本日２回目だ。自然と頬を伝う涙を乾かすかの様に、屋上の風が優しく頬を撫でる。後藤は、体育館を後にしたのは良いものの、なぜか帰宅するには至れずに、校舎の屋上に足を運んで居た。

「後藤」

聞こえた声に、心臓が跳ね上がる。反射的に勢い良く振り返ると、そこには殴り殴られボロボロになった三井の姿があった。後藤を前に、三井は頭を下げると、殴ってしまった事を謝罪し、自分がこうなってしまった経緯や原因、水戸達が自分を庇ってくれた事、そして、バスケ部に戻る事。何一つ隠さず、後藤に全部話した。

「許してくれとは言わない。後藤を失望させてしまったと思う。…だが、俺は、
「先輩、これからもちゃんと私の先輩で居てくださいね。」

後藤は三井を真っ直ぐ見詰め、優しい笑みを浮かべる。その姿は三井の良く知る後藤とは一味違って、大人びて居た。胸の中に些か形容し難い感情が芽生えた事を、三井は気付かないふりをすると決めたのだった。

「あーあ、お腹空いたなあ。」
「ッハ。奢れってか？生意気だな。」
「あれ、人を殴っといて良く言えますね、先輩？」
「…参った。」
「勝った。」

　懐かしい、この感じ。三井と後藤は二人肩を並べながら、校門を出て少しの所にあるファミレスに入った。空白の２年間を埋める様に、他愛ない事を話した。そして、後藤はもうバスケをやらない事を三井に伝えた。

「でもそれは自分を責める必要は無いんじゃないか？」
「そうじゃないんです。私が自分をどうしても許せないんです。だけど、もしここでマネージャーをして、精一杯の事出来たら、少しは自分に対しての罪滅ぼしになるんじゃないかなって。」
「そうか。…そんな辛い時に支えてやれなくてすまん。俺は本当に何をしていたんだ、その間。」
「あー、先輩！この話はお終い！しっかり反省して気持ち切り替えていきましょ。」

三井は、心底自分が憎たらしくてしょうがなくなった。後藤と離れて居た２年間、自分が何をして来たのか。バスケを手放した自分に何も残りっこなかったのに。

「後藤、先輩からのアドバイスだ。」
「アドバイス？」
「後藤のこの選択は間違って無い。どんな形だとしても、バスケを手放すな。後悔する。俺の様になりたく無かったら、このままマネージャーを続けてくれ。」

力強い三井の眼差しに、自分の知る三井が帰って来たと後藤は安心した。アンサーとして、後藤も強く頷き返すと意地悪く笑いながら「先輩みたいにはなりたく無いですしね。」と付け加えた。

「相変わらず、生意気な後輩だ。」