弐
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沈んだ先にもまだ沈む。底はないと思うほどだというのに先は見えない。
流魂街出身の死神にとっての記憶はそんなものだ。皆、自身の生前の記憶などほぼほぼ憶えているものなどいないであろう。蛭巻サクレとてそれは同じ事であった。それでも、ほのかに覚えている安心感の中心にある獣のまなざしがある限り、サクレはそれを追わずにいられない。それによく似たまなざしを持つ更木にモーションをかけているのもその問題が解決するまではあくまでお遊びに過ぎないだろう、と定めているはずなのに。
「火遊びのつもりがあれよあれよと焦熱地獄に懲役百年近く。あららあたしもひどい有様ってなもんだね角や」
「知るかよ」
一角はサクレから受け取った猪口を飲み干して膳の上に腕を載せる。
「おら二戦目だ、手加減しねえぞ」
「いいよう?あたしだって酌だけしに来たわけじゃないんだからさ」
腕相撲で一勝ごとに酒を飲む。勝ったからとてべろべろに酔って力が入らなくなれば負けが込む。そんな遊びをする二人の傍らでマイペースに弓親は酒をあおっていた。
「でもさあ、仮に探すって言っても手掛かりなんか何もないならさっさと忘れて隊長一筋になっちゃえばいいのにキミも変なところ律儀だよね」
ぺろりと酒で濡れた唇を舐めて弓親は流し見やる。視線の先では性別を理由に10秒のハンデをもらっているサクレが顔を真っ赤にして一角の腕を倒そうと踏ん張っていた。
「ぬぎぎ……だってさ、しょうがない、だろ?ほかの連中に無くッて当たり前みたいなもんを持っちまってるなら、きっとそれは探し出すのが天めぇえええアアアアッ負けた!親ァ!」
「単純に力負けしてるじゃない。さ、諦めた諦めた!」
「チ、いつになったらあたしゃ酒が飲めんだよう」
「酔わねえんだからハンデでいいだろ飲み比べの方は」
「酔わないんじゃないの、潰れないんだよ!酔ってんの本当は!」
一角に酌をしてサクレは膳に腕を戻すも一角は誘いに乗らず、続けて手酌で酒を飲み始める。
「なんだいやらないってのかい?」
「興が削がれた。なんでてめえの復帰祝いで呑もうってのにてめえが酒呑めてねえんだよ、ったく」
そういって酒の入った瓢箪をサクレに投げると、サクレはそれを受け取ってすぐに飲み干した。そうして、すぐに次の酒を空けて、そのまま次へ。
「えげつない呑みっぷりだよねえ相変わらず」
「ン、ぷっは。『駆けつけ三杯』だろ?まだ呑むよ!」
「三杯じゃねーよ!つーか俺の酒だろ返せ!」
「もう吐かなきゃ出てこないねえ~?大体なんだィ?あたしと酒呑むんだったら酒蔵ごと持ってきな!安い金で酒見繕ってんじゃないよ?」
などと言いながらサクレは自分が持ってきた包みを部屋の隅から引きずってきて封を解く。その中からゴロゴロと瓶詰めされた酒が出てきて一角は呆れた顔をする。
「ホラサあたしゃ結局冤罪だろ?ちょっと融通してもらっちゃったもんだから仲良く呑もうじゃないかよ三人でサ」
「サク本当に隊長誘わなくてよかったわけ?別にいてもよかったとボクは思うけど」
「お気遣いアリガトね。でもさお邪魔しちゃわるいだろ、やちるをさ」
「いや、あんま邪魔もナンもねえだろそこは」
解ってないねと一角をたしなめてサクレは猪口で酒を流し込む。
「あの二人はなんてかさ、間に余計なもんいらないんじゃないかねってあたし思うんだよ」
「なんつーか、お前。自縄自縛もいいとこだな?」
更木剣八のものになりたい、いやものにしたいと思いつつ。過去に縛られ子供に遠慮で及び腰。確かにそうだと皮肉って乾いて笑った後に、酒に湿ってサクレは言った。
「あたしが子供の時……なんて思いだしようもないけどさ。でも感じるものがあるんだ。あの子にとっちゃ、隊長が全部なんじゃないかって。遊び相手がいるのは知ってるよ。でもそれとはまるで違う大事なモンが、あの子にとって隊長だってなら、遊びの女がウロチョロしちゃあいけないよ。しかるとき、隙間の時間で泥棒猫でもやってるさ」
「虚しくならない?」
弓親の手から注がれた酒を受け取って、サクレは砕けた仮面を夜に溶かし旧友へありのままの自分で微笑んだ。
「わたしは剣八さまのお役に立てりゃそれでいいんだよ。なんで『蛭巻』なんか……あろうがなかろうが別にいい剣の部品なんか姓に名乗ってんじゃないかよ」
掌に収まる湖面に映った自分の目を見てサクレは追想へ沈んでいく。
