三章 親友との出会い
翌日、少し遅めに目覚めた私は、そろそろ次の村に旅立つと言っていたリカーナさんが、まだ村にいるかどうか探しに出た。と言っても、いつも行商をしている広場は宿屋の目の前で、大抵はすぐに見つかる。今回も、パン屋の前の荷馬車にすぐ気がついた。
出発に間に合って顔を見せられそうで良かった。昨日のあれっきりで別れてしまっては、心配させたままになってしまう。ホッと息をついてから、私はパン屋に走った。
護衛の二人にも軽く挨拶をしてから荷馬車を回り込むと、昨日の今日でもう店頭に立っているミィさんが見えて驚いた。私からだけではなく、兄さんからも直接働きかけることができた成果だろう。
ずっと閉じこもっていた自室ではなく、店頭で、昨日すっかり仲良くなったリカーナさんと談笑している。
これから少しずつ、店の外にも足を向けていくのだろうと思うと、そのきっかけを作れて嬉しかった。
挨拶の後、ベッドを借りてしまったことを改めてミィさんに謝罪すると、こちらこそ疲れていたのに気づかなくてごめんと、逆に謝られてしまった。
「あんなに疲れるほど付き合わせて、もう来てくれないかも……」と心配していたところを、村を出るからと挨拶回りしていたリカーナさんに、慰められていたそうだ。
「大丈夫大丈夫、あれだけ話したらもう友だちでしょ! ねえシェリル!」
「もちろんです。よければ、また呼んでください。……歌わなければ、大丈夫なので……」
言いながら、たった一音すら歌えなかった悔しさが心に滲 み渡った。
このまま全く歌えない人生になるのだろうか。親しい人と好きな曲を分かち合い、歌声を重ねる楽しみは、私には訪れないのかもしれない……そう思うと、寂しさのような切ない痛みが胸を刺した。
「そこよねぇー……」
リカーナさんも残念そうにしていた。
「顔はいいと思うから、歌えればホントにアイドルやれそうなのになー」
「話してみたら声も可愛くてびっくりしたけど、話し方は大人びてるから、独特で耳に残るかも……」
「あぁー、それだ! 可愛いっちゃ可愛いけど、話し方のわりに声がちびっ子みたいなんだわ!」
……貶 しているつもりではないのだろうけれど、あまり褒められている気もしない。
「まあ、話してるだけで特徴的なら、ラジオの仕事では強いかもね」
「なるほど! そうかも!」
楽しそうに盛り上がる二人の会話を聞き流しながら、私は少し考え込んだ。
声が子どもっぽいと言われて少し落ち込みかけたけれど、強みにもなり得るかもしれないのか。
歌えれば。歌うことさえできれば──アイドルとして。
それが叶わなくても、ただ話せるだけでも──もしかしたら、ラジオ塔で何か仕事を得られる可能性もあるのだろうか。
もともと見知らぬ関係だった宿屋一家に、衣食住の全てを依存して甘え続けてきたことに、ずっと負い目を感じていた。ラジオ塔の仕事は、この歳でも自立できる収入を得られるだろうか……。
このときの私にとっては、時間をかけて拙 い小物程度しか作れない手芸品を行商に売るよりは、もっと手っ取り早く生活の足しになりそうな気がした。
歌に関してはすぐに実現できる気はしなかったけれど、練習してみようと思った。できなくても仕事はあるかもしれない。それでも、できるに越したことはない。
恐らく、慣れないうちは咳き込むことが多いだろう。誰かに心配をかけないために、村から離れた練習場所が欲しい。安全に一人になれる場所があるだろうか。
ぼんやりと思考に耽 っているうちに、ミィさんとリカーナさんの会話は終わっていた。
「──じゃあ、そろそろ出発するから。また夏にね」
夏。次に会うまでに、少しでも歌えるようになって、驚かせてみたい。
手を振り見送りながら、淡い目標を心に灯した。
出発に間に合って顔を見せられそうで良かった。昨日のあれっきりで別れてしまっては、心配させたままになってしまう。ホッと息をついてから、私はパン屋に走った。
護衛の二人にも軽く挨拶をしてから荷馬車を回り込むと、昨日の今日でもう店頭に立っているミィさんが見えて驚いた。私からだけではなく、兄さんからも直接働きかけることができた成果だろう。
ずっと閉じこもっていた自室ではなく、店頭で、昨日すっかり仲良くなったリカーナさんと談笑している。
これから少しずつ、店の外にも足を向けていくのだろうと思うと、そのきっかけを作れて嬉しかった。
挨拶の後、ベッドを借りてしまったことを改めてミィさんに謝罪すると、こちらこそ疲れていたのに気づかなくてごめんと、逆に謝られてしまった。
「あんなに疲れるほど付き合わせて、もう来てくれないかも……」と心配していたところを、村を出るからと挨拶回りしていたリカーナさんに、慰められていたそうだ。
「大丈夫大丈夫、あれだけ話したらもう友だちでしょ! ねえシェリル!」
「もちろんです。よければ、また呼んでください。……歌わなければ、大丈夫なので……」
言いながら、たった一音すら歌えなかった悔しさが心に
このまま全く歌えない人生になるのだろうか。親しい人と好きな曲を分かち合い、歌声を重ねる楽しみは、私には訪れないのかもしれない……そう思うと、寂しさのような切ない痛みが胸を刺した。
「そこよねぇー……」
リカーナさんも残念そうにしていた。
「顔はいいと思うから、歌えればホントにアイドルやれそうなのになー」
「話してみたら声も可愛くてびっくりしたけど、話し方は大人びてるから、独特で耳に残るかも……」
「あぁー、それだ! 可愛いっちゃ可愛いけど、話し方のわりに声がちびっ子みたいなんだわ!」
……
「まあ、話してるだけで特徴的なら、ラジオの仕事では強いかもね」
「なるほど! そうかも!」
楽しそうに盛り上がる二人の会話を聞き流しながら、私は少し考え込んだ。
声が子どもっぽいと言われて少し落ち込みかけたけれど、強みにもなり得るかもしれないのか。
歌えれば。歌うことさえできれば──アイドルとして。
それが叶わなくても、ただ話せるだけでも──もしかしたら、ラジオ塔で何か仕事を得られる可能性もあるのだろうか。
もともと見知らぬ関係だった宿屋一家に、衣食住の全てを依存して甘え続けてきたことに、ずっと負い目を感じていた。ラジオ塔の仕事は、この歳でも自立できる収入を得られるだろうか……。
このときの私にとっては、時間をかけて
歌に関してはすぐに実現できる気はしなかったけれど、練習してみようと思った。できなくても仕事はあるかもしれない。それでも、できるに越したことはない。
恐らく、慣れないうちは咳き込むことが多いだろう。誰かに心配をかけないために、村から離れた練習場所が欲しい。安全に一人になれる場所があるだろうか。
ぼんやりと思考に
「──じゃあ、そろそろ出発するから。また夏にね」
夏。次に会うまでに、少しでも歌えるようになって、驚かせてみたい。
手を振り見送りながら、淡い目標を心に灯した。
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