参
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どたどたと、慌ただしく隊士たちが駆け回る音を聞きながら蛭巻サクレはそりそりと音を立てていた剃刀を動かす手を止めた。
「あららマァ。随分お忙しそうな音だこと。何か大物でも引っかかったんですかねえ、隊長?」
顔布越しに顎に人差し指をテンとつけ首をかしげると、膝の上の感じていた重みが消えて更木の低い声が知るかよと言ったので、サクレは中断していた剃刀をまた膝の上へ落ちていった更木の顔に当てた。そうしてしばらく静かに音を立てながら髭をあたっていたが、終わったころにちょうど良く部屋の戸が開かれドスの利いた声の男たちが乱入してくる。
幸いサクレの膝の上にはもはや更木の頭などなく、サクレも風呂敷に理容の道具をしまっていたのでなんとも気まずい空気にはならず何も知らない十一番隊士たちはサクレの前に小さな子供を突き出した。
「なんだイこれは?ただのガキじゃあないか」
「あ、姐さんどうにかしてくださいよ!着てるでしょう死覇装!うちのモンですよこいつは!」
などというのでサクレは更木に目配せをしたが、更木も訝しげに見返すだけだった。はて?と傾げたサクレに隊士がいうには、最近出現した虚の力でこうして無力化される死神が出始めているというのだが、
こんな姿にされた隊士を四番隊に連れて行ってはメンツが立たないと元四番隊のサクレへ秘密裏に治療してはもらえないかと探して回っていたようだ。
「あのねぇ、あたしゃ怪我なら治せはするがこういうのは専門外だよ。そも、これが傷だってのかい?こういうのは相手の能力がどういう原理で使われてンのかきちんと調べて対策をとるもんだろ。こいつは四番隊どころか十二番隊行きだろうよ」
「そ、そんなぁ!あんなところ連れていかれたらバラされちまいますよ!助けてくださいよサク姐さん!」
サクレの裾をつかんで懇願する少年姿の隊士姿についついグッとくるものがあったが正直、サクレはそのあたりは現実主義者 もいいところだ。どうにもできないといえばできないし、これが幻覚の類であれば閨児 で祓うこともかなうのだろうが、現実的にその能力を食らった訳でもないサクレにも更木にもただの死覇装を着た無力な魂魄が見えているということは事実本当に『子供にされている』のだろう。
サクレは、むぅと唸り目を閉じて息を吐く。意識を己の魂魄の奥へ向けその名を呼んで沈んでいった。
「どう思うかい閨児」
「サクに同意じゃ。此れはあの手になど負えぬものよ」
「ですよねえ。それにしたって閨児ちゃんや、相も変わらずあたしの中ってばひどい有様なのかねえ?」
そういってサクレの見回す精神世界は薄暗いく狭い褥の中だ。無駄にしっとりとした寝具に寝転がるぼろの襦袢を着た少女……閨児の頭を撫でると閨児は深い闇を湛えた瞳とぎちぎちと嫌な音を奏でるやけに多い腕を艶めかしくサクレの腕脚に絡みつかせてみせた。
「さよう。なれのナカミなどこんなものよ。いつも甘美な儚 ばかりを想起しておるではないか、其れを否定してなんとなる?故に卍解など至れぬ難があるだけじゃろう」
それに、と付け加えて閨児は絡ませていた指をぬるぬると解いてぐるりと首をかしげてサクレをねめ回した。
「憶えてなどおらねども、なれの根はこの宵の中よ。逃げ出せなどはせなんだのじゃ。なれの総てはこの褥のなかで絡まり交わり濡れるのみ。彼誰 に目を閉じ誰彼 に開き、繰り返すのみよ。其れを悪しと想うなら、吾を組み伏せて東雲 の空に飛びでていくが好かろうよ」
いつ対話をしても閨児はこうだとサクレはため息を吐く。斬魄刀から卍解へ至るのを懇願される死神というのも面白いものなのだろうが、サクレは最後の一歩が踏み切らないまま随分と長い間閨児とはほぼほぼ対等のようで一つ譲った関係を築いていた。
一角の思惑のように変に昇進するのが癪だというのもあるし、
どうにもこの蒸しかえる甘い精神 に住まう異形の艶娘が生み出す能力が碌な進化を遂げるとは思えない。
