カクテルをキミと
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自覚のない行動により自分の周りにいる人物に被害を撒き散らすという事は多々あることだとフスマはしみじみ思っていた。
フスマはエンジンシティの警察官だ。今日は捕まえたばかりのクスネが手に付けられず結果的にきのみを盗むことになった少年を捕まえ調書を書いていたのだ。
グスグスと泣きじゃくる少年のポケモンから一口齧られたオボンのみを取り上げてため息を一つつく。
「いいかな、君の大好きな相棒は悪気がないままに今日のようなことをしてしまう。それをどうにかできるのはキミだけ。この子をきちんと育てるとおまわりさんと約束できるかな?」
涙目でこくこくと頷く子供に無邪気そうに暴れるクスネを明け渡し加えてフスマは言ったのだ。
「今日はごめんなさいだけで済んだけれど次があればトレーナーズスクールであくタイプのポケモンの育て方の研修受けないといけない。……トレーナーを目指すなら研修じゃなくても行って損はないけどね」
バトルは楽しいよ、とも苦笑をしながら付け加えフスマは少年に手を振って送りだした。
自覚のない悪。
ふと昔を思い出して相棒の入っているボールを撫でるとばちりと眼が合った。
オーロンゲはにっこりと笑って答えてくれたが出会いを思い出すとどうにも苦笑いしか浮かんでこない。彼のいたずらでルミナスメイズの森を朝まで駆けずり回ることになったのだから。
そういえば、自覚なく自分を困らせるやつがもう一人いたではないかと思いだした途端にやや上の方から聞きたくもない声がおりてきた。
「よ、おまわりサン。忙しそうだな!」
「……話しかけないでほしいし肩も組まないでほしい」
ふいに話しかけてきて背後から包むように肩を組んできた『幼馴染』に冷たく言い放つのは自身を護るため。何を隠そう、相手はジムリーダーの中でもとくだんに人気な「キバナさま」だからだ。
幼馴染だからと行動を伴した結果ひどい目に遭った回数は数え切れず、いくらキバナに悪気がないにしても過激なファンの扱いは自分でどうにかしてほしいものだ。私生活を逐一ネットに乗せるせいで変な勘繰りをされること多数。同僚がハイになった熱狂的ファンを逮捕する羽目に発展したことだってある。
……だというのに、この男はお互いがいつまでもローティーンの頃のようにじゃれついてくるのだからフスマの心労は絶えることがない。
「今年はどうするよ?ジムチャレンジ。おれさま推薦状書いてきてやったんだけど」
「参加しない。永劫に参加しない、絶対参加しない」
組んでいた肩を解いて不服そうにキバナは何故と問いてきた。
あまりに真っ直ぐ見つめてくるこの男がどうにも居心地が悪く、フスマは派手な溜息をついて答えるのだった。
「二度とテレビには映りたくない……!絶対に参加して見なよ、マスコミ連中は根掘り葉掘り調べ上げてくっついてくるし黒歴史を大々的に取り上げてくる!」
「……自意識過剰じゃね?」
「ちっ、こちとら元・天才子役ですけど元・一般クソガキのキバナくん!?」
『キバナくん』がいけなかったのか。
過去と同じ呼び方に顔を輝かせ、すぐにニヤニヤと愉しげに垂れた眼を弧にしたキバナは言った。
「オリコン一位の代表作『マシェードのうた』、おれさまのスマホロトムにも入ってるぜ」
「やめろ!!」
フスマはエンジンシティの警察官だ。
だが出身自体はアラベスクタウンで物心ついたころから劇団の子役として活躍し多くの大人に愛されて育ってきた。
そして大人たちに期待されるままにジムチャレンジに挑み、追いかけてくるマスコミに愛想を振りまきながらセミファイナルまで到達し……圧倒的な力の差でキバナに敗れたのだった。
それ以来フスマは人に愛想を振りまくのはうんざりになった。誰かの期待を受け止めるのが辛かった。人の目線が怖かった。劇団もやめ、キラキラした格好もやめて地味な服を着て、今までおざなりにしていた勉強に打ち込んで「平凡な未来」を目指しだしたのだ。
「いいよ、お前の本当にしたいことをおし」
そう言って送り出してくれたのは自分に推薦状を書いてくれたポプラだけで、両親はとてもがっかりした顔をしていたのを憶えている。
