創作 -short-
僕には名前はない。いや、正しく言えば名前はあるのだ。しかしそれは元の僕であり、この僕自身のものではない。
気がついた頃には、僕の目の前には白い天井が広がっていた。後ほど知ったことだが、アイツと同じように作られたらしい。だが、所詮作り物。同じように作られた他の僕も、僕も、数値が何処かしら足りず、すぐに劣化品として扱われた。
何度も同じ研究をし、生産され、失敗して。それを繰り返す度、失敗作はどんどん増えていく。そうすると奴らはゴミ箱へ投げるように平気で処分しようとする。まあ当たり前の話か。
幸運にも、僕は他の僕らのなかでも最も優れていた。中には立つことすらできない者もいる。
僕は数値の最も高い速さを最大限に生かし、研究員達に見つからぬよう工場を出た。抜け出すのは意外にも容易いことだった。
外へ出ると、初めて見る物で溢れていた。まるで夢の世界に来たようだ。
これが自由か。知らない場所に心が踊ると同時に、恐怖が襲ってくる。例えるなら、籠の中の鳥が突然籠の外に出されたようなかんじだ。
「っ、とにかく見つからないところへ」
僕はふと我にかえり、自分の置かれている状況を思い出す。通常外へ出してはならない物。きっと奴らは気付くと同時に血眼に僕を探し処分するだろう。急がなければ。そう思い僕は足を早めた。
「きゃっ」
自分の身体と同じくらいの年だろうか。ふと声のした方を見ると、薄暗い路地で少女が黒いコートの男達に手を掴まれていた。その路地裏前をな通る者は誰一人見ていないふりをし通り過ぎていく。
僕も皆と同じよう無視して通り過ぎようと足を踏み出す。が、感情とは裏腹に足は少女のいる路地の方へ踏み出していた。
小さく舌打ちをし、少女を掴む男達へ近付く。
「ん?なんだおま、」
「邪魔」
男達が気が付くと同時に、僕はそれぞれの鳩尾を思い切り殴り、首の後ろに手刀を打ち込む。倒れ込んだ男達を冷めた目で見下ろし、視線を少女に移す。少女の目は僕の目とは対照的で。力強く、爛々としていた。
「あ、ありがとう!」
「別に。じゃあね」
短くそう言い、くるりと背を向けると待って、と引き止める声。
「私も連れて行って」
「は?」
「だって行く宛がないんだもの」
あなたと一緒で。にこりと笑いながらそう言う少女。なんで分かった?貴方の目を見れば分かるわ。
「さあ、早く遠くまで走りましょう!」
勢い良く僕の手を掴むと、少女は僕を連れて走り出した。冗談じゃない。そう思うが、心のどこかで彼女に縋る自分もいた。感情とはややこしい。こんなもの消えてしまえばいいのに。
「遅い」
彼女の手を掴み直し、速度を上げる。走りながらちらりと彼女を見ると、何故か嬉しそうに笑っていた。それを見て前に向き直す。
僕はその時知らなかった。自分の頬が少し緩んでいたことを。
気がついた頃には、僕の目の前には白い天井が広がっていた。後ほど知ったことだが、アイツと同じように作られたらしい。だが、所詮作り物。同じように作られた他の僕も、僕も、数値が何処かしら足りず、すぐに劣化品として扱われた。
何度も同じ研究をし、生産され、失敗して。それを繰り返す度、失敗作はどんどん増えていく。そうすると奴らはゴミ箱へ投げるように平気で処分しようとする。まあ当たり前の話か。
幸運にも、僕は他の僕らのなかでも最も優れていた。中には立つことすらできない者もいる。
僕は数値の最も高い速さを最大限に生かし、研究員達に見つからぬよう工場を出た。抜け出すのは意外にも容易いことだった。
外へ出ると、初めて見る物で溢れていた。まるで夢の世界に来たようだ。
これが自由か。知らない場所に心が踊ると同時に、恐怖が襲ってくる。例えるなら、籠の中の鳥が突然籠の外に出されたようなかんじだ。
「っ、とにかく見つからないところへ」
僕はふと我にかえり、自分の置かれている状況を思い出す。通常外へ出してはならない物。きっと奴らは気付くと同時に血眼に僕を探し処分するだろう。急がなければ。そう思い僕は足を早めた。
「きゃっ」
自分の身体と同じくらいの年だろうか。ふと声のした方を見ると、薄暗い路地で少女が黒いコートの男達に手を掴まれていた。その路地裏前をな通る者は誰一人見ていないふりをし通り過ぎていく。
僕も皆と同じよう無視して通り過ぎようと足を踏み出す。が、感情とは裏腹に足は少女のいる路地の方へ踏み出していた。
小さく舌打ちをし、少女を掴む男達へ近付く。
「ん?なんだおま、」
「邪魔」
男達が気が付くと同時に、僕はそれぞれの鳩尾を思い切り殴り、首の後ろに手刀を打ち込む。倒れ込んだ男達を冷めた目で見下ろし、視線を少女に移す。少女の目は僕の目とは対照的で。力強く、爛々としていた。
「あ、ありがとう!」
「別に。じゃあね」
短くそう言い、くるりと背を向けると待って、と引き止める声。
「私も連れて行って」
「は?」
「だって行く宛がないんだもの」
あなたと一緒で。にこりと笑いながらそう言う少女。なんで分かった?貴方の目を見れば分かるわ。
「さあ、早く遠くまで走りましょう!」
勢い良く僕の手を掴むと、少女は僕を連れて走り出した。冗談じゃない。そう思うが、心のどこかで彼女に縋る自分もいた。感情とはややこしい。こんなもの消えてしまえばいいのに。
「遅い」
彼女の手を掴み直し、速度を上げる。走りながらちらりと彼女を見ると、何故か嬉しそうに笑っていた。それを見て前に向き直す。
僕はその時知らなかった。自分の頬が少し緩んでいたことを。
1/3ページ