壱
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その黒い塊が隊舎に入ってきたときの皆の顔と言ったらなかった。
隊長、副隊長に連れられてやってきたそれは、やや低い身長を越えて伸びた黒々とした髪を引きずりながら、俯きがちに歩いていた。
そんな物体を見た一同の顔は恐怖や好奇心、侮蔑などに塗りたくられていた。
二十年程の刑期を終えて牢から出されたその十一番隊隊士は、同志を手にかけた罪を問われても自分の刀を抜かせろの一点張りでろくな供述もなく、法廷を愚弄したとみなされた故の長い孤独な独房生活を強いられたのだとかと小さな噂が撒布する。
ずるずると動く黒い塊は声を出すのも久々で、掠れた声をやちるに投げてはやちるにきゃはきゃはと笑われる。そのまま十一番隊の皆々へ頭を軽く下げたような動きをして消えて、隊長は「準備が済んだら戻るんだとよ」とだけいってその場にドカっと腰を下ろしたのだった。
「斑目三席、知ってますか?」
などと旅禍騒動からやけに上位官と親しくなった荒巻が聞く。
「おう。流魂街からの付き合いだぜ。ま、ここでやってくにゃ十分な腕はあるからナメてんなら腕が鈍ってるうちにのしとけや。じゃねえと後からタコ殴りにされて仕事を押し付けられるぜ」
一角がそう言って「暇潰しにやりあおうぜ」と木刀を抜いたので十一番隊士達は顔を見合わせつつ決心した者が一角に突撃してあしらわれのいつもの調子を取り戻す。
そうして数刻ほど経ってやちるが更木の肩から跳ねたとき、静かに訓練場の戸が開き掠れた声で来訪者が告げた。
「遅れて申し訳ありません。十一番隊第四席。蛭巻サクレ、ここに戻りてございます。見知った方々見知らぬお方、どうか以降もよろしくお願いいたします」
あれだけ長かった髪を切り、結い上げて編み込んだ頭がゆらりと不安になるようなしなを作って動く。ゆっくりと面を上げたその顔は、切れ長の目をした女であった。
その顔は下半分を布で覆い隠しているために美醜の判別を拒んでいる。
「おう、遅かったなサク!駆けつけで一試合どうだよ?」
一角が投げた木刀が音を立ててサクレの前に転がり落ちる。サクレは困ったような顔をしたものの、周りを睨め廻し、物珍しげに視線を投げる男どもの数を確認するとこくりと頷き木刀を手に取った。
「角、加減はいらないよ。勝てるとも思っちゃないが、たかだか二十年とカンヅメにされた程度で優しくされんのも癪なモンだ」
「上等!掛かってきな!」
優しくされたくないなどと言いながら、サクレはこれが斑目一角の優しさゆえと知っていた。この十一番隊に女が紛れ込んだのではどんな目で見られるかなど分かりきっていて、余計な虫が沸かないように実力を見せてやれと言っているのだ。かといって、二十年も狭い牢に入れられていた自分でどこまで太刀打ちできたものか。サクレは迎撃態勢をとる一角の脳天を目掛け刀を振り下ろした。
静かだが早いその一撃は打ち払われ、その後も二合三合と打ち合っていく。一角の剣は重いがしなやかで受けるのではなく流さなければたちまち痣だらけにされるだろう。
対して、一角はサクレの剣を打ち流す。サクレの斬魄刀の形状を知る一角は体制を崩そうと試みる。始解とともに大きく形状を変える彼女の刀を考えるに、ただの刀の形状のほうが扱いが慣れていないだろうと、いつもの容で動くことを誘発しようとしているのだ。
「小癪だねアンタ。アタシの嫌がることばかりしやがって」
「悔しかったらもっとうまく振り回せるようにしな!」
打ち合った刀を引くサクレ。一角はそれを追わずサクレの右側へ踏み込んだ。この流れは覚えていた。サクレのよくやる動きで、受け止めた攻撃を流してカウンターに突きが来るのだ。だからこそ利き腕側のサイドに回る。突きのために動かせぬ方向からの一撃を食らわせて終わりにしようと一角が刀を振るが、思わぬ一撃が一角の顔をぶち抜いた。
ミシミシときしむ音がする。サクレの肩と、一角の鼻柱から。
一角の最後の一撃はサクレの肩口に重い打撃を、サクレの奇襲は一角の鼻の骨を砕いた。
「あらら」
