みつけた
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通い慣れた道を歩き、たどり着いたアパートの四階角部屋。家賃の安さに伴ってか、エレベーターが設置されていないので、砂埃と小さな虫たちの群れる外階段を上っていく。一階には管理人さんが住んでいるはずなのだが、高齢ゆえにか、最近は息子夫婦のもとで過ごすことが多いらしく、こういった外階段や廊下なんかは随分と汚れていた。うちで請け負うなら、だいたいこれくらいの値段か、なんて見積もりを出していればあっという間に四階だ。突き当たりまで進み、チャイムを押す。返事はないが、ややあって、鍵が開く音がした。よぉ。片手をあげると、霧絵はやわく笑った。
「こんばんは。夜遅くまでご苦労様」
「なんの。むしろ、遅くにすまねえ」
「あ、虫入るから早く入って」
あっさり招き入れられ、彼女について短い廊下を進む。途中、脱衣所のドアが細く開いており、その向こうから蛍光灯の明かりが漏れ出ていたことから、さきほどまで風呂に入っていたのだろうとあたりをつけた。
「晩御飯食べた?なんていっても出せるのお菓子かパンくらいしかないけど」
「食ってきた」
「そう」
ほい、とクッションを投げ渡されたので、ありがたく頂戴し、その上に腰を下ろす。この部屋にラグはない。一人暮らしを始めたときに余裕がないからと先送りにしたまま、いつまでも買わない。その割に、ついひと月ほど前、一郎に付き添いを頼み、大きな座椅子を買っている。彼女が腰掛けているのがその座椅子で、ずるずると背凭れに体重を預けた。霧絵の髪は長いものだから、いくらかは背凭れの向こう側に引っかかったままだ。ぼんやりとした視線は、つきっぱなしのテレビがやっている深夜帯のバラエティ番組に向いている。一郎の視線が自身に向いたままだからだろう。居心地悪そうにもぞもぞとしてから、霧絵は一郎を見つめた。
「……なに」
「いや、髪、伸びたなと思ってさ」
「……そっかな?」
「初めて会ったときはこう、肩の下らへんだっただろ」
「まぁ、たしかに」
「伸ばしてんの?」
「美容院行くお金と時間がもったいないと思ってるだけだよ」
「ふぅん」
一郎が手を伸ばすと、その指先が纏う色に気がついたのだろう。わずかに唇を噛み、視線を逸らす。髪を一房攫い、触れる。やわらかなそれは毛先がまだわずかに湿っていて、かさついた一郎のそれをしっとりと濡らした。そっと唇を寄せる。いよいよ顔を赤くしたさまを笑うと、じゃじゃ馬な足が一郎の横っ腹を膝で蹴った。
「……来てすぐに」
「雰囲気もなにもなかったのは悪かったって」
「…………」
「ひさびさだから」
いい?目だけで尋ねると、長い睫毛がふるふると震え、俯いた。顎をすくい、唇をやわく押し当てる。擦れると、自分とは違う温度がよくよく伝わってくる。身を乗り出し、覆いかぶさる一郎の下で素足がもぞもぞと動き、ややあって、小さな手が一郎のうなじに絡んだ。調子づき、大きく唇を食むと霧絵は控えめに口を開いた。ぬるりと滑り込む舌に、細い喉の奥からん、と声が漏れ出たさまに、全身の毛が立つかのような興奮を覚える。座椅子の背を押し倒し、乗り上げる。長い髪が床に散って、ひどく、うつくしい。触れるだけの口づけを残し、一度離れると、口の周りを濡らした霧絵が、ぐいと指で拭った。
「……髪の毛さ」
「うん?」
「前の一郎の推しが長かったから、伸ばしてたんだよ」
「……は?」
「今はどうか知らないけど」
してやったり、という顔で笑いながらも、その頬は真っ赤なままで。一郎は興奮をそのままに、再び、霧絵の体に覆い被さった。
「こんばんは。夜遅くまでご苦労様」
「なんの。むしろ、遅くにすまねえ」
「あ、虫入るから早く入って」
あっさり招き入れられ、彼女について短い廊下を進む。途中、脱衣所のドアが細く開いており、その向こうから蛍光灯の明かりが漏れ出ていたことから、さきほどまで風呂に入っていたのだろうとあたりをつけた。
「晩御飯食べた?なんていっても出せるのお菓子かパンくらいしかないけど」
「食ってきた」
「そう」
ほい、とクッションを投げ渡されたので、ありがたく頂戴し、その上に腰を下ろす。この部屋にラグはない。一人暮らしを始めたときに余裕がないからと先送りにしたまま、いつまでも買わない。その割に、ついひと月ほど前、一郎に付き添いを頼み、大きな座椅子を買っている。彼女が腰掛けているのがその座椅子で、ずるずると背凭れに体重を預けた。霧絵の髪は長いものだから、いくらかは背凭れの向こう側に引っかかったままだ。ぼんやりとした視線は、つきっぱなしのテレビがやっている深夜帯のバラエティ番組に向いている。一郎の視線が自身に向いたままだからだろう。居心地悪そうにもぞもぞとしてから、霧絵は一郎を見つめた。
「……なに」
「いや、髪、伸びたなと思ってさ」
「……そっかな?」
「初めて会ったときはこう、肩の下らへんだっただろ」
「まぁ、たしかに」
「伸ばしてんの?」
「美容院行くお金と時間がもったいないと思ってるだけだよ」
「ふぅん」
一郎が手を伸ばすと、その指先が纏う色に気がついたのだろう。わずかに唇を噛み、視線を逸らす。髪を一房攫い、触れる。やわらかなそれは毛先がまだわずかに湿っていて、かさついた一郎のそれをしっとりと濡らした。そっと唇を寄せる。いよいよ顔を赤くしたさまを笑うと、じゃじゃ馬な足が一郎の横っ腹を膝で蹴った。
「……来てすぐに」
「雰囲気もなにもなかったのは悪かったって」
「…………」
「ひさびさだから」
いい?目だけで尋ねると、長い睫毛がふるふると震え、俯いた。顎をすくい、唇をやわく押し当てる。擦れると、自分とは違う温度がよくよく伝わってくる。身を乗り出し、覆いかぶさる一郎の下で素足がもぞもぞと動き、ややあって、小さな手が一郎のうなじに絡んだ。調子づき、大きく唇を食むと霧絵は控えめに口を開いた。ぬるりと滑り込む舌に、細い喉の奥からん、と声が漏れ出たさまに、全身の毛が立つかのような興奮を覚える。座椅子の背を押し倒し、乗り上げる。長い髪が床に散って、ひどく、うつくしい。触れるだけの口づけを残し、一度離れると、口の周りを濡らした霧絵が、ぐいと指で拭った。
「……髪の毛さ」
「うん?」
「前の一郎の推しが長かったから、伸ばしてたんだよ」
「……は?」
「今はどうか知らないけど」
してやったり、という顔で笑いながらも、その頬は真っ赤なままで。一郎は興奮をそのままに、再び、霧絵の体に覆い被さった。