こばなしむかしばなし
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次にその娘と会ったのは、駅近くにあるパン屋の前だった。女の子が持つには大きなリュックサックに黒鞄、それからパン屋の袋を提げてでてきたところを、ちょうど、一郎と鉢合わせた。ばちり、と目が合い、そして怯えられる。苦笑して、どーも。とだけ挨拶をした。そのまま歩き始めた一郎に、こつこつというローファーの足音がついてくる。お?と思ったときには、あの、と、震える声が一郎を呼び止めた。
あまり男と閉鎖空間にいるのはよくないだろう。結局彼女が出てきたパン屋に逆戻りし、イートインスペースにて向き合って座った。なにも注文していない一郎が長々と居座るのも気まずく、紙コップに注がれた水をちびちびと舐める。ここまで、彼女は黙りこくったままだ。どうしたもんか、思いあぐねていると、震える声でふたたび、あの、と声をかけられた。
「……先日は、ありがとうございました」
ずいぶんと、落ち着いて言葉を紡げるようになっている。格好を崩し、一郎は笑うと首を振った。
「むしろ、わざわざありがとう」
「神宮寺先生は、助けてくださった方々のことを教えてくださらなくて。たまたまだけれど、お会いできてよかった」
「気にしなくていいって」
「……助けていただいた以上、ある程度、ご報告をするべきだと思っていました」
水で口を湿らせた彼女は、すぅ、と深呼吸をして、ご報告なるものをした。内容はこうだ。
一郎がボコした男たちは有名な不良少年たちで、あのあと、恐らくは左馬刻がしたのだろう、通報を受けた警察に捕らえられ、現在は鑑別所にいる。示談の交渉を受けているが、両親はそれを頑なに突っぱねているという。
彼女自身は、あのときやってきてくれた寂雷の勧めもあり、彼の病院に通い続け、治療中である。初めはうまく話せなかったが、環境や条件次第ではこうして落ち着いて話すことができるようになったとのこと。親はすっかり心配性になり、いつも駅まで迎えにきてくれるようになり、時間まではこうして時間を潰しているのだと。人目もある場だ。一郎と、彼女だけにわかる言葉選びで、たっぷりと時間をかけてそう伝えられる。それを聞き、一郎は笑みを深めた。
「あのときの俺、怖かっただろう。あいつらみたいに学ラン着てて、怒鳴るわ、殴るわ。そんな俺と、こんだけたくさん話してくれて、ありがとな。それが、俺は嬉しいぜ」
「……たしかに、怖かった、です。最初は、彼らの仲間が来たのかと思ったし、突然喧嘩が始まったから、ますますなにが起こってるかわからなくて……」
「わりぃな、頭に血が上ってた、んだと思う」
「でも、上着を被せてくれたとき、見えた目が、ええと、かっこよくて。そのことに意識が吸い寄せられて、頭にちょっとだけ、余裕ができました」
ふわりと、微笑んだ。かっこいい目、なんていいながら、彼女と視線が合うことはない。ずっと、一郎の首にかかったヘッドホンやら、手にした紙コップやら、そんなところばかり見ている。ただ、その顔が自然で、素朴で、年相応の可愛らしさがあって、一郎はすこしはにかんだ。
「漫画とか、アニメみたいだろ。オッドアイってやつなんだ」
「昔、近所で見た猫も同じような感じでした」
「そうそう、猫に多いらしいぜ。俺のとこは遺伝なのか、兄弟みんなこんな感じなんだ。あ、色はちょっと違うんだけど」
「へぇ、不思議」
それからすこし話して、別れ際、名前と年齢を教えてくれた。牧野霧絵。年齢は、一郎と同い年で、思わず声を上げて驚いた。ずっと、年下だと思っていたのだ。