バトルは楽しいよ。苦笑しながら言ったあの言葉は本心だ。苦笑に込めた感情も。
しかしながら、楽しいのと楽しみ続けることは違う。
もうフスマは楽しくポケモンバトルをすることはできないだろう。
あの日、あんなに沢山の観衆の中手酷い敗北を味わってあの観衆以外にもテレビをつけていた皆が、自分の演技を見てくれた皆が、自分の歌を聞いてくれた皆が……自分に失望した。
その舞台にキバナは自分を引き戻そうとしている。もう自分のことなど憶えている人間などそうそういないとは解っている。でも、「その眼」が怖かった。
キバナの自分を見据える目すら眩しく強く、怖ろしい。
「おまえ、今日上がりいつ?今日のみにいかねぇ?」
「……バイトとは違うんだけどな、ヤードは」
思わず吹き出して苦言を呈してからフスマはほころんだ顔を厳しい顔に引き戻した。
その反応へとにかっと笑ってキバナはロトムにアラームを指示する。時間通りに帰ることができるとは限らないぞと釘を刺してもキバナはふにゃりと笑んで呑みながら待っているというのだった。
嫌な顔だ。すこし残業をしてすっぽかしてやろうと思っていたのに先輩や上司が生暖かい表情で仕事を奪っていき、早く帰りなさいと言ってきたのだ。
そのおかげで遅刻することもなくパブに着き、キバナの座っている席の隣へわざと乱雑な様子で座り込んだ。
「ジントニックをひとつ」
「よっ、おつかれさん」
ぽんと肩を叩いて労いフスマの頼んだカクテルの写真を撮ってネットに上げるキバナ。そこに通知の音がポンポンとつき始めフスマは頭を抱えて濁った声を出す。
「……おまえさぁ、ほんと、ねえ。自分がどんな存在か解れよも~~~~」
自分のスマホもなんだかポンポン言い出した気がする。以前にキバナとの関係を勘違いされたときから自分の存在はどうにもネット上で監視されているらしい。
というか、そこから素性を調べ上げてキバナが接触した来た日にひたすら「マシェード」という書き込みが来る恐怖のアカウントへと変貌してしまっている。
「マシェードか?」
「マシェードだよ……」
(終)
フスマはエンジンシティの警察官だ。今日は捕まえたばかりのクスネが手に付けられず結果的にきのみを盗むことになった少年を捕まえ調書を書いていたのだ。
グスグスと泣きじゃくる少年のポケモンから一口齧られたオボンのみを取り上げてため息を一つつく。
「いいかな、君の大好きな相棒は悪気がないままに今日のようなことをしてしまう。それをどうにかできるのはキミだけ。この子をきちんと育てるとおまわりさんと約束できるかな?」
涙目でこくこくと頷く子供に無邪気そうに暴れるクスネを明け渡し加えてフスマは言ったのだ。
「今日はごめんなさいだけで済んだけれど次があればトレーナーズスクールであくタイプのポケモンの育て方の研修受けないといけない。……トレーナーを目指すなら研修じゃなくても行って損はないけどね」
バトルは楽しいよ、とも苦笑をしながら付け加えフスマは少年に手を振って送りだした。
自覚のない悪。
ふと昔を思い出して相棒の入っているボールを撫でるとばちりと眼が合った。
オーロンゲはにっこりと笑って答えてくれたが出会いを思い出すとどうにも苦笑いしか浮かんでこない。彼のいたずらでルミナスメイズの森を朝まで駆けずり回ることになったのだから。
そういえば、自覚なく自分を困らせるやつがもう一人いたではないかと思いだした途端にやや上の方から聞きたくもない声がおりてきた。
「よ、おまわりサン。忙しそうだな!」
「……話しかけないでほしいし肩も組まないでほしい」
ふいに話しかけてきて背後から包むように肩を組んできた『幼馴染』に冷たく言い放つのは自身を護るため。何を隠そう、相手はジムリーダーの中でもとくだんに人気な「キバナさま」だからだ。
幼馴染だからと行動を伴した結果ひどい目に遭った回数は数え切れず、いくらキバナに悪気がないにしても過激なファンの扱いは自分でどうにかしてほしいものだ。私生活を逐一ネットに乗せるせいで変な勘繰りをされること多数。同僚がハイになった熱狂的ファンを逮捕する羽目に発展したことだってある。
