宵越夢
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恋は「落ちる」ものだというが。
それは穴に落ちるようなものなのか、それとも雷が落ちるようなものなのか。
「おーい、マネージャー候補を連れてきたぞ」
体育祭での激闘から数日後。井浦が、女子生徒を伴って体育館に現れた。
「マネージャー!?」
「ってことは」
「女子!!!!!!!!!」
最初に驚いたのは水澄で、次に頷いたのは関で、そして、一番大きな声で叫んだのは宵越だった。
「いいいいいいいいいいい井浦が女子を連れてきただと!?!?!?」
「マネージャー候補だっつってんだろ」
くいと眼鏡を押し上げながら、井浦が眉間に皺を立てる。
「あ、あの」
さして巨躯でもない井浦の後ろに隠れるほど小さな身体から、鈴の鳴るような声がする。
「一年の、夢原夢子です」
そうっと、すこし気圧されながら小さな身体が現れる。さらりとした栗色の髪に、大きな瞳。手足は長いが頼りないほど細く、体つきは頼りない。
何も塗っていない長いまつげがぱたぱたと上下し、それから、黒い瞳がおそるおそる体育館を見回した。
「体育祭の騎馬戦を見て、カバディ部、すごいなあって思って・・・・・・」
後に傍らで見ていた人見が語るのは、まさに「落ちた」みたいだったとのことであった。
「なっ・・・・・・!」
「マネージャー? どうして? カバディ、やろうよ!」
楽しそうに関の腹を揉んでいた王城が、ずいずいっと前に出る。硬直し、口を半開きにし、眼をかっぴらき、時折、半開きの口をパカパカやっている宵越に目もくれず。
「楽しいよカバディ! ね、どうせならやろう、やろうよ、やるよね」
「あ、あの、その」
「正人、落ち着け」
諫めたのは井浦だった。
「夢原はひどい喘息持ちで、医者からスポーツを止められてんだ。それでもカバディ部に入りてえっていうから、マネージャー候補って形を提案したんだよ」
「なぁんだ・・・・・・」
王城がつまらなさそうに肩を落とし、それからようやく部長の顔になって「でも、カバディに興味を持ってくれてありがとう!」と言った。
「マネージャーが入ると、なんだか本格的に運動部って感じだな」
まだ固まって口をパクパクさせている宵越を小突きながら、畦道が嬉しそうに続けた。
「な、宵越!」
「お、お、お、おう」
油の切れたロボットみたいな動きをする宵越に、畦道がいぶかしげに首をかしげる。
「どうしたんだべ宵越。なんだか変だあ」
「べ、べつに、変じゃねえ!!!!!!」
固まった後は、後ずさる。壁に激突しなかったのは、伴がそっと支えたからだった。
「いーじゃん、マネージャー。ドリンク作りとか、人手たんねーって思ってたんだ」
な、真! と水澄が相棒の肩に肘を乗せる。
ダンベルカールを続けながら話を聞いていた伊達が「そうだな、助かる」と答えると。
「あっ、伊達先輩!」
小さな身体が、トコトコと伊達の前に歩み出た。そして、栗毛をゆらしながら、ぴょこん、と頭を下げる。
「錦野のお兄ちゃんをかばってくれて、ありがとうございました!」
「ん? 錦野・・・・・・お兄ちゃん?」
伊達が不思議そうに首をかしげる。
「親戚なのか?」
「はい。お母さん同士が姉妹で・・・・・・お兄ちゃんには小さい頃からよく遊んでもらってたんです」
ニコニコと話す小さな女子と、朗らかに頷くゴリラ。
そしてその様子を見て、ギリギリと歯ぎしりをする不倒。
当然のように井浦は笑いをこらえながらカメラを構えているし、人見は呆れた顔でそれを見ていた。
「近くで見ても・・・・・・カッコよかったなあっ」
ぎゅっと枕を抱きしめ、独り言つ。
体育の授業にすら参加できない自分なんかが受け入れてもらえるかなんて自信がなかったけど、勇気を出してカバディ部の副部長に声をかけてよかった。マネージャーにしてもらえて、よかった。
だって、一目惚れなのだ。
体育祭での騎馬戦を見てからずっと・・・・・・ずっと憧れていた人。
「宵越くん・・・・・・っ!」
今日はちっとも名前を呼べなかったけれど、明日こそは必ず声をかけてみよう。
「がんばるぞぉ・・・・・・!」
きゅっと小さな拳を握り、それから、毛布を引き上げたのだった。
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