だらだら
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洗面所で髪を指で梳き、思わず笑ってしまう。長く続いていた雨は上がり久々の快晴。試供品だともらったヘアパックのお陰で髪のコンディションは最高潮。最高の指通りだ。るんるんで部屋に戻り、ヘアアイロンの電源を入れる。今日こそは巻くと決めていたのだ。ついでに服も、先日買ったばかりのものをクローゼットから引っ張り出し、ピアスは一番のお気に入りを。別段、なにか特別な用事があるわけではない。いつも通りだ。ただ、テンションが上がっているのだ。
「……暑苦しそうだな」
「…………はい」
朝活と称し用事をさっさと片付けた昼下がり。午後休と言っていた一郎は霧絵の自宅で呑気にラノベを読んでいた。お帰りの次に出てきた言葉がそれだったので、すこしだけ弱気になっていた心は素直に返事をしてしまった。彼が立ち退いたお気に入りの座椅子に滑り込み、濁点付きの声で暑い、と唸った。
「お前、なんで今日に限って髪おろしてんだよ」
「今日髪の調子めっちゃよかったんだもの……。ずっと雨続きだったから、久々に巻きたかったんだもの……」
「晴れたんだからそら暑いだろうよ。しかも、こんな真昼間に」
「反省はしてるよぉ……後悔は微妙だけど」
暑い。すっかり茹だった体はもうここから動きたくないと言っている。ただ、首筋にはりつく髪が不快で仕方ない。寝転がったままテーブルに手を伸ばし、朝放置したままであるはずのヘアクリップを探す。これか、と手に取ったのは昨日使ったマーカーペンである。ため息を吐きたくなったが、起き上がる気力はすっかりすり減っている。寝転がったまま、かんざしの要領で、ペンに髪を巻きつけ、まとめ上げる。たしかに上がっていたはずのテンションはずいぶんと落ち着いてしまった。もう家から出る予定もない。もういいや、とすっかり溶けた気持ちが体をどんどんとだらしない方向へといざなう。
「服、皺になんぞ~」
「…………」
「服皺にしていまだらだらするか、一分そこら頑張って着替えてからだらだらするか」
「……起きますよ」
だらだら起き上がって、脱衣所に向かう。色気も何もなく服を脱いで、洗濯籠に放り込む。適当極まりない部屋着に着替えていると、廊下でなにやら一郎が食器を触っていた。彼が持つのはお気に入りのグラスで、冷蔵庫から一本のペットボトルを取り出した。
「買ってきた」
「……夏だぁ」
「夏だよ、今は」
サイダーをなみなみ注いで、部屋に戻る。よくよく冷房の効いた部屋は気持ちが良くて、息を吐く。座椅子に座って一気に呷ったサイダーはするりと喉を冷やした。
ふと、一郎の手が伸びた。なんだ、と思いじっとしていると、軽く髪が引っ張られる感覚。あ、と思ったときにはするりと髪がほどけた。
「……シャンプーのCMじゃん」
「言ったじゃん、今日髪の調子めっちゃいいって」
「これ一本で髪まとまるんだな」
「かんざしの要領でね」
「教えてくれ」
「なんでよ」
「やってみたい」
「汗かいてるからやだ」
「今更だろ」
「……一郎がこれ以上ヘアセット覚えたら、いよいよ私の取り柄なくなるんだけど」
「んなこたねぇだろ」
「現に、浴衣の着付けも、まとめ髪もできるじゃん」
「好奇心旺盛なんだよ俺は」
「知らないよ」
まぁまぁといなされ、髪に指を通される。たぶん、二回やったら完璧になるんだろうな。器用な男にため息をついて、テーブルの上に伏した。
「……暑苦しそうだな」
「…………はい」
朝活と称し用事をさっさと片付けた昼下がり。午後休と言っていた一郎は霧絵の自宅で呑気にラノベを読んでいた。お帰りの次に出てきた言葉がそれだったので、すこしだけ弱気になっていた心は素直に返事をしてしまった。彼が立ち退いたお気に入りの座椅子に滑り込み、濁点付きの声で暑い、と唸った。
「お前、なんで今日に限って髪おろしてんだよ」
「今日髪の調子めっちゃよかったんだもの……。ずっと雨続きだったから、久々に巻きたかったんだもの……」
「晴れたんだからそら暑いだろうよ。しかも、こんな真昼間に」
「反省はしてるよぉ……後悔は微妙だけど」
暑い。すっかり茹だった体はもうここから動きたくないと言っている。ただ、首筋にはりつく髪が不快で仕方ない。寝転がったままテーブルに手を伸ばし、朝放置したままであるはずのヘアクリップを探す。これか、と手に取ったのは昨日使ったマーカーペンである。ため息を吐きたくなったが、起き上がる気力はすっかりすり減っている。寝転がったまま、かんざしの要領で、ペンに髪を巻きつけ、まとめ上げる。たしかに上がっていたはずのテンションはずいぶんと落ち着いてしまった。もう家から出る予定もない。もういいや、とすっかり溶けた気持ちが体をどんどんとだらしない方向へといざなう。
「服、皺になんぞ~」
「…………」
「服皺にしていまだらだらするか、一分そこら頑張って着替えてからだらだらするか」
「……起きますよ」
だらだら起き上がって、脱衣所に向かう。色気も何もなく服を脱いで、洗濯籠に放り込む。適当極まりない部屋着に着替えていると、廊下でなにやら一郎が食器を触っていた。彼が持つのはお気に入りのグラスで、冷蔵庫から一本のペットボトルを取り出した。
「買ってきた」
「……夏だぁ」
「夏だよ、今は」
サイダーをなみなみ注いで、部屋に戻る。よくよく冷房の効いた部屋は気持ちが良くて、息を吐く。座椅子に座って一気に呷ったサイダーはするりと喉を冷やした。
ふと、一郎の手が伸びた。なんだ、と思いじっとしていると、軽く髪が引っ張られる感覚。あ、と思ったときにはするりと髪がほどけた。
「……シャンプーのCMじゃん」
「言ったじゃん、今日髪の調子めっちゃいいって」
「これ一本で髪まとまるんだな」
「かんざしの要領でね」
「教えてくれ」
「なんでよ」
「やってみたい」
「汗かいてるからやだ」
「今更だろ」
「……一郎がこれ以上ヘアセット覚えたら、いよいよ私の取り柄なくなるんだけど」
「んなこたねぇだろ」
「現に、浴衣の着付けも、まとめ髪もできるじゃん」
「好奇心旺盛なんだよ俺は」
「知らないよ」
まぁまぁといなされ、髪に指を通される。たぶん、二回やったら完璧になるんだろうな。器用な男にため息をついて、テーブルの上に伏した。