二章 回復の兆し

 積雪も増して、寒さが最も厳しくなる頃には、何とか言葉を聞き取ってもらえる程度には発声できるようになった。簡単な意思疎通にはほとんど困らなくなり、読み書きが不得意なたちとも交流するようになった。
 体調もさらに改善して、手元の作業にも集中できるようになった。私はマリ姉さんの仲介で、村の女性たちから、手芸や民芸を学ぶことにした。

 集会所の大きな暖炉の前で、それぞれ得意なことを持ち込み、和やかに談笑しながら手を動かす女性たち。
 木彫り細工、刺繍、陶器、織物など……。どれも、行商に売れば大切な収入源となる作品だった。美しいものばかりで目移りしてしまい、何から教えてもらえばいいのかわからなかった。
 初心者向けのお勧めを尋ねて、最初に挑戦してみたのは編み物だった。難しそうと身構えたけれど、覚えてみればそれほどでもなかった。集会所の暖炉の暖かさと、パチパチと薪が燃える音に包まれながら作業をするのが、心地よかった。

 無心で編んでいると心が落ち着いたけれど、それほど進まないうちに、手が痛くなった。その場で終えることができなくても、編み物ならば場所を選ばないと聞いて、持ち帰ることにした。
 寒い時期だったこともあり、初歩としてまずティペットを編んでいた。マフラーよりも小さく試作としては手頃で、完成すれば防寒具としてすぐに身に付けられる。少し編んではすぐに手が痛むので、力を入れられずに緩く編み続けた。編み目がスカスカに仕上がってしまったけれど、無いよりは暖かかった。
 少し慣れてきた頃に編んだ帽子も、初めてのものには愛着が湧いた。緩いながらもなるべく均等に整えた編み目を「丁寧に編んだね」と褒められた。嬉しくて、何年もかぶり続けるお気に入りになった。

 あまり集中して根を詰めすぎると、目眩がぶり返し、手も痛んだので、慣れてきても時間をかけざるを得なかった。それでも、自分の手で実用品を生み出せることは楽しかった。
 体調を整えることで精一杯で、それまで趣味を持たなかった私は、他の作業にも次々と手を出しては没頭した。初めてにしては器用だと褒められることが多く、嬉しかった。

 もしも、アイドルになることが無ければ──

 私はこの村で宿屋の一員として働き、ただ楽しんで作った手芸品を行商に卸して、小遣い程度の売上でお菓子ばかり買ってしまう……そんな穏やかな村娘暮らしを、続けていたに違いない。
 それもどんなに素敵だろうと思うけれど、そうはならなかった。
 アイドルとしての素質を見出し、村の外に連れ出してくれた人が、この村にいた。今でも大切な、私の初めての親友、ミィさん。
 最終公演にも来てくれたけれど、叶うものなら、また何度でも会いたかった。
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