二章 回復の兆し

 年が明けて、十一歳の誕生日を迎えた。朧気おぼろげな記憶でなんとなく決めた、正しいかどうかもわからなかった誕生日。それでも今となっては、毎年大切な思い出を受け取った、特別な日。
 年齢についても、定かではなかった。村では、少し歳下の子たちのほうが体格が近かった。何故この年齢で登録したのか、リューさんに訊いたことがある。
 子供らしくない丁寧な言葉遣いが身に付いていて、慣れない大人とも礼儀正しく落ち着いた受け答えができ、筆談にも支障の無い読み書きの力があるからだと、理路整然と答えてくれた。
 虐待を疑われた発見時の状況からも、小柄で痩せていたのは栄養状態が悪かったせいかもしれず、実年齢と体格とに差があるのではと推察された。しかし幼さも残る顔つきから、あまりに体格とかけ離れた年齢でもないだろうと、体格から感じる年齢より少しだけ上にしたと。
 住民登録のときにはまだ体調が悪く、私ができたのは最終確認くらいだった。ほとんどのことは、リューさんと村長さんで話し合って決めていた。それを細部まで聞いている余裕も当時は無かったので、こうして後から事情を聞くことがあった。二人とも、私をよく観察し考えてくれていたようだった。

 この村で助けられる以前の身の上を、私はまだ思い出せなかった。思い出せないことをいくら考えても仕方がない。
 いや、命を奪われかけたような生育環境について、そもそも考えたくもなかった。どれほど恐ろしいことを思い出すのか、怖かった。

 それよりも、目の前に置かれた大きな誕生日ケーキが、そのとき私が心から向き合いたい現実だった。お母さんとマリ姉さんが朝から張り切って手作りしてくれた、簡素なデコレーションのホールケーキ。
 生クリームが足りずチーズクリームも使ったというそれは、むしろチーズクリームの控えめな甘さが食べやすかった。また生地にはドライフルーツも混ぜ込んであり、生クリームの甘さとも好相性な、ほどよい酸味と歯応えがアクセントとなり、とても美味しかった。

 家族は皆、私の誕生日を喜んで祝ってくれた。
「おめでとうシェリル。……すっかり、普通に食べられるように、なってきたねぇ……」
 ずっと私の体調に合わせて、食べやすい食事を工夫して作ってくれていたお母さんは、泣きそうな笑顔で少しだけ声を詰まらせていた。
「最近ちょっと食べ過ぎだけどな。それも食べ切れちゃいそうだな」
「育ち盛りなんだから、このくらい食べれたほうがいいでしょ。まだ痩せすぎだし」
 泣くほど感動しているお母さんとは対照的に、ユウ兄さんとマリ姉さんは明るく茶化してくる。
 私を入れて五人家族分のケーキ。五等分が難しいからと、六等分にされたうちの二切れを私が貰って、綺麗に完食した。

 残さないように気を遣って、無理して食べていないかなんてもう心配されないほど、この頃の私は旺盛な食欲を取り戻していた。
 吐き気が続いて満足に食べられなかった頃より、快適に食べられるようになってから、体調の安定感も増した。笑顔で食べきった私に家族は拍手し、私の回復と誕生日を祝い、賑やかに歌ってくれた。
 お父さんの美声の裏で、お母さんとユウ兄さんが時々音を外していて、その度にマリ姉さんが笑ってしまってほとんど歌えていなかった。結局、お父さんの美声も途中から笑い混じりに震え始めて、最後にはもう歌ではないくらい全員大笑いしていた。
 歌としてはめちゃくちゃだったのに、このときの家族の合唱が一番楽しくて温かかったと、時々無性に懐かしくなる。 
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