三章 親友との出会い

 寝込んでいた間に落ちてしまった筋力や体力も少しずつ戻り、春目前となる頃には、私は広場に出て村の子どもたちと一緒に過ごすことが増えた。体調も落ち着いていて、少しの無理で崩れても、すぐに回復できることが多かった。話すことにもほとんど不自由が無くなってきた。
 外との接点が増えてから気づいたことだけれど、子どもたちは一日中家の手伝いをしているわけではなかった。私より年下くらいなら、午前中にある程度手伝うと、残りの時間は村の内外で遊び回っていることが多い。
 それでも、もう回復したのだから宿屋をもっと手伝わなければと、私は頻繁に仕事を求めた。
 「まだそれほど頑張らなくても大丈夫だ」と、お父さんに優しい笑顔で頭を撫でられた。
 お母さんも「無理せずほどほどが一番」と、むしろお茶を淹れて休憩に誘ってきた。
 最終的には「それより、気の合う友だちはできたのか」「外で遊んだほうが体力がつく」と、いつも子どもたちの輪に入れられてしまう。
 ずっと気遣われてばかりの私は、ただ負担をかけるだけの存在ではないのか……そんな焦りを、優しくなだめられているように感じた。 

 年上であればもう少し仕事を任されていることが多かったけれど、ユウ兄さんは、よく私と一緒に子どもたちの輪に加わっていた。
 まだそれほど体力が無く、駆け回ってもすぐに息を切らしてしまう私を、心配していたのかもしれない。あまり仕事をしないことを家族も特に責めず、シェリルを頼んだと、笑顔で兄さんの肩を叩いていた。
 どこにでもついて来て、少しのことでも面倒を見てくれる彼を、私も頼りにしていた。過保護すぎると思いつつも、実際に助かる場面は多かった。
 歳も近く、気さくで話しやすいユウ兄さんが傍にいると、安心できた。

 ユウ兄さんと一緒に屋外で過ごすことが増え、私は、彼がパン屋兼菓子屋の二階の窓をときどき気にしていることに気づいた。子供たちとよく遊んでいた広場に面したその店には、何度かお使いで行ったことがあった。私も気にして見るようにすると、人がいてもすぐにカーテンの裏に隠れてしまうようだった。
 兄さんが目を向けたタイミングで、訊いてみた。
「あの方とお知り合いですか?」
 私に気づかれていると思っていなかったらしい彼は、驚きながら教えてくれた。
「昔、村の男子たちで何度もからかっちゃって、外に出てこなくなった女子なんだ。今は皆反省してて謝りたいと思ってるけど、もうすっかり、出てくるのが怖いみたいで……」
 パン屋夫妻の娘だというその女の子は、もう何年も家の中で閉じこもっているという。ご両親も気にかけていて、お詫びの伝言や贈り物は何度も届けてくれたそうだ。それでも彼女の心は癒えず、ご両親も無理やり引っ張り出したりはせずに、見守っているらしい。

 たった一人の女の子に複数の男子で寄ってたかって、何度も悪口を? 何年も外に出てこないなんて、からかいの度を越していたのでは?
 一体どれほどひどいことを言ったのかと追及を進めると、ユウ兄さんは言いづらそうに唸りながら、少し間を置いた後、白状した。
 それは、子どもならば軽く言ってしまいそうな、容姿や体型をけなす悪口だった。詳細は伏せておくけれど、ありがちだからといって口にしていい言葉でもなかった。女子になら尚更だろう。

 冷めた視線に耐えきれなくなったのか、彼は言いわけを続けた。
「俺は一応、周りを止めてる気でいたんだ……お前らやめろよ、ひどいだろって。……でも、皆と一緒に笑ってた。俺も十分、嫌な奴だったよな……」
 優しいユウ兄さんが、自分からひどいことを言うとはあまり想像できなかったけれど、だいたい察した。
 彼は、からかう仲間たちを止めたいと思いつつも、その場のノリで中途半端に同調してしまったのだろう。その優柔不断さは、確かに心を抉るものだったに違いない。受け取る側からすれば、悪意と大差ない。

 それでも、本当に反省はしていたのだろう。どうでも良ければ、何度も気にして様子をうかがったりしない。
 過去の彼も、彼女を傷つけたかったわけではない。ただ、その場の空気に流されすぎてしまった。
 誰も、よくある子供同士の悪口が、こんなにこじれるとは思っていなかった。少なくとも彼らにとっては、それだけのことだったのだろう。
 何とかできればいいのにとは思ったものの、その時点で私にできることは、ユウ兄さんを慰めることくらいだった。
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