そも、暴露の力とサクレは閨児を語るのだがその源泉は正しく言うならば己も相手も幾重にも意味を重ねて、丸裸になる力なのだから。それが悪化したらどうなってしまうものかと頭痛がする。
「気が向いたらね」
「いくじなし」
そういつも通りの締めくくりを済ませサクレの意識は世界の表層へ立ち返る。
「ダメ元行ってみるかい?『晒せ』、閨児」
背負った大太刀を引き抜いて子供姿の隊士を斬ってはみるものの祓うどころかぼろりと中身が見えたものだから慌てて傷を癒してサクレは肩をすくめた。
「四番隊舎だな」
更木がそれだけ言ってつまらなそうにしたものなのでサクレはぱちくりと目をしばたかせた。
「例の虚、気にならないンですか?」
「なんでだよ」
「いや、隊長の事だから『ガキになって弱くなったら戦うのがもっと楽しくなりそうだぜ!』とかいうモンだと思いましたので」
「ガキになろうが相手が雑魚じゃつまんねえだろうが」
「なぜ雑魚とお判りで?」
そういった瞬間、また戸がうるさく開いて小さな塊がサクレの腰に突っ込んできたのでそのままサクレは倒れこみ、更木の胸に強か顔を打ち付けることとなった。
「ひるるんいいニオイする!なんで?」
「あだだ、やちる、何でこんな勢いで引っ付いてくることも無いだろうよ可愛いねえ」
「最後の一言脈絡なさすぎんだろお前よ」
あとからついて来た一角に軽く小突かれる。やちるはそのままニジニジとサクレを上り伝って更木の肩、定位置に戻っていった。一角の傍らにはいつも通り弓親もおり十一番隊の中核がここに集ったことになる。
「剣ちゃん、みんなを子供にしちゃう虚の情報、あたらしいのもらってきたよ!えっとね、男の死神はみぃんな帰ってきたんだけど女のほうはダメだね!みんな死んじゃった!」
「ホラな、やり口が雑魚だろうがよ」
つまらなそうに更木がいう。これでは紙にまとめた方の資料はいらなかったかと一角が身振りで示すので代わりにサクレが受け取ったのだが、まぁつまらないものだった。
「そりゃ今尸魂界の直面してる問題からしたら小粒だよね」
くちばしを作って資料をめくるサクレの肩に顎を載せ、後ろから覗き込んだ弓親が言った。
「だけど犠牲者が増えてんのも事実だろ。そろそろ席官連中にお呼びがかかんじゃねえか?」
「角、アンタ行くかい?」
「冗談だろ、俺はパスだ」
「僕も嫌だね。ということで十一番隊にお声がかかったらサク、よろしくね」
サクレはちらとやちるを見たのだが、にこりと笑うその顔に拒否の意味をくみ取ってサクレは資料を受け取ったまま、泡を吹いて倒れていた少年隊士を担いで四番隊舎まで出向いて行った。
「あららマァ。随分お忙しそうな音だこと。何か大物でも引っかかったんですかねえ、隊長?」
顔布越しに顎に人差し指をテンとつけ首をかしげると、膝の上の感じていた重みが消えて更木の低い声が知るかよと言ったので、サクレは中断していた剃刀をまた膝の上へ落ちていった更木の顔に当てた。そうしてしばらく静かに音を立てながら髭をあたっていたが、終わったころにちょうど良く部屋の戸が開かれドスの利いた声の男たちが乱入してくる。
幸いサクレの膝の上にはもはや更木の頭などなく、サクレも風呂敷に理容の道具をしまっていたのでなんとも気まずい空気にはならず何も知らない十一番隊士たちはサクレの前に小さな子供を突き出した。
「なんだイこれは?ただのガキじゃあないか」
「あ、姐さんどうにかしてくださいよ!着てるでしょう死覇装!うちのモンですよこいつは!」
などというのでサクレは更木に目配せをしたが、更木も訝しげに見返すだけだった。はて?と傾げたサクレに隊士がいうには、最近出現した虚の力でこうして無力化される死神が出始めているというのだが、
こんな姿にされた隊士を四番隊に連れて行ってはメンツが立たないと元四番隊のサクレへ秘密裏に治療してはもらえないかと探して回っていたようだ。
「あのねぇ、あたしゃ怪我なら治せはするがこういうのは専門外だよ。そも、これが傷だってのかい?こういうのは相手の能力がどういう原理で使われてンのかきちんと調べて対策をとるもんだろ。こいつは四番隊どころか十二番隊行きだろうよ」
「そ、そんなぁ!あんなところ連れていかれたらバラされちまいますよ!助けてくださいよサク姐さん!」
