シャンデリアの下で
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「先生はきっと、生きている」
やけに確信に満ちた声音で、彼女は言い切った。湿った褥の空気を纏い、白い肢体にぬめった体液をいくらか吸い込んだであろうバスタオルを体に巻き付けて、ベランダで煙草を吸う銃兎を見つめた。
「なんでそう思うんだ」
「先生の遺体の写真を見た」
「どうやって」
「事情聴取に来たお兄さんとお話して、頼んだら」
「……お前」
「先生の胸元、心臓の上あたり。ふたつ、縦に並んだほくろがある。上のほくろがちょっと大きい。それがなかった」
そう言い切る五十鈴の目に迷いはない。その下に刻まれた隈は色濃く、艶めかしいまでの生を感じた性交から一転、化粧がはがれてしまえば、ただ、ぎりぎりを生きる弱っちい生き物の姿がそこにあった。
「……先生が、なにをしていたかは知らない。私が聞きたいくらい。……これでも、それなりに親しい方だと思ってた。売れてない女優からすれば、あんなに懇意にしてくれるひと、そうそういなかった。……邪推されかねない関係だとはわかってるつもり、だけど、だったら、なんで、私は」
震える体をするすると滑るようにして、バスタオルが逃げてゆく。一糸まとわぬ体はか弱い。きっと、男がその気になればぽきりと折れてしまいそうな四肢に、きゅっと絞めるにはちょうどよさそうな細い首。彼女はあっさりとそれを晒す。三原色で表される液晶の向こうで、入間銃兎と同じ空気の中で。
「先生か、先生の仲間はいずれ、私のもとにやって来る」
「……どうしてそう思う」
「先生が危険な橋を渡ってまで手に入れたかったもの、お金か、情報か、なにかは知らないけれど、使い道はきっと、私にある」
入間君。呼び声は湿り、震えた。
「はやく、先生をとめてください」
「なぁんて、湿っぽいことほざいていたが、現実はそう甘かねぇんだよ」
以前、別の事件で入手したルートより、資料が届いた。つい先日、中国に高飛びした男の写真だ。とある場所以降足取りがふつりと途切れている。過去の情報を元に判断すると、男はもう生きておらず、その体は換金済みだろう。はだけたシャツの隙間からは、縦に二つ並んだ黒子が見えていた。
やけに確信に満ちた声音で、彼女は言い切った。湿った褥の空気を纏い、白い肢体にぬめった体液をいくらか吸い込んだであろうバスタオルを体に巻き付けて、ベランダで煙草を吸う銃兎を見つめた。
「なんでそう思うんだ」
「先生の遺体の写真を見た」
「どうやって」
「事情聴取に来たお兄さんとお話して、頼んだら」
「……お前」
「先生の胸元、心臓の上あたり。ふたつ、縦に並んだほくろがある。上のほくろがちょっと大きい。それがなかった」
そう言い切る五十鈴の目に迷いはない。その下に刻まれた隈は色濃く、艶めかしいまでの生を感じた性交から一転、化粧がはがれてしまえば、ただ、ぎりぎりを生きる弱っちい生き物の姿がそこにあった。
「……先生が、なにをしていたかは知らない。私が聞きたいくらい。……これでも、それなりに親しい方だと思ってた。売れてない女優からすれば、あんなに懇意にしてくれるひと、そうそういなかった。……邪推されかねない関係だとはわかってるつもり、だけど、だったら、なんで、私は」
震える体をするすると滑るようにして、バスタオルが逃げてゆく。一糸まとわぬ体はか弱い。きっと、男がその気になればぽきりと折れてしまいそうな四肢に、きゅっと絞めるにはちょうどよさそうな細い首。彼女はあっさりとそれを晒す。三原色で表される液晶の向こうで、入間銃兎と同じ空気の中で。
「先生か、先生の仲間はいずれ、私のもとにやって来る」
「……どうしてそう思う」
「先生が危険な橋を渡ってまで手に入れたかったもの、お金か、情報か、なにかは知らないけれど、使い道はきっと、私にある」
入間君。呼び声は湿り、震えた。
「はやく、先生をとめてください」
「なぁんて、湿っぽいことほざいていたが、現実はそう甘かねぇんだよ」
以前、別の事件で入手したルートより、資料が届いた。つい先日、中国に高飛びした男の写真だ。とある場所以降足取りがふつりと途切れている。過去の情報を元に判断すると、男はもう生きておらず、その体は換金済みだろう。はだけたシャツの隙間からは、縦に二つ並んだ黒子が見えていた。
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