文字はといくつか報告書を纏めて余裕があるかを推し量る。
「この分なら、鳩で構わぬか」
返事を軽くしたため鳩を飛ばし、待ちに待った夕食だ。
伯爵は大仰なベッドの中で待っていた食料の頬を撫でた。
潤んだ目で自分を見上げる獲物の耳元で労りの言葉を送り、その美を讃え、紛いの愛を囁けば、もう獲物は蕩けた瞳で伯爵の牙を見る他ない。
「どうした。そんな顔をして」
「もう、あなたさまという方は本当にいじわるですのね。わたくし解っておりますのよ?貴方は人を労わらない。貴方はか弱きものに惹かれない。貴方は人を愛さない。それですのに、まるで「そう」感じているかの様に私に言葉をかけますの。わたくしは、まやかしと知ってなお、あなたさまのお言葉に心を、いいえ魂まで蕩かしてしまうのですわ」
憐れな女だ。
伯爵はほくそ笑む。ああそうともと。
吸血鬼は生命を嗤う。
焦がれるのは肉を抱く快感ではなく肉を裂き合う殺し合い。
そして、どう足掻こうが、自分はロジーナを愛せない。
それでも、まるでこの女を労り、睦み、愛する様に接してしまう。
愚かな男だと。
伯爵は苦笑した。嗚呼なんと無様だと。
「では、お前はどうして欲しいのだ?」
虚ろである筈の胸に着いた火を握りつぶす様に冷ややかな視線を作り獲物を見下げる。
「わたくしは、あなた様の糧でよろしいのです」
そして、女も。自らの炎を抑えて言っているのだろう。
「ならばよい。それらしくしているといい」
伯爵は獲物の首にかぶりついた。
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