……だというのに、この男はお互いがいつまでもローティーンの頃のようにじゃれついてくるのだからフスマの心労は絶えることがない。
「今年はどうするよ?ジムチャレンジ。おれさま推薦状書いてきてやったんだけど」
「参加しない。永劫に参加しない、絶対参加しない」
組んでいた肩を解いて不服そうにキバナは何故と問いてきた。
あまりに真っ直ぐ見つめてくるこの男がどうにも居心地が悪く、フスマは派手な溜息をついて答えるのだった。
「二度とテレビには映りたくない……!絶対に参加して見なよ、マスコミ連中は根掘り葉掘り調べ上げてくっついてくるし黒歴史を大々的に取り上げてくる!」
「……自意識過剰じゃね?」
「ちっ、こちとら元・天才子役ですけど元・一般クソガキのキバナくん!?」
『キバナくん』がいけなかったのか。
過去と同じ呼び方に顔を輝かせ、すぐにニヤニヤと愉しげに垂れた眼を弧にしたキバナは言った。
「オリコン一位の代表作『マシェードのうた』、おれさまのスマホロトムにも入ってるぜ」
「やめろ!!」
フスマはエンジンシティの警察官だ。
だが出身自体はアラベスクタウンで物心ついたころから劇団の子役として活躍し多くの大人に愛されて育ってきた。
そして大人たちに期待されるままにジムチャレンジに挑み、追いかけてくるマスコミに愛想を振りまきながらセミファイナルまで到達し……圧倒的な力の差でキバナに敗れたのだった。
それ以来フスマは人に愛想を振りまくのはうんざりになった。誰かの期待を受け止めるのが辛かった。人の目線が怖かった。劇団もやめ、キラキラした格好もやめて地味な服を着て、今までおざなりにしていた勉強に打ち込んで「平凡な未来」を目指しだしたのだ。
「いいよ、お前の本当にしたいことをおし」
そう言って送り出してくれたのは自分に推薦状を書いてくれたポプラだけで、両親はとてもがっかりした顔をしていたのを憶えている。
バトルは楽しいよ。苦笑しながら言ったあの言葉は本心だ。苦笑に込めた感情も。
しかしながら、楽しいのと楽しみ続けることは違う。
もうフスマは楽しくポケモンバトルをすることはできないだろう。
あの日、あんなに沢山の観衆の中手酷い敗北を味わってあの観衆以外にもテレビをつけていた皆が、自分の演技を見てくれた皆が、自分の歌を聞いてくれた皆が……自分に失望した。
その舞台にキバナは自分を引き戻そうとしている。もう自分のことなど憶えている人間などそうそういないとは解っている。でも、「その眼」が怖かった。
キバナの自分を見据える目すら眩しく強く、怖ろしい。
「おまえ、今日上がりいつ?今日のみにいかねぇ?」
「……バイトとは違うんだけどな、ヤードは」
思わず吹き出して苦言を呈してからフスマはほころんだ顔を厳しい顔に引き戻した。
その反応へとにかっと笑ってキバナはロトムにアラームを指示する。時間通りに帰ることができるとは限らないぞと釘を刺してもキバナはふにゃりと笑んで呑みながら待っているというのだった。
嫌な顔だ。すこし残業をしてすっぽかしてやろうと思っていたのに先輩や上司が生暖かい表情で仕事を奪っていき、早く帰りなさいと言ってきたのだ。
そのおかげで遅刻することもなくパブに着き、キバナの座っている席の隣へわざと乱雑な様子で座り込んだ。
「ジントニックをひとつ」
「よっ、おつかれさん」
ぽんと肩を叩いて労いフスマの頼んだカクテルの写真を撮ってネットに上げるキバナ。そこに通知の音がポンポンとつき始めフスマは頭を抱えて濁った声を出す。
「……おまえさぁ、ほんと、ねえ。自分がどんな存在か解れよも~~~~」
自分のスマホもなんだかポンポン言い出した気がする。以前にキバナとの関係を勘違いされたときから自分の存在はどうにもネット上で監視されているらしい。
というか、そこから素性を調べ上げてキバナが接触した来た日にひたすら「マシェード」という書き込みが来る恐怖のアカウントへと変貌してしまっている。
「マシェードか?」
「マシェードだよ……」
(終)
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