帰りの電車の中、気になって調べたら、彼女の学校はこれまで有名な私立中学だったのが、h歴に移り変わったとともに、中高一貫校となり、高校生まであの制服らしかった。同い年、同い年かぁ。不良をやっていた一郎に、ああも純朴そうな女の子と話す機会はあまりなかった。有名な私立高校、実年齢より幼く見える外見、笑うと可愛い。それこそ二次元みたいな設定を盛っているな。一度だけ見た彼女の笑顔に、単純にも浮かれてしまった。
あまり男と閉鎖空間にいるのはよくないだろう。結局彼女が出てきたパン屋に逆戻りし、イートインスペースにて向き合って座った。なにも注文していない一郎が長々と居座るのも気まずく、紙コップに注がれた水をちびちびと舐める。ここまで、彼女は黙りこくったままだ。どうしたもんか、思いあぐねていると、震える声でふたたび、あの、と声をかけられた。
「……先日は、ありがとうございました」
ずいぶんと、落ち着いて言葉を紡げるようになっている。格好を崩し、一郎は笑うと首を振った。
「むしろ、わざわざありがとう」
「神宮寺先生は、助けてくださった方々のことを教えてくださらなくて。たまたまだけれど、お会いできてよかった」
「気にしなくていいって」
「……助けていただいた以上、ある程度、ご報告をするべきだと思っていました」
水で口を湿らせた彼女は、すぅ、と深呼吸をして、ご報告なるものをした。内容はこうだ。
一郎がボコした男たちは有名な不良少年たちで、あのあと、恐らくは左馬刻がしたのだろう、通報を受けた警察に捕らえられ、現在は鑑別所にいる。示談の交渉を受けているが、両親はそれを頑なに突っぱねているという。
彼女自身は、あのときやってきてくれた寂雷の勧めもあり、彼の病院に通い続け、治療中である。初めはうまく話せなかったが、環境や条件次第ではこうして落ち着いて話すことができるようになったとのこと。親はすっかり心配性になり、いつも駅まで迎えにきてくれるようになり、時間まではこうして時間を潰しているのだと。人目もある場だ。一郎と、彼女だけにわかる言葉選びで、たっぷりと時間をかけてそう伝えられる。それを聞き、一郎は笑みを深めた。
「あのときの俺、怖かっただろう。あいつらみたいに学ラン着てて、怒鳴るわ、殴るわ。そんな俺と、こんだけたくさん話してくれて、ありがとな。それが、俺は嬉しいぜ」
「……たしかに、怖かった、です。最初は、彼らの仲間が来たのかと思ったし、突然喧嘩が始まったから、ますますなにが起こってるかわからなくて……」
「わりぃな、頭に血が上ってた、んだと思う」
「でも、上着を被せてくれたとき、見えた目が、ええと、かっこよくて。そのことに意識が吸い寄せられて、頭にちょっとだけ、余裕ができました」
ふわりと、微笑んだ。かっこいい目、なんていいながら、彼女と視線が合うことはない。ずっと、一郎の首にかかったヘッドホンやら、手にした紙コップやら、そんなところばかり見ている。ただ、その顔が自然で、素朴で、年相応の可愛らしさがあって、一郎はすこしはにかんだ。
「漫画とか、アニメみたいだろ。オッドアイってやつなんだ」
「昔、近所で見た猫も同じような感じでした」
「そうそう、猫に多いらしいぜ。俺のとこは遺伝なのか、兄弟みんなこんな感じなんだ。あ、色はちょっと違うんだけど」
「へぇ、不思議」
それからすこし話して、別れ際、名前と年齢を教えてくれた。牧野霧絵。年齢は、一郎と同い年で、思わず声を上げて驚いた。ずっと、年下だと思っていたのだ。
帰りの電車の中、気になって調べたら、彼女の学校はこれまで有名な私立中学だったのが、h歴に移り変わったとともに、中高一貫校となり、高校生まであの制服らしかった。同い年、同い年かぁ。不良をやっていた一郎に、ああも純朴そうな女の子と話す機会はあまりなかった。有名な私立高校、実年齢より幼く見える外見、笑うと可愛い。それこそ二次元みたいな設定を盛っているな。一度だけ見た彼女の笑顔に、単純にも浮かれてしまった。