明らかに部員では無い男たち数人が、土足のまま体育館に乗り込んで来る。フロアは静まり返り、全員の視線が彼らに集まった。

「なんで…ッ、」

宮城が苦渋に顔を歪ませる。その中の男の一人は「バスケ部をぶっ潰す」などと言っている。何が起きているのか把握出来ないのは後藤だけでは無かった様だ。全員が呆然と立ち竦み、それを良い事に男たちは好き勝手暴れ、部員へも手を出し始めた。

「…どういう事」
「危ねえから下がってろ、後藤。」
「それはアンタもでしょ。」

その矢先、一人が流川の腹部へ拳を捻じ込み、流川は堪らず咳き込む。その瞬間に目の色を変えた流川は殴り返し、それが合図になったのか、宮城、桜木、と順番に復讐が始まった。その場はとても見ていられなく、後藤は目を伏せた。しかし、続いて聞こえた鈍い音。息が止まった。

「…流川！」

流川は頭から血を流し、その場に倒れ込んだ。すぐさま怪我の無い部員達で彼の体をコートの端へ引き摺り治療を施す。彩子は素早く救急箱から様々な道具を取り出し、流川の出血を止めようと必死だ。しかし、後藤は何も出来ずに震える自分の手を堪える事で精一杯だった。

「流川、聞こえる？」
「…先輩、」
「ホント馬鹿じゃないの！？血止まるまでそこで大人しくしてなさい、動くんじゃ無いわよ！」
「あ、彩子さん…私…ッ、」
「夢叶ちゃん、流川のタオルを持って来てくれる？頭の下に敷くから。」
「はい！」
「青、」

言われた通り、青いタオルを探して後藤は彩子に差し出す。流川の治療も落ち着いて来た頃、後藤の耳に疑い深い言葉が潜り込んで来たのだった。

「三井は、バスケ部なんだ。」
「俺らの世代で、武石中の三井寿を知らない選手は居なかったよ。」