骨と鱗
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筋肉質な肉体をキャンバスに叩きつけるひどい音が耳に響いた。衝撃に大きく息を吐きボーン・コールドは咳き込んだ。
「病み上がりだぜ、加減しろよな……ごほっ」
差し出された手に手を重ねて起き上がり自分を投げ飛ばした女へ苦言を呈する。女はくすくすと笑いボーンの背を叩いてロープに寄り添わせた。
「何かあれば速攻出動。死んでも戦うのが正義超人。少しだけ休ませてあげるから認識を改めることね」
アンタッチャブルの生き残りで自分たち、ノーリスペクトの看守をしていた女超人はスポーツドリンクを雑に一口飲んでからバキバキと腕をならし始めた。
「ッは、ブラックだな正義超人様ってやつは。やめだやめだ、くだらねえ」
「あらら、殿下とやり合って反省したんじゃなかった?それとも私に投げられたのがご不満なのかなァ?」
「バカいえ」
ボーンが首をならしてとびかかると、女はそれをしなやかに避け、腰から生えている鱗に覆われた尻尾でその顔を叩きつける。が、ボーンは顔に叩きつけられた尾を掴んで彼女をロープへ流し、跳ね返ったその顔を掴んでマットへ叩けつける。お返しだ。
「あーッ、痛゛ッた!」
「レッサちゃんよぉ顔じゃないから女の顔にィ~ってのはナシだぜ?」
「言う訳ないでしょ、ばか。調子乗ればこうなるっていい勉強させてもらったわ。ありがとう」
苦々しげにそういって立ち上がった女をボーンは追い打ちなどしなかった。
少し前ならば相手が死ぬまで手は止めない。いいや、相手を殺す以外の仕事は受けなかった。
それでも、キン肉万太郎と戦い打ちのめされて今までとは違う道へ顔が向いたからには死を回避する戦い方というを学ばなければならず、体が動かせるようになってすぐに自分の看守にスパーリングを頼んでいるわけだ。
「殺さないってのいうのは、難しいモンだな。よくあんなマネをしてみせる」
「そうでしょうそうでしょう。だから私たちは強いの。なーんて言ったらむかつく?」
「あぁ、腹が立つゼ。……どいつもこいつも眩しくてな」
そう。目の前の女も。
太陽のように輝く金色の瞳が、砂漠の砂のような褐色の肌が、枯草のような乾いた緑色の髪が。奥底には自分と同じ不信と孤独があるというのに、導かれた者ゆえだろうか、その眼は太陽を、光を向いている。
そして万太郎にもあった慈悲を持ち合わせた存在をどれほど疎ましく思っただろう。
あの日自分を捨てた母がこんな人物だったならもっと早く自分はここに居たのではなかろうか。
そんな思考がじっとりと肌を伝って流れ落ちる汗のように脳を覆い包む。
「バカなことを考えてるでしょ、今」
こつんと軽く飲み物が入ったグラスで頭を叩かれてボーンの思考は現実へ引き戻された。
「かもな」
渡された飲料を飲み干してボーンは座り込んだ。
「まだかかりそうだ、キモチ面ってとこがな」
「でっしょうねえ」
その隣にすとんと座り、女は尾を撫でながら言った。
「私は人というのはすぐ変わるものではないと思ってる。そして、一度手を血に染めてしまったものは強靭な精神が無ければすぐに壊れてしまうとも。お互いどこまでやっていけるやら」
ボーンを真似したかのようにニヒルに言うリプレッサを動揺の目で眺めると、彼女は誤魔化すように笑っていった。
「一つ殺し屋さんに依頼していい?私が壊れた時は頼むってさ」
「……受けられねえな。あいにく廃業してんだ、そいつはよ」
「そっか、ざんねん」
沈黙。どう切り出していいかボーンにはわからなかった。到底、ビジネスと力関係以外で人と繋がったことなどなかったのだから。
「じゃあ、相互監視。アンタは私がおかしくならないよう見張って、私は今まで通りアンタを見張る。それでいきましょう?」