底の見えない記憶のさらにその先へ。更木剣八に出会った時から確かに感じている『違和感』を紐解き、生前見たあのまなざしへ至るために。
流魂街出身の死神にとっての記憶はそんなものだ。皆、自身の生前の記憶などほぼほぼ憶えているものなどいないであろう。蛭巻サクレとてそれは同じ事であった。それでも、ほのかに覚えている安心感の中心にある獣のまなざしがある限り、サクレはそれを追わずにいられない。それによく似たまなざしを持つ更木にモーションをかけているのもその問題が解決するまではあくまでお遊びに過ぎないだろう、と定めているはずなのに。
「火遊びのつもりがあれよあれよと焦熱地獄に懲役百年近く。あららあたしもひどい有様ってなもんだね角や」
「知るかよ」
一角はサクレから受け取った猪口を飲み干して膳の上に腕を載せる。
「おら二戦目だ、手加減しねえぞ」
「いいよう?あたしだって酌だけしに来たわけじゃないんだからさ」
腕相撲で一勝ごとに酒を飲む。勝ったからとてべろべろに酔って力が入らなくなれば負けが込む。そんな遊びをする二人の傍らでマイペースに弓親は酒をあおっていた。
「でもさあ、仮に探すって言っても手掛かりなんか何もないならさっさと忘れて隊長一筋になっちゃえばいいのにキミも変なところ律儀だよね」
ぺろりと酒で濡れた唇を舐めて弓親は流し見やる。視線の先では性別を理由に10秒のハンデをもらっているサクレが顔を真っ赤にして一角の腕を倒そうと踏ん張っていた。
「ぬぎぎ……だってさ、しょうがない、だろ?ほかの連中に無くッて当たり前みたいなもんを持っちまってるなら、きっとそれは探し出すのが天めぇえええアアアアッ負けた!親ァ!」
「単純に力負けしてるじゃない。さ、諦めた諦めた!」
「チ、いつになったらあたしゃ酒が飲めんだよう」
「酔わねえんだからハンデでいいだろ飲み比べの方は」
「酔わないんじゃないの、潰れないんだよ!酔ってんの本当は!」
一角に酌をしてサクレは膳に腕を戻すも一角は誘いに乗らず、続けて手酌で酒を飲み始める。
「なんだいやらないってのかい?」
「興が削がれた。なんでてめえの復帰祝いで呑もうってのにてめえが酒呑めてねえんだよ、ったく」
そういって酒の入った瓢箪をサクレに投げると、サクレはそれを受け取ってすぐに飲み干した。そうして、すぐに次の酒を空けて、そのまま次へ。
「えげつない呑みっぷりだよねえ相変わらず」
「ン、ぷっは。『駆けつけ三杯』だろ?まだ呑むよ!」
「三杯じゃねーよ!つーか俺の酒だろ返せ!」
「もう吐かなきゃ出てこないねえ~?大体なんだィ?あたしと酒呑むんだったら酒蔵ごと持ってきな!安い金で酒見繕ってんじゃないよ?」
などと言いながらサクレは自分が持ってきた包みを部屋の隅から引きずってきて封を解く。その中からゴロゴロと瓶詰めされた酒が出てきて一角は呆れた顔をする。
「ホラサあたしゃ結局冤罪だろ?ちょっと融通してもらっちゃったもんだから仲良く呑もうじゃないかよ三人でサ」
「サク本当に隊長誘わなくてよかったわけ?別にいてもよかったとボクは思うけど」
「お気遣いアリガトね。でもさお邪魔しちゃわるいだろ、やちるをさ」
「いや、あんま邪魔もナンもねえだろそこは」
解ってないねと一角をたしなめてサクレは猪口で酒を流し込む。
「あの二人はなんてかさ、間に余計なもんいらないんじゃないかねってあたし思うんだよ」
「なんつーか、お前。自縄自縛もいいとこだな?」
更木剣八のものになりたい、いやものにしたいと思いつつ。過去に縛られ子供に遠慮で及び腰。確かにそうだと皮肉って乾いて笑った後に、酒に湿ってサクレは言った。
「あたしが子供の時……なんて思いだしようもないけどさ。でも感じるものがあるんだ。あの子にとっちゃ、隊長が全部なんじゃないかって。遊び相手がいるのは知ってるよ。でもそれとはまるで違う大事なモンが、あの子にとって隊長だってなら、遊びの女がウロチョロしちゃあいけないよ。しかるとき、隙間の時間で泥棒猫でもやってるさ」
「虚しくならない?」
弓親の手から注がれた酒を受け取って、サクレは砕けた仮面を夜に溶かし旧友へありのままの自分で微笑んだ。
「わたしは剣八さまのお役に立てりゃそれでいいんだよ。なんで『蛭巻』なんか……あろうがなかろうが別にいい剣の部品なんか姓に名乗ってんじゃないかよ」
掌に収まる湖面に映った自分の目を見てサクレは追想へ沈んでいく。
底の見えない記憶のさらにその先へ。更木剣八に出会った時から確かに感じている『違和感』を紐解き、生前見たあのまなざしへ至るために。