本当に、困った娘だ。仙道は右手で彼女の左手を握った。流石にこれには後藤も驚いた様で、目を丸くして仙道を見た。そんな焦った後藤を見る事はなかなか無い。

「じゃあ、５番に取られる前に俺が立候補しても良いかな？」
「え、あ、仙道、？」
「俺だって夢叶ちゃんの好きな感じだよね。背が高くて、爽やかで。」
「何言ってんの、」
「夢叶ちゃん、俺が頑張ってたの分かってたよね。ずっと。」

後藤はほんのりと頬を染めつつ視線を下へ戻した。そんな彼女を追う様に、仙道は反対の手で後藤の顎に手を掛けると優しく自身の方へ向かせる。

「夢叶ちゃん、大好きだよ。」
「ばーか。」

後藤はパチ、と軽く顎元の仙道の手を払った。そして立ち上がると、いつもの様に意地悪く笑う。

「また明日ね、仙道。」

扉が開いて、風の如く彼女は降車駅へと。また彼女を逃してしまった。やられた、と仙道は自嘲気味に笑う。しかし今日は収穫があった。彼女も、少なからず、自分に好意を抱いている事。そして、この想いの伝え方は不正解だったと言う事。彼女を手にするには、もう少し時間が掛かりそう。面白いじゃないか、やってやる。と仙道はゆるり口角を持ち上げる。

右手はまだ彼女の感触を覚えて居る。逃さぬ様に、ぎゅっと握り締めると一駅先の降車駅に着いた。また明日、今度はどんな方法で彼女にアプローチをしようかな。

「薔薇の花でも贈ってみようか。」

Fin.