弓親が面倒くさげに腰を上げて近寄るころには復帰早々に肩を砕かれたサクレとご挨拶に鼻をへし折られた一角の口げんかがヒートアップしていた。口汚く罵りあったり琉魂街時代の失敗談まで掘り起こすものだからみっともない。
「そのあたりでやめておきなよ、収拾つかないんだからさ。ハイハイ離れて離れて」
「止めるな弓親!こいつ打ち合いだってのに拳骨使いやがったんだぞ!」
「しーらーなーいーね?拳骨使うななんてアンタ言ってなかったろうがい!ていうか何さ?折角復帰した人さまの肩を砕く阿呆がどこにあるってんだイ?あーほ!あーほ!あだだッ」
サクレは痛む肩に手を当てて霊力を流し込む。ジワリと白い光を受けてしばらく。コキコキと肩を鳴らし、一角の鼻をつまんで同じようにすると一角がおかえしにサクレの鼻に伸ばしてきた手を避けて、するりするりと追撃に身をかわしストンと更木の隣に腰を下ろす。
「終わりだよ、そもそも体が上手く動かないんじゃァ面白くない。あたしを知らん野郎どもに実力見せてやんならこんなもんでいいだろさ。まだ遊んでいたいなら適当に平でも嬲ってな」
「ケッ。勘を取り戻させてやろうと思ったのに、かわいくねーやつ」
「ハイハイおわりだよ二人とも」
一角は親指でサクレを指さして、訓練場にいる十一番隊士に言う。
「こんな奴だよ。女だからと期待してた野郎ども、残念だったな」
「よろしく~」
ひらひらと白い手を振ってクスクス笑いちょっかいをかけるやちるにかまったサクレはもう訓練には興味をなくしたようで、一角は次の相手を目線で誘う。隊士たちはまたうち伏せられて床に転がり、一角が飽きれば各々相手を定めて打ち合った。サクレは木刀の撃ち合う音をしばらく聞いていたがやちるに袖を引かれ立ち上がる。
「やちる、どこか行くのかい?」
「そ。剣ちゃんもだよ!」
ちらりと更木を見やる。更木は静かに息をつき立ちあがるとふらりと訓練場を後にしたのでサクレもやちるに引かれるまま後を追う。
「一角、僕たちもだよ」
「……おう」
訓練場の裏で更木はぴたりと止まり、後を追う四人へ振り返って言った。
「結局お前は殺ったのかよ?」
一角と弓親もサクレをじろりと見やる。やちるは相変わらず楽しげな顔のままた佇んで。
「刀、抜いても?」
「おう」
じろりと、訓練場の格子窓からうかがう隊士の気配に肩をすくめて冗談一つに引き笑い。サクレは腰に下げていた斬魄刀を幾歳ぶりに腰から鞘ごと抜いて肩にかけた。
「晒せ『閨児 』」
解号をささやいた途端、サクレの斬魄刀はずるずると螺旋を描いて伸びてゆき止まるころには鈴付きの装飾豊かな大太刀へと変容していた。
サクレはそれを引き抜いて地面に突き刺した。
「耳をすまして聞いてらっしゃる出歯亀がいるようで、不思議がって考え事して転んだりしちゃアいけないから説明してやるとね」
がたりと壁越しの同様の気配。一角はクックと笑い、弓親も口元を袖で覆っている。
「恥ずかしいかなあたしの斬魄刀は鬼道系でね。これが抜かれるとあら不思議、嘘など吐けなくなっチまう。裁判で暴れまわったと思ってるんだろね耳をそばだててる連中はさ。違うよ?あたしを引っ立てたよその隊長さんにちょっと聞いてみたかったんだよ。あたし本当に斬ったと思ってかい?と」
「お前が牢にぶち込まれたのも出てきたのもその斬魄刀の能力のせいだな?」
「ですよう。どうせ霊圧でかき消されるんでしょうけど、ちょっと近寄れば化けの皮が剥がされる。気が気でないでしょうねえ愛染サンたち。ってな具合で適当に斬り捨てた野郎をあたしにポイ。ひっどい正義があったもんだと思いますよう。あたしゃだーれも死神は『切ってないですよう』?」
サクレは淀みなく言った。
一方で更木、やちる、一角、弓親はそれぞれ何か言おうとして口を開けたがそこで体が動かなくなり、そんなお互いの様子を見あって頷いた。
「……面倒くせえが山本のジジイからお前に特別な仕事があるって聞かされてる」
「ヤダ隊長、あたしせっかく帰ってきたのにまた別の隊に貸し出されるんですかぁ?」
「愛染の野郎どものせいで四十六室の連中が全員おっ死んだんだと。後釜をあてがうが、余分なもんが入ってこねえようにお前の刀を借りたいそうだ」
つまりは人事を手伝えと?サクレは苦瓜でも食ったような顔で聞き返したが、二度言わせるなと睨まれた。
隊長、副隊長に連れられてやってきたそれは、やや低い身長を越えて伸びた黒々とした髪を引きずりながら、俯きがちに歩いていた。
そんな物体を見た一同の顔は恐怖や好奇心、侮蔑などに塗りたくられていた。
二十年程の刑期を終えて牢から出されたその十一番隊隊士は、同志を手にかけた罪を問われても自分の刀を抜かせろの一点張りでろくな供述もなく、法廷を愚弄したとみなされた故の長い孤独な独房生活を強いられたのだとかと小さな噂が撒布する。
ずるずると動く黒い塊は声を出すのも久々で、掠れた声をやちるに投げてはやちるにきゃはきゃはと笑われる。そのまま十一番隊の皆々へ頭を軽く下げたような動きをして消えて、隊長は「準備が済んだら戻るんだとよ」とだけいってその場にドカっと腰を下ろしたのだった。
「斑目三席、知ってますか?」
などと旅禍騒動からやけに上位官と親しくなった荒巻が聞く。
「おう。流魂街からの付き合いだぜ。ま、ここでやってくにゃ十分な腕はあるからナメてんなら腕が鈍ってるうちにのしとけや。じゃねえと後からタコ殴りにされて仕事を押し付けられるぜ」
一角がそう言って「暇潰しにやりあおうぜ」と木刀を抜いたので十一番隊士達は顔を見合わせつつ決心した者が一角に突撃してあしらわれのいつもの調子を取り戻す。
そうして数刻ほど経ってやちるが更木の肩から跳ねたとき、静かに訓練場の戸が開き掠れた声で来訪者が告げた。
「遅れて申し訳ありません。十一番隊第四席。蛭巻サクレ、ここに戻りてございます。見知った方々見知らぬお方、どうか以降もよろしくお願いいたします」
あれだけ長かった髪を切り、結い上げて編み込んだ頭がゆらりと不安になるようなしなを作って動く。ゆっくりと面を上げたその顔は、切れ長の目をした女であった。
その顔は下半分を布で覆い隠しているために美醜の判別を拒んでいる。
「おう、遅かったなサク!駆けつけで一試合どうだよ?」
一角が投げた木刀が音を立ててサクレの前に転がり落ちる。サクレは困ったような顔をしたものの、周りを睨め廻し、物珍しげに視線を投げる男どもの数を確認するとこくりと頷き木刀を手に取った。
「角、加減はいらないよ。勝てるとも思っちゃないが、たかだか二十年とカンヅメにされた程度で優しくされんのも癪なモンだ」
「上等!掛かってきな!」
優しくされたくないなどと言いながら、サクレはこれが斑目一角の優しさゆえと知っていた。この十一番隊に女が紛れ込んだのではどんな目で見られるかなど分かりきっていて、余計な虫が沸かないように実力を見せてやれと言っているのだ。かといって、二十年も狭い牢に入れられていた自分でどこまで太刀打ちできたものか。サクレは迎撃態勢をとる一角の脳天を目掛け刀を振り下ろした。
静かだが早いその一撃は打ち払われ、その後も二合三合と打ち合っていく。一角の剣は重いがしなやかで受けるのではなく流さなければたちまち痣だらけにされるだろう。
対して、一角はサクレの剣を打ち流す。サクレの斬魄刀の形状を知る一角は体制を崩そうと試みる。始解とともに大きく形状を変える彼女の刀を考えるに、ただの刀の形状のほうが扱いが慣れていないだろうと、いつもの容で動くことを誘発しようとしているのだ。
「小癪だねアンタ。アタシの嫌がることばかりしやがって」
「悔しかったらもっとうまく振り回せるようにしな!」
打ち合った刀を引くサクレ。一角はそれを追わずサクレの右側へ踏み込んだ。この流れは覚えていた。サクレのよくやる動きで、受け止めた攻撃を流してカウンターに突きが来るのだ。だからこそ利き腕側のサイドに回る。突きのために動かせぬ方向からの一撃を食らわせて終わりにしようと一角が刀を振るが、思わぬ一撃が一角の顔をぶち抜いた。
ミシミシときしむ音がする。サクレの肩と、一角の鼻柱から。
一角の最後の一撃はサクレの肩口に重い打撃を、サクレの奇襲は一角の鼻の骨を砕いた。
「あらら」
弓親が面倒くさげに腰を上げて近寄るころには復帰早々に肩を砕かれたサクレとご挨拶に鼻をへし折られた一角の口げんかがヒートアップしていた。口汚く罵りあったり琉魂街時代の失敗談まで掘り起こすものだからみっともない。
「そのあたりでやめておきなよ、収拾つかないんだからさ。ハイハイ離れて離れて」
「止めるな弓親!こいつ打ち合いだってのに拳骨使いやがったんだぞ!」
「しーらーなーいーね?拳骨使うななんてアンタ言ってなかったろうがい!ていうか何さ?折角復帰した人さまの肩を砕く阿呆がどこにあるってんだイ?あーほ!あーほ!あだだッ」
サクレは痛む肩に手を当てて霊力を流し込む。ジワリと白い光を受けてしばらく。コキコキと肩を鳴らし、一角の鼻をつまんで同じようにすると一角がおかえしにサクレの鼻に伸ばしてきた手を避けて、するりするりと追撃に身をかわしストンと更木の隣に腰を下ろす。
「終わりだよ、そもそも体が上手く動かないんじゃァ面白くない。あたしを知らん野郎どもに実力見せてやんならこんなもんでいいだろさ。まだ遊んでいたいなら適当に平でも嬲ってな」
「ケッ。勘を取り戻させてやろうと思ったのに、かわいくねーやつ」
「ハイハイおわりだよ二人とも」
一角は親指でサクレを指さして、訓練場にいる十一番隊士に言う。
「こんな奴だよ。女だからと期待してた野郎ども、残念だったな」
「よろしく~」
ひらひらと白い手を振ってクスクス笑いちょっかいをかけるやちるにかまったサクレはもう訓練には興味をなくしたようで、一角は次の相手を目線で誘う。隊士たちはまたうち伏せられて床に転がり、一角が飽きれば各々相手を定めて打ち合った。サクレは木刀の撃ち合う音をしばらく聞いていたがやちるに袖を引かれ立ち上がる。
「やちる、どこか行くのかい?」
「そ。剣ちゃんもだよ!」
ちらりと更木を見やる。更木は静かに息をつき立ちあがるとふらりと訓練場を後にしたのでサクレもやちるに引かれるまま後を追う。
「一角、僕たちもだよ」
「……おう」
訓練場の裏で更木はぴたりと止まり、後を追う四人へ振り返って言った。
「結局お前は殺ったのかよ?」
一角と弓親もサクレをじろりと見やる。やちるは相変わらず楽しげな顔のままた佇んで。
「刀、抜いても?」
「おう」
じろりと、訓練場の格子窓からうかがう隊士の気配に肩をすくめて冗談一つに引き笑い。サクレは腰に下げていた斬魄刀を幾歳ぶりに腰から鞘ごと抜いて肩にかけた。
「晒せ『
解号をささやいた途端、サクレの斬魄刀はずるずると螺旋を描いて伸びてゆき止まるころには鈴付きの装飾豊かな大太刀へと変容していた。
サクレはそれを引き抜いて地面に突き刺した。
「耳をすまして聞いてらっしゃる出歯亀がいるようで、不思議がって考え事して転んだりしちゃアいけないから説明してやるとね」
がたりと壁越しの同様の気配。一角はクックと笑い、弓親も口元を袖で覆っている。
「恥ずかしいかなあたしの斬魄刀は鬼道系でね。これが抜かれるとあら不思議、嘘など吐けなくなっチまう。裁判で暴れまわったと思ってるんだろね耳をそばだててる連中はさ。違うよ?あたしを引っ立てたよその隊長さんにちょっと聞いてみたかったんだよ。あたし本当に斬ったと思ってかい?と」
「お前が牢にぶち込まれたのも出てきたのもその斬魄刀の能力のせいだな?」
「ですよう。どうせ霊圧でかき消されるんでしょうけど、ちょっと近寄れば化けの皮が剥がされる。気が気でないでしょうねえ愛染サンたち。ってな具合で適当に斬り捨てた野郎をあたしにポイ。ひっどい正義があったもんだと思いますよう。あたしゃだーれも死神は『切ってないですよう』?」
サクレは淀みなく言った。
一方で更木、やちる、一角、弓親はそれぞれ何か言おうとして口を開けたがそこで体が動かなくなり、そんなお互いの様子を見あって頷いた。
「……面倒くせえが山本のジジイからお前に特別な仕事があるって聞かされてる」
「ヤダ隊長、あたしせっかく帰ってきたのにまた別の隊に貸し出されるんですかぁ?」
「愛染の野郎どものせいで四十六室の連中が全員おっ死んだんだと。後釜をあてがうが、余分なもんが入ってこねえようにお前の刀を借りたいそうだ」
つまりは人事を手伝えと?サクレは苦瓜でも食ったような顔で聞き返したが、二度言わせるなと睨まれた。