二章 回復の兆し
こうして、体調を見ながら少しずつ家の外に出るようになり、義家族 以外との交流も増えてきた頃。急を要する命の危機は脱しただろうと判断して、リューさんは、次の村に旅立つ準備を始めていた。
旅の途中で長く引き止めてしまったことが、リューさんに申し訳なかった。お詫びの言葉を記すと、特に期限も無い旅だから気にしないようにと言ってくれた。
他所の家への往診などで外出することもあったけれど、最初のひと月程度は特に付きっきりで私の治療に集中していたことで、彼女は義家族とも信頼関係を築けたらしい。旅立ちを待たず、初めて小さく声が出たときには、別室や庭にいた義家族全員にすぐに報告してくれた。それまで落ち着いて淡々と治療してくれていた彼女の姿からは意外で、少し表情が緩んでいたのだろう。揃って部屋に着いた途端、義家族は目を見開き、ほぼ同時に叫んだ。
「──笑った!?」
瞬間的に重なった大声に、私のほうが身を竦 めるほど驚いた。どうやら私は、それまで笑顔らしい笑顔が無かったらしい。体調の回復が遅かったせいか、村の生活に早く慣れなければと、余裕が無かったからか。当時は特に意識もしていなかったことだけれど、どれほど心配をかけていただろう。
ユウ兄さんより上の義姉 、マリ姉さんが涙を浮かべて駆け寄り、私を抱きしめた。他の義家族も次々に寄り集まってきた。マリ姉さんの反対側からも涙目のお義母 さんが肩を抱き、お義父 さんやユウ兄さんはそれぞれの後ろから手を伸ばし、頭や背を軽く叩いてきた。
声が戻って、笑えるようになって、よかった、よかったと、重ね重ね染み渡る喜びの言葉。
気付けば私も涙が溢れていた。まだ途切れ途切れのかすかな声だったのに、それをこんなにも喜んでくれる人たちがいる。私の笑顔に喜んで、抱きしめてくれる人たちがいる。
優しくて、温かくて、たまらなかった。
思えばそれまでは、自分で選んだものではないという漠然とした生への拒否感に沈んでいた。
差し出され続ける優しさの濁流に呑まれて、その善意を裏切れないほど与えられ続けて、ただ抗えずにいた。
助けられた手前、村と宿屋に恩を返さなければという義務感だけが、生きなければならない唯一の理由だった。
そこに突然差し込んだかのような、温かな歓喜。返さなければならない重荷ではなく、ただの温かな光として浴びた愛情。
元の家族は思い出せなくても、彼らがもう私の家族なのだと──以前ユウ兄さんも同じように言ってくれてから、しばらく経っていたけれど──ようやく自分にもその実感が灯り始めていた。
リューさんは、それからほどなくして旅立って行った。彼女がいなければ、私は助からなかった。まだ上手く使えなかったけれど、治療の合間にいくつかの魔法も教わっていた。
何かお返しをしたかったのに、そのときの私には、特に何もできることが無かった。その想いを記すと「次に来たときにもっと元気な姿を見せてくれれば十分」と、そっと頭を撫でてくれた。薬の補充や調整を兼ねて、その後も彼女は何度も様子を見に来てくれることになる。
旅の途中で長く引き止めてしまったことが、リューさんに申し訳なかった。お詫びの言葉を記すと、特に期限も無い旅だから気にしないようにと言ってくれた。
他所の家への往診などで外出することもあったけれど、最初のひと月程度は特に付きっきりで私の治療に集中していたことで、彼女は義家族とも信頼関係を築けたらしい。旅立ちを待たず、初めて小さく声が出たときには、別室や庭にいた義家族全員にすぐに報告してくれた。それまで落ち着いて淡々と治療してくれていた彼女の姿からは意外で、少し表情が緩んでいたのだろう。揃って部屋に着いた途端、義家族は目を見開き、ほぼ同時に叫んだ。
「──笑った!?」
瞬間的に重なった大声に、私のほうが身を
ユウ兄さんより上の
声が戻って、笑えるようになって、よかった、よかったと、重ね重ね染み渡る喜びの言葉。
気付けば私も涙が溢れていた。まだ途切れ途切れのかすかな声だったのに、それをこんなにも喜んでくれる人たちがいる。私の笑顔に喜んで、抱きしめてくれる人たちがいる。
優しくて、温かくて、たまらなかった。
思えばそれまでは、自分で選んだものではないという漠然とした生への拒否感に沈んでいた。
差し出され続ける優しさの濁流に呑まれて、その善意を裏切れないほど与えられ続けて、ただ抗えずにいた。
助けられた手前、村と宿屋に恩を返さなければという義務感だけが、生きなければならない唯一の理由だった。
そこに突然差し込んだかのような、温かな歓喜。返さなければならない重荷ではなく、ただの温かな光として浴びた愛情。
元の家族は思い出せなくても、彼らがもう私の家族なのだと──以前ユウ兄さんも同じように言ってくれてから、しばらく経っていたけれど──ようやく自分にもその実感が灯り始めていた。
リューさんは、それからほどなくして旅立って行った。彼女がいなければ、私は助からなかった。まだ上手く使えなかったけれど、治療の合間にいくつかの魔法も教わっていた。
何かお返しをしたかったのに、そのときの私には、特に何もできることが無かった。その想いを記すと「次に来たときにもっと元気な姿を見せてくれれば十分」と、そっと頭を撫でてくれた。薬の補充や調整を兼ねて、その後も彼女は何度も様子を見に来てくれることになる。