仙道クラスにもなれば、女の子選び放題じゃん。と昼休みにクラスメイトに言われた言葉をふと思い出した。陵南イチのプレイボーイと名高い仙道だが、今は意中の彼女に振り向いて貰おうと必死だ。

「ねえ夢叶ちゃん。英語のノート貸してくんない？」

仙道は、前の席に座る、陵南男子バスケ部マネージャーである後藤夢叶に声を掛ける。勿論、答えはノーだ。

「ダメ。仙道が勉強しなくなるじゃん。」
「夢叶ちゃんの見て勉強する。」
「魚住さんにバラしちゃお。」
「それは勘弁。」

振り返ると、にひひと彼女は悪戯っぽく笑って見せる。ああ、やられた。そんな彼女のころころ変わる表情に、仙道の心臓は何度撃ち抜かれた事か。

「実を言うとね、魚住さんと田岡監督に止められてるの。仙道にノートを貸すなって。だから越野も植草も、もう貸してくれないからね。」

それはそれは。いわゆる四面楚歌という奴だろうか。主将と監督の指示であれば、後藤も越野も植草も絶対貸してくれないだろう。仙道は久し振りに嫌な汗をかきそうになった。

「それは酷いなあ。」
「ま、仙道相手なら女の子は誰だって喜んで貸してくれんじゃないの。」
「女の子のノートなら俺は夢叶ちゃんのが良いんだけど。」
「だーめ。私は貸せません。」
「夢叶ちゃん。」
「そんな顔してもダメです。」

きゅる、と眉を八の字にしてみても彼女は動じない。寧ろ２人で顔を見合わせ吹き出してしまう始末だ。そんな楽しい２人の時間を遮る様に、６時間目授業開始のチャイムが鳴り響いた。