後藤と流川が出会ったのは、選抜の練習の時だった。１年生の時からスーパールーキーと呼ばれていた２人は、中学こそ違えど、３年間を通して同じ空間でバスケをする事は多々あったのだ。流川の良く知る後藤は、自信に満ち溢れた女子選手だった。163センチという、女子の中では恵まれた身長を活かした派手でパワフルな、それでいて華麗なプレイは観客のみならず敵チームをも魅了した。しかし、彼女の強さはそれだけでは無い。スリーポイントを打たせれば、県内で彼女の右に出るプレイヤー居なかった。中からも外からも。流川の中学の女子チームも、彼女は手に負えないと嘆いていた。

流川は、そんな後藤のプレイスタイルに何処か惹かれていた。だから、突然バスケを手放した彼女に対して怒りにも似た気持ちを覚えた。しかし、流川だってただの馬鹿では無い。理由も分かっていた、原因は全中の決勝戦。後藤はゲーム終了寸前の、ブザービートのスリーポイントを外した。そして、武石中女子バスケットボール部は優勝を逃した。

「どあほう。」

ウィンターカップで、また彼女のプレイが見られると思っていた。彼女の居ない武石中女子バスケ部のゲームは淡々としていて、大きな展開も無く、当たり前の様に勝ち進んだが、決勝リーグ常連の看板を下ろす事になった。選手の顔に以前の様な輝きは見られなかったのだ。キャプテンの後藤がゲームメーカーでありムードメーカーであったのは明らかだった。

プレイヤーが嫌なら、マネージャーをやれば良い。それが流川の考えだった。何としてでも彼女をバスケに繋ぎ止めておきたかった。後藤がどんなにバスケを愛していたか、それを流川は理解していた。何せ、中央選抜、県選抜、関東選抜、全国選抜、と１年の頃からずっと２人で、周りのプレッシャーに押し潰されそうになりながらも神奈川県代表を背負って来たからだ。ポジティブで明るい彼女に、幾ら助けられたか。流川はそれをエゴだと分かりつつも、後藤にもう一度戻って来て欲しかった。