オペラにしてはきな臭い
お名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「入間くん」
待ち合わせ時間の五分前、そっと後ろから声をかけられる。振り返った先にいたのは園山五十鈴だ。シースルーのトップスに細身のパンツ、肌寒くなり始めた季節柄か、ざっくりと編んだニットのカーディガンを羽織っている。気負わない格好であり、年相応かと言われれば少々幼くも見える。待たせてごめんね、と微笑む姿はあの日の狼狽が嘘のようである。首を振り、さっそくだが出発しましょうと笑いかける。予約した店はここからすこし距離がある。車までエスコートしようかとも思ったが、あまりにもわざとらしすぎたからやめておいた。
「先生は、危険な橋を渡っていたんでしょう」
完全個室の料理屋にて、おしぼりを丁寧にたたみ直しながら、さらりと五十鈴は問うた。否定することでもない。銃兎はこの事件について主として関わっているメンバーではなかったが、かといって彼女と自分以上にうまく関われるやつもいまい、と自己判断であっさりと、情報をこぼす。
「ああ」
「やっぱり」
「どうして勘付いた?」
「だって私の周りのひとたち、みんな変になっていくのだもの」
つい、と伏せた睫毛は思わせぶりに俯く。ややあって、演じていたことをはにかむように笑みをこぼし、弄んでいたおしぼりをぺい、と机の上に放る。色を失った顔はぞっとするほど無表情だった。
「同期の子は体調不良で休みがちになってたと思ったら、自宅で幻聴と幻視の錯乱状態。ホストにハマってた先輩は急に羽振りが良くなって、彼と一緒に海外に住む、とか言って辞めちゃったし。入間くんと再会したあの打ち上げの日だって、三次会に行った人たちのなかには、ホテルで意識を失って緊急搬送された子だっていたらしいし」
「…………」
「入間くんがどうしてあの打ち上げに来てたのかはわからないわ。聞きなれない名前と関係者を名乗って、私を連れ帰って、今もこうして一緒にいる理由も。だけど、なにかおかしいことはよくわかる。ねぇ、入間くん」
歪んだ表情、お冷をぎゅ、と握り込み、汗に濡れた指先に力が入る。
「私は、みんなに、何をされようとしているのかしら」
出された食事をぺろりと平らげて、甘ったるい酒を一杯飲み干した五十鈴は、店を出たところ、ふらりとわざとらしくよろけて、銃兎の胸元に寄りかかった。見上げてくる瞳はすぅ、と透き通って、まっすぐに銃兎を射抜いた。いつかと同じように、銃兎の家でひとつ同じベッドにもつれ込み、甘ったるい悲鳴をふつりとあげ、わずかばかりに涙をこぼして、気を失うようにして眠りについた。
待ち合わせ時間の五分前、そっと後ろから声をかけられる。振り返った先にいたのは園山五十鈴だ。シースルーのトップスに細身のパンツ、肌寒くなり始めた季節柄か、ざっくりと編んだニットのカーディガンを羽織っている。気負わない格好であり、年相応かと言われれば少々幼くも見える。待たせてごめんね、と微笑む姿はあの日の狼狽が嘘のようである。首を振り、さっそくだが出発しましょうと笑いかける。予約した店はここからすこし距離がある。車までエスコートしようかとも思ったが、あまりにもわざとらしすぎたからやめておいた。
「先生は、危険な橋を渡っていたんでしょう」
完全個室の料理屋にて、おしぼりを丁寧にたたみ直しながら、さらりと五十鈴は問うた。否定することでもない。銃兎はこの事件について主として関わっているメンバーではなかったが、かといって彼女と自分以上にうまく関われるやつもいまい、と自己判断であっさりと、情報をこぼす。
「ああ」
「やっぱり」
「どうして勘付いた?」
「だって私の周りのひとたち、みんな変になっていくのだもの」
つい、と伏せた睫毛は思わせぶりに俯く。ややあって、演じていたことをはにかむように笑みをこぼし、弄んでいたおしぼりをぺい、と机の上に放る。色を失った顔はぞっとするほど無表情だった。
「同期の子は体調不良で休みがちになってたと思ったら、自宅で幻聴と幻視の錯乱状態。ホストにハマってた先輩は急に羽振りが良くなって、彼と一緒に海外に住む、とか言って辞めちゃったし。入間くんと再会したあの打ち上げの日だって、三次会に行った人たちのなかには、ホテルで意識を失って緊急搬送された子だっていたらしいし」
「…………」
「入間くんがどうしてあの打ち上げに来てたのかはわからないわ。聞きなれない名前と関係者を名乗って、私を連れ帰って、今もこうして一緒にいる理由も。だけど、なにかおかしいことはよくわかる。ねぇ、入間くん」
歪んだ表情、お冷をぎゅ、と握り込み、汗に濡れた指先に力が入る。
「私は、みんなに、何をされようとしているのかしら」
出された食事をぺろりと平らげて、甘ったるい酒を一杯飲み干した五十鈴は、店を出たところ、ふらりとわざとらしくよろけて、銃兎の胸元に寄りかかった。見上げてくる瞳はすぅ、と透き通って、まっすぐに銃兎を射抜いた。いつかと同じように、銃兎の家でひとつ同じベッドにもつれ込み、甘ったるい悲鳴をふつりとあげ、わずかばかりに涙をこぼして、気を失うようにして眠りについた。