サクレの裾をつかんで懇願する少年姿の隊士姿についついグッとくるものがあったが正直、サクレはそのあたりは
サクレは、むぅと唸り目を閉じて息を吐く。意識を己の魂魄の奥へ向けその名を呼んで沈んでいった。
「どう思うかい閨児」
「サクに同意じゃ。此れはあの手になど負えぬものよ」
「ですよねえ。それにしたって閨児ちゃんや、相も変わらずあたしの中ってばひどい有様なのかねえ?」
そういってサクレの見回す精神世界は薄暗いく狭い褥の中だ。無駄にしっとりとした寝具に寝転がるぼろの襦袢を着た少女……閨児の頭を撫でると閨児は深い闇を湛えた瞳とぎちぎちと嫌な音を奏でるやけに多い腕を艶めかしくサクレの腕脚に絡みつかせてみせた。
「さよう。なれのナカミなどこんなものよ。いつも甘美な
それに、と付け加えて閨児は絡ませていた指をぬるぬると解いてぐるりと首をかしげてサクレをねめ回した。
「憶えてなどおらねども、なれの根はこの宵の中よ。逃げ出せなどはせなんだのじゃ。なれの総てはこの褥のなかで絡まり交わり濡れるのみ。
いつ対話をしても閨児はこうだとサクレはため息を吐く。斬魄刀から卍解へ至るのを懇願される死神というのも面白いものなのだろうが、サクレは最後の一歩が踏み切らないまま随分と長い間閨児とはほぼほぼ対等のようで一つ譲った関係を築いていた。
一角の思惑のように変に昇進するのが癪だというのもあるし、
どうにもこの蒸しかえる甘い
そも、暴露の力とサクレは閨児を語るのだがその源泉は正しく言うならば己も相手も幾重にも意味を重ねて、丸裸になる力なのだから。それが悪化したらどうなってしまうものかと頭痛がする。
「気が向いたらね」
「いくじなし」
そういつも通りの締めくくりを済ませサクレの意識は世界の表層へ立ち返る。
「ダメ元行ってみるかい?『晒せ』、閨児」
背負った大太刀を引き抜いて子供姿の隊士を斬ってはみるものの祓うどころかぼろりと中身が見えたものだから慌てて傷を癒してサクレは肩をすくめた。
「四番隊舎だな」
更木がそれだけ言ってつまらなそうにしたものなのでサクレはぱちくりと目をしばたかせた。
「例の虚、気にならないンですか?」
「なんでだよ」
「いや、隊長の事だから『ガキになって弱くなったら戦うのがもっと楽しくなりそうだぜ!』とかいうモンだと思いましたので」
「ガキになろうが相手が雑魚じゃつまんねえだろうが」
「なぜ雑魚とお判りで?」
そういった瞬間、また戸がうるさく開いて小さな塊がサクレの腰に突っ込んできたのでそのままサクレは倒れこみ、更木の胸に強か顔を打ち付けることとなった。
「ひるるんいいニオイする!なんで?」
「あだだ、やちる、何でこんな勢いで引っ付いてくることも無いだろうよ可愛いねえ」
「最後の一言脈絡なさすぎんだろお前よ」
あとからついて来た一角に軽く小突かれる。やちるはそのままニジニジとサクレを上り伝って更木の肩、定位置に戻っていった。一角の傍らにはいつも通り弓親もおり十一番隊の中核がここに集ったことになる。
「剣ちゃん、みんなを子供にしちゃう虚の情報、あたらしいのもらってきたよ!えっとね、男の死神はみぃんな帰ってきたんだけど女のほうはダメだね!みんな死んじゃった!」
「ホラな、やり口が雑魚だろうがよ」
つまらなそうに更木がいう。これでは紙にまとめた方の資料はいらなかったかと一角が身振りで示すので代わりにサクレが受け取ったのだが、まぁつまらないものだった。
「そりゃ今尸魂界の直面してる問題からしたら小粒だよね」
くちばしを作って資料をめくるサクレの肩に顎を載せ、後ろから覗き込んだ弓親が言った。
「だけど犠牲者が増えてんのも事実だろ。そろそろ席官連中にお呼びがかかんじゃねえか?」
「角、アンタ行くかい?」
「冗談だろ、俺はパスだ」
「僕も嫌だね。ということで十一番隊にお声がかかったらサク、よろしくね」
サクレはちらとやちるを見たのだが、にこりと笑うその顔に拒否の意味をくみ取ってサクレは資料を受け取ったまま、泡を吹いて倒れていた少年隊士を担いで四番隊舎まで出向いて行った。