一緒に、と小さく付け加えて差し出された小指をボーンは絡めて同意することにした。
(終)
「病み上がりだぜ、加減しろよな……ごほっ」
差し出された手に手を重ねて起き上がり自分を投げ飛ばした女へ苦言を呈する。女はくすくすと笑いボーンの背を叩いてロープに寄り添わせた。
「何かあれば速攻出動。死んでも戦うのが正義超人。少しだけ休ませてあげるから認識を改めることね」
アンタッチャブルの生き残りで自分たち、ノーリスペクトの看守をしていた女超人はスポーツドリンクを雑に一口飲んでからバキバキと腕をならし始めた。
「ッは、ブラックだな正義超人様ってやつは。やめだやめだ、くだらねえ」
「あらら、殿下とやり合って反省したんじゃなかった?それとも私に投げられたのがご不満なのかなァ?」
「バカいえ」
ボーンが首をならしてとびかかると、女はそれをしなやかに避け、腰から生えている鱗に覆われた尻尾でその顔を叩きつける。が、ボーンは顔に叩きつけられた尾を掴んで彼女をロープへ流し、跳ね返ったその顔を掴んでマットへ叩けつける。お返しだ。
「あーッ、痛゛ッた!」
「レッサちゃんよぉ顔じゃないから女の顔にィ~ってのはナシだぜ?」
「言う訳ないでしょ、ばか。調子乗ればこうなるっていい勉強させてもらったわ。ありがとう」
苦々しげにそういって立ち上がった女をボーンは追い打ちなどしなかった。
少し前ならば相手が死ぬまで手は止めない。いいや、相手を殺す以外の仕事は受けなかった。
それでも、キン肉万太郎と戦い打ちのめされて今までとは違う道へ顔が向いたからには死を回避する戦い方というを学ばなければならず、体が動かせるようになってすぐに自分の看守にスパーリングを頼んでいるわけだ。
「殺さないってのいうのは、難しいモンだな。よくあんなマネをしてみせる」
「そうでしょうそうでしょう。だから私たちは強いの。なーんて言ったらむかつく?」
「あぁ、腹が立つゼ。……どいつもこいつも眩しくてな」
そう。目の前の女も。
太陽のように輝く金色の瞳が、砂漠の砂のような褐色の肌が、枯草のような乾いた緑色の髪が。奥底には自分と同じ不信と孤独があるというのに、導かれた者ゆえだろうか、その眼は太陽を、光を向いている。
そして万太郎にもあった慈悲を持ち合わせた存在をどれほど疎ましく思っただろう。
あの日自分を捨てた母がこんな人物だったならもっと早く自分はここに居たのではなかろうか。
そんな思考がじっとりと肌を伝って流れ落ちる汗のように脳を覆い包む。
「バカなことを考えてるでしょ、今」
こつんと軽く飲み物が入ったグラスで頭を叩かれてボーンの思考は現実へ引き戻された。
「かもな」
渡された飲料を飲み干してボーンは座り込んだ。
「まだかかりそうだ、キモチ面ってとこがな」
「でっしょうねえ」
その隣にすとんと座り、女は尾を撫でながら言った。
「私は人というのはすぐ変わるものではないと思ってる。そして、一度手を血に染めてしまったものは強靭な精神が無ければすぐに壊れてしまうとも。お互いどこまでやっていけるやら」
ボーンを真似したかのようにニヒルに言うリプレッサを動揺の目で眺めると、彼女は誤魔化すように笑っていった。
「一つ殺し屋さんに依頼していい?私が壊れた時は頼むってさ」
「……受けられねえな。あいにく廃業してんだ、そいつはよ」
「そっか、ざんねん」
沈黙。どう切り出していいかボーンにはわからなかった。到底、ビジネスと力関係以外で人と繋がったことなどなかったのだから。
「じゃあ、相互監視。アンタは私がおかしくならないよう見張って、私は今まで通りアンタを見張る。それでいきましょう?」
一緒に、と小さく付け加えて差し出された小指をボーンは絡めて同意することにした。
(終)
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