オペラにしてはきな臭い
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うす暗い室内に響く湿った吐息。こらえきれない、といった風にあげられる声は甘く、暗闇に浮かんだ白い肌のなまめかしさをいっとう際立てる。無骨な男の影が差すたびに目を細めてしまうくらいには、彼女の裸体はひとつの絵として完成していた。
「てめぇ、人様の前でAV鑑賞たぁ、いい趣味してんな」
どかりと、ソファの隣に左馬刻が腰を下ろした。たばこに火をつけ、煙を吐き出す頃には、銃兎が見ているものがアダルトビデオの類ではなくVシネマであることに気が付いたらしい。冗長に続く濡場に、まだあるのか、と言わんばかりに目を細めた。
「てめぇの趣味にしちゃ乳臭せぇ」
「……勘違いされたままも癪だから言っとくが、一応これは仕事の一環だ」
「税金でAV見る仕事なんて、ご立派だなポリ公は」
「だからAVじゃねぇ。売れてないVシネマだ」
「Vシネマねぇ」
だらだらと続く濡場を早送りし、場面が切り替わったところで止める。暗い事務所で淡々と会話が続いていく。映像が大きく動かないのは低予算ゆえのチープさだ。どんだけ濡場に気合入れてんだよ、と左馬刻は鼻で笑った。極道もののそれはどこかで聞いたことのあるような大筋をなぞるばかりで、たらたら続くこの会話もその気になれば一分で終わる。飽き飽きとしているらしい左馬刻はリモコンを手に早送り再生に切り替える。再生停止しなかったのが仕事と称した銃兎への最低限の気遣いだろう。きゅるきゅる進む画面の中、先ほどまで濡場を演出していた女が、和服を着こんで真剣そうなまなざしを伏せる。堅気であった彼女は、組同士の抗争に身を投じる筋者の男に寄り添うため、裏社会へと踏み込んだらしい。なんとな~く、主人公の男は帰ってこず、しかし彼女は希望を捨てず、彼の戻りを待ち続けるのだろうな。そんなことを予期させる。そしておそらく、この予想は大きくは外れない。
銃兎はDVDのパッケージを手に取り、左馬刻に見せる。
「この演出家の名前に覚えはないか」
「あいにく、Vシネ鑑賞の趣味はねぇからな」
「この男は演出家として独り立ちしてからずっと、極道ものばかり作ってきた。過去のインタビューで語る限りでは、ウケを狙ってではなく純粋にそういった作品がずっと好きだったから、という動機からだ」
「注ぐ愛情と熱意に実力が釣り合わねぇとは、ずいぶんと残酷なこった」
「その愛情と熱意の方向性を見失って、とうとう、筋者に関わっちまったらしい。横浜から東京各所への不審かつ頻回な出入り、自身の伯父名義で購入したマンションの一室は植物園状態。数か月前にふらりと姿を消して、つい先日、遺体で発見された」
「へぇ。で、組織犯罪対策部巡査部長の入間銃兎くんはクソみてぇな三文芝居を見ていらっしゃったわけか」
「そこだけで話がおわりゃ良かったんだがな。ほら、その女」
ちょうど、画面に映った例の女。案の定と言うべきか、主人公の訃報を聞き、はらはらと涙をこぼして、そののち、膝から崩れ落ちた。つい、と伏せられた睫毛に雫がみちて、きらと光った。異様にこだわりの強い彼女の描写が、面倒な事案の裏付けに思えてずきずきと頭が痛む。
「失踪直前、奴が取り組んでいた作品、要は遺作だな。その主演として選ばれていた女優がこの女。噂では、二人は親密な関係にあったとか」
「てめぇ、人様の前でAV鑑賞たぁ、いい趣味してんな」
どかりと、ソファの隣に左馬刻が腰を下ろした。たばこに火をつけ、煙を吐き出す頃には、銃兎が見ているものがアダルトビデオの類ではなくVシネマであることに気が付いたらしい。冗長に続く濡場に、まだあるのか、と言わんばかりに目を細めた。
「てめぇの趣味にしちゃ乳臭せぇ」
「……勘違いされたままも癪だから言っとくが、一応これは仕事の一環だ」
「税金でAV見る仕事なんて、ご立派だなポリ公は」
「だからAVじゃねぇ。売れてないVシネマだ」
「Vシネマねぇ」
だらだらと続く濡場を早送りし、場面が切り替わったところで止める。暗い事務所で淡々と会話が続いていく。映像が大きく動かないのは低予算ゆえのチープさだ。どんだけ濡場に気合入れてんだよ、と左馬刻は鼻で笑った。極道もののそれはどこかで聞いたことのあるような大筋をなぞるばかりで、たらたら続くこの会話もその気になれば一分で終わる。飽き飽きとしているらしい左馬刻はリモコンを手に早送り再生に切り替える。再生停止しなかったのが仕事と称した銃兎への最低限の気遣いだろう。きゅるきゅる進む画面の中、先ほどまで濡場を演出していた女が、和服を着こんで真剣そうなまなざしを伏せる。堅気であった彼女は、組同士の抗争に身を投じる筋者の男に寄り添うため、裏社会へと踏み込んだらしい。なんとな~く、主人公の男は帰ってこず、しかし彼女は希望を捨てず、彼の戻りを待ち続けるのだろうな。そんなことを予期させる。そしておそらく、この予想は大きくは外れない。
銃兎はDVDのパッケージを手に取り、左馬刻に見せる。
「この演出家の名前に覚えはないか」
「あいにく、Vシネ鑑賞の趣味はねぇからな」
「この男は演出家として独り立ちしてからずっと、極道ものばかり作ってきた。過去のインタビューで語る限りでは、ウケを狙ってではなく純粋にそういった作品がずっと好きだったから、という動機からだ」
「注ぐ愛情と熱意に実力が釣り合わねぇとは、ずいぶんと残酷なこった」
「その愛情と熱意の方向性を見失って、とうとう、筋者に関わっちまったらしい。横浜から東京各所への不審かつ頻回な出入り、自身の伯父名義で購入したマンションの一室は植物園状態。数か月前にふらりと姿を消して、つい先日、遺体で発見された」
「へぇ。で、組織犯罪対策部巡査部長の入間銃兎くんはクソみてぇな三文芝居を見ていらっしゃったわけか」
「そこだけで話がおわりゃ良かったんだがな。ほら、その女」
ちょうど、画面に映った例の女。案の定と言うべきか、主人公の訃報を聞き、はらはらと涙をこぼして、そののち、膝から崩れ落ちた。つい、と伏せられた睫毛に雫がみちて、きらと光った。異様にこだわりの強い彼女の描写が、面倒な事案の裏付けに思えてずきずきと頭が痛む。
「失踪直前、奴が取り組んでいた作品、要は遺作だな。その主演として選ばれていた女優がこの女。噂では、二人は親密な関係にあったとか」