一歩前進
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にいちゃんじゃん。ハンバーガーショップのレジに並んでいたとき、そう声をあげて二郎が駆け寄ってきた。見れば、おそらくはダチと思しき制服姿の男たちがわらわらと歩いている。一郎の陰に隠れていた霧絵はわずかに強張ったが、同時に受け取ったトレイにどうしていいかわからず、すこしワタワタしていた。
「ん、あれ、そのひと」
「うえ、あ、こんにちは」
「牧野さん。えーと、寂雷さんの依頼でちょっとの間送迎を頼まれてるひとだ」
「へぇ、あ、ちわッス、山田二郎です」
「おーいじろ~、おまえたこ焼きどうすんだよ~」
「今日はパス!わりぃな!」
突然のことに若干目を回しているらしい霧絵に、一郎はこっそり笑った。
「え、月見バーガー食べたことなかったの」
「あ、はい。あんまり、ハンバーガー屋さんに入ったことなくて」
「マジかよ。まあ見るからにお嬢様だもんな」
「おい二郎、あんま食いすぎんなよ」
「わかってるよにいちゃん」
脂っこさに顔を顰め、静かに一郎の方に押しやったポテトをありがたく頂戴し、二郎とふたりで摘まむ。必死にもきゅもきゅとハンバーガーを食んでいた霧絵は、ベーコンが噛み切れなかったらしい。はぐはぐと食べすすめていくさまが、葉っぱを食べるネズミかうさぎのようだった。紙ナプキンに広げたポテトのカリカリしたのばかりを食べる二郎はじぃ、と霧絵を見つめ続けている。
「牧野さんはどういう経緯で、にいちゃんと飯食うことになったの?」
「おい二郎」
「えっと、……前、この駅で私が困ってたところを、二度、山田さんに助けてもらって。私が通っている病院の先生と知り合いだったこともあって、両親が迎えに来れない日だけ、送ってもらっているんです」
「そっかぁ、大変だったんだね……でも、にいちゃんがいれば心強いだろ!」
「はい、とても」
その誤魔化し方に、何か言われたらいつもそう返しているのだな、と感じた。事実、二郎は霧絵が病気か怪我で生活に支障をきたしていると捉えたらしかった。オレンジジュースを啜った霧絵は、トレイの上に乗せたハンバーガーの包み紙を丁寧に折りたたみ、手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「月見バーガーはどうだった?」
「美味しかったです。また食べたいです」
「次の通院日までやってっかな。牧野さん、次何日だっけ?」
「三週間後の今日です」
「あ、もう終わってるかも」
残念です。そう苦笑いした顔をポテトと一緒に噛みしめて、立ち上がる。そろそろ両親の迎えが来る時間だった。何も言わずついてきた二郎は取り留めもないことを話しかけ続ける。毒気を抜かれたのだろう。霧絵にしてはすんなりと、警戒を解いていた。
では、さようなら。
いつもの場所から車に乗り込んだ彼女は、笑って手を振ってくれた。それを一郎の後ろからじっと眺めていた二郎は、腕を降ろした一郎にそっと、尋ねる。
「……半年前の暴行事件、助けたのにいちゃんだったんだ」
「……どうしてそう思った?」
「俺のダチに、主犯格のやつと同じ小学校だった奴がいて、犯人側の連中の学校と、被害者の学校は特定済みだったんだよ。で、あの子、半年前の事件の被害者と同じ学校で、同じ駅を使ってる。しかも、利用者の多い駅なのに、親は最寄り駅までしか迎えに来ないってことは、足なんかの怪我とかで困ってるんじゃなくて、ある程度ひとりで移動はできる。けれど、駅から自宅までは安心できないってことじゃないかなって考えたら、あの子が被害者なのかなって。……男に襲われた女の子が、同じくらいの年頃のにいちゃんは信頼してるってことは、その子にとってにいちゃんはよっぽど強烈な印象、しかもポジティブなのを抱いてないと無理かなって思って、その他諸々の情報あわせたら、やっぱり、いちにいが助けたんじゃないかなと」
「……すげえぞ二郎。驚いた」
名探偵と言わんばかりの推理を見せた二郎の頭を撫でまわす。嬉しそうに笑う二郎に今日の夕飯のリクエストを聞いた。ドライカレー。元気に跳ねた声に笑みをこぼす。
「つーわけで、木曜日は牧野さんの送り迎えやるから、こんぐらいの時間になる」
「オーケイ!」
「あと、牧野さん、俺と同い年だからお前より年上だぞ」
「え?」
「ん、あれ、そのひと」
「うえ、あ、こんにちは」
「牧野さん。えーと、寂雷さんの依頼でちょっとの間送迎を頼まれてるひとだ」
「へぇ、あ、ちわッス、山田二郎です」
「おーいじろ~、おまえたこ焼きどうすんだよ~」
「今日はパス!わりぃな!」
突然のことに若干目を回しているらしい霧絵に、一郎はこっそり笑った。
「え、月見バーガー食べたことなかったの」
「あ、はい。あんまり、ハンバーガー屋さんに入ったことなくて」
「マジかよ。まあ見るからにお嬢様だもんな」
「おい二郎、あんま食いすぎんなよ」
「わかってるよにいちゃん」
脂っこさに顔を顰め、静かに一郎の方に押しやったポテトをありがたく頂戴し、二郎とふたりで摘まむ。必死にもきゅもきゅとハンバーガーを食んでいた霧絵は、ベーコンが噛み切れなかったらしい。はぐはぐと食べすすめていくさまが、葉っぱを食べるネズミかうさぎのようだった。紙ナプキンに広げたポテトのカリカリしたのばかりを食べる二郎はじぃ、と霧絵を見つめ続けている。
「牧野さんはどういう経緯で、にいちゃんと飯食うことになったの?」
「おい二郎」
「えっと、……前、この駅で私が困ってたところを、二度、山田さんに助けてもらって。私が通っている病院の先生と知り合いだったこともあって、両親が迎えに来れない日だけ、送ってもらっているんです」
「そっかぁ、大変だったんだね……でも、にいちゃんがいれば心強いだろ!」
「はい、とても」
その誤魔化し方に、何か言われたらいつもそう返しているのだな、と感じた。事実、二郎は霧絵が病気か怪我で生活に支障をきたしていると捉えたらしかった。オレンジジュースを啜った霧絵は、トレイの上に乗せたハンバーガーの包み紙を丁寧に折りたたみ、手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「月見バーガーはどうだった?」
「美味しかったです。また食べたいです」
「次の通院日までやってっかな。牧野さん、次何日だっけ?」
「三週間後の今日です」
「あ、もう終わってるかも」
残念です。そう苦笑いした顔をポテトと一緒に噛みしめて、立ち上がる。そろそろ両親の迎えが来る時間だった。何も言わずついてきた二郎は取り留めもないことを話しかけ続ける。毒気を抜かれたのだろう。霧絵にしてはすんなりと、警戒を解いていた。
では、さようなら。
いつもの場所から車に乗り込んだ彼女は、笑って手を振ってくれた。それを一郎の後ろからじっと眺めていた二郎は、腕を降ろした一郎にそっと、尋ねる。
「……半年前の暴行事件、助けたのにいちゃんだったんだ」
「……どうしてそう思った?」
「俺のダチに、主犯格のやつと同じ小学校だった奴がいて、犯人側の連中の学校と、被害者の学校は特定済みだったんだよ。で、あの子、半年前の事件の被害者と同じ学校で、同じ駅を使ってる。しかも、利用者の多い駅なのに、親は最寄り駅までしか迎えに来ないってことは、足なんかの怪我とかで困ってるんじゃなくて、ある程度ひとりで移動はできる。けれど、駅から自宅までは安心できないってことじゃないかなって考えたら、あの子が被害者なのかなって。……男に襲われた女の子が、同じくらいの年頃のにいちゃんは信頼してるってことは、その子にとってにいちゃんはよっぽど強烈な印象、しかもポジティブなのを抱いてないと無理かなって思って、その他諸々の情報あわせたら、やっぱり、いちにいが助けたんじゃないかなと」
「……すげえぞ二郎。驚いた」
名探偵と言わんばかりの推理を見せた二郎の頭を撫でまわす。嬉しそうに笑う二郎に今日の夕飯のリクエストを聞いた。ドライカレー。元気に跳ねた声に笑みをこぼす。
「つーわけで、木曜日は牧野さんの送り迎えやるから、こんぐらいの時間になる」
「オーケイ!」
「あと、牧野さん、俺と同い年だからお前より年上だぞ